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ようこそファムズへ



プリッセを走らせること数時間。

ふわふわかつシルキーな毛並みに包まれての走行は最高だったが。

いかんせん、2人乗り用のくらではなかったので下半身への衝撃しょうげきが半端なかった。




それでもかなり配慮はいりょしてくれたんだろう。

痛みはすぐに治まったし、乗り物酔いもしなかった。

なにより乗り心地は良かったのだ。

犬に乗って思いきり走るというある意味夢のような体験が出来たのだから、痛みなど気にしていられない。




それに今も目まぐるしく変わっているせっかくの異世界の景色を、自分の目で見れないことがもったいないと思ったのだ。

もろもろのことは少しの間忘れ、真琴は目の前に広がる世界を見た。




森を抜けたらしばらくは荒れ地が広がっていて、おそらくここが塩害えんがいがある土地なんだろう。

そこからさらに先に進むと見渡しても終わりが見えない、目にも鮮やかな緑の大地が広がっている。つまりは農地だ。

広大な土地とは聞いてはいたが、あまりにも広い。

国の8割が農地と言われてもおかしくなかった。




その農地を通り抜けると、ようやく国の市街地の入口が見えてくる。

プリッセは目立つからフリーパスで通れると事前に聞いていたとはいえ、スピードを落とすことなく門を通過つうかするのはどうなのか。

アクビをしていた兵士が驚きのあまりあごが外れたと叫んでいた、平和なことだ。




そしてそこからは一直線。

早朝とはいえ人も歩いているだろうに、プリッセは持ち前の嗅覚きゅうかくで気配をぎ分け上手く人を避け道を進んでいく。

そんな状況に慣れていない真琴はハラハラしっぱなしだったが、誰かをくこともなく無事に目的地に到着した。




「プリッセ、良い子。後でご褒美をあげようね」


「す、凄かった…!!」


「なんだかいつもより張りきってたみたいだ。おかげで予想以上に早く帰ってこれたよ」


「ここが…カイトの住んでるお城……」




真琴は異世界初のお城……カイトが住まうファーマ城の門前に降り立った。





「オルカイト様!!」


「オルカイト様がお帰りになったぞー!!王太子殿下にお知らせするんだ!!」


「よくぞご無事で……!」




門前には見張りの兵士だけでなく、多くの使用人たちが目の下にクマをこさえて立っていた。

中には毛布にくるまれ眠っていた者もいたが、人々の歓声に驚いて目を覚ましカイトの姿を確認して泣き出してしまう。




この光景を見ただけで、カイトがどれだけ多くの人々に好かれているのかわかる。

プリッセと一緒に置いてけぼりを食らっていると、ふとカイトが振り返った。




「マート」




花が咲くような笑顔で、真琴の元へ駆け寄っていく。

その光景を目の当たりにした使用人たちは、瞬時に理解した。

オルカイト様が長年恋焦がれ求めていたお方を、ようやく見つけてきたのだと。




そして無言で頷き合い、使用人のほとんどは目にも止まらぬ速さで城の中に駆け出していく。

それとは入れ替わりに、王太子夫妻が慌てた様子で城内からやって来た。




「カイト!!」


「兄上!」


「どれだけ心配したと思っているんだ!無事で良かったっ……」




カイトの姿を見つけた途端に思いきり抱きしめた王太子、オルフェウス・ファムズは目じりに涙を浮かべながらしきりに無事を喜ぶ言葉をつむぐ。

背後に控えている王太子妃のフランティーヌも、義理の弟の無事の帰還に喜びの涙を浮かべていた。




「兄上、兄上!お喜びください、天は我らに味方をしている証を連れて帰ってきました」


「……お前にばかり負担を強いてしまい、申し訳なく思っている。だがな、そう都合よくなることがあれば我々はここまで苦労していない」


「その苦労をねぎらう為の解決策です!ご紹介します、私の伴侶のマートです」


「………………………………………………とりあえず、城内に入ろう」





輝かしい黄金の髪に蜂蜜色の瞳の美丈夫は、そのまばゆい美貌を曇らせる勢いで鎮痛ちんつうな表情を見せると。

場を変えるという言葉を絞り出すのが精一杯とでも言いたげに、重い重いため息を吐き出すのだった。




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