51話.マクラ VS フェルミナ
※前話に続き、スピナ目線です。
2戦目もまた、激しい戦いだった。
蜘蛛の王が自身の体から糸を展開する。
スピナは一体どこからこれだけの膨大な量の糸が出てくるのかと疑問に思う。
それはまるで糸の津波のようだった。
洪水のように蜘蛛の王の体から溢れ出し、波のように広がって、全体から怪鳥王を捉えようとする。
怪鳥王は腕だけ人化を解除し、半分鳥の姿になって空に飛び上がり、糸をかわす。
その姿は、ハーピィという腕が鳥の魔獣と同じ特徴だ。
糸は縦横無尽にを追うが、怪鳥王は神速とも呼べる超スピードで空を飛び、糸を回避する。
「出せる糸の量が随分増えたじゃない」
「そっちこそ、また速くなったんやね」
2人が話す声がここからでも聞こえてきた。
状況的には、怪鳥王の方が不利に思えた。
あの大量の糸を突破するのは不可能に思えたからだ。
「大風刃!」
怪鳥王が羽を思い切り羽ばたかせる。
すると、巨大なカマイタチのような斬撃が生まれ、
大量の糸を切り裂いていく。
蜘蛛の王は避けるが、よけきれず、斬撃のひとつが彼女の肩を切り裂く。
「チッ」
蜘蛛の王は舌打ちをする。
怪鳥王は魔法の風の刃を止めずに、翼を振り続けた。
蜘蛛の王も人化を解いた。
下半身が蜘蛛の姿になり、足が6本になる。
他の魔獣四王と違い、蜘蛛の王は小柄な魔物だ。
その体躯は、下半身の蜘蛛の体が加算されても2.5メートルくらいだろうか。
だが、蜘蛛の王から感じ取れる重厚な威圧感、オーラのようなものは、他の魔獣四王と比べてもなんら遜色なかった。
なんなら、禍々しさで言えば蜘蛛の王が1番上なくらいだ。
本来の魔獣フォルムに戻ったことで蜘蛛の王のスピードが跳ね上がったようにスピナには見えた。
先程よけきれていなかった怪鳥王の風の刃を完璧にかわしている。
だが、そのカマイタチは、蜘蛛の王に当たらずとも彼女の糸を粉々になるまで切り刻んだ。
怪鳥王は、再び人化の術を自身の体にかけた。そして、人間の姿で切れた糸の合間を縫うように飛行し突っ込んでいく。
恐らく巨大な鳥の姿では、近づくだけで蜘蛛の王に簡単に捕まってしまうと判断したのだろう。
だが、人の体になってしまえば、基礎能力が落ちるではないかとスピナは考えた。
だが、昔聞いたことを思い出し、考えを改める。
今回のように、多少力が落ちたとしても戦闘中人化の術を使う魔獣は、実は多いと聞いたことがあるのだ。
それは、巨大な魔獣であればあるほど的が大きくなり、かえって不利になるパターンも多いからだ。
その点、人の姿ならば体も小さくなり、動きに小回りを効かせられるようにできる。
そのため、人化の術はその力をできるだけ損なわず人の姿で戦えるようにS級魔獣の間で研鑽が積み重ねられてきたらしい。
それでもS級魔獣の間でも力を落とさず人化の術を使えるのは、ごく一部だけだが。
大抵は、人化の術を使うと力が大きく落ちる。
だが、魔獣四王は全員(龍王を除いて)その力をほとんど損なう事なく、人化の術を使う技術があるようだ。
鳥のフォルムでなくなっても、信じられないほどのスピードで、怪鳥王は蜘蛛の王に突っ込んでいった。
腕の翼でまさに神速とも呼べる飛行速度で移動する怪鳥王を捉える事は、
スピナにはできなかった。
その瞬間に何が起こったのか知覚することすらできない。
一瞬途轍もない爆風が起こり、目を逸らす。
自分とは、次元が違う生物としての格にスピナは改めて恐怖する。
あんな化け物ともし敵対したとして、勝てるどころか対抗できるはずもない。
自分にこの化け物たちの情報収集の命を与えた主人はどう考えているのだろうか。
人間側にも自由の騎士団とかいう強者の集団がいるらしいが、人間の勝てる相手とも思えない。
スピナは長いものには巻かれるタイプだ。
主人とのテイム契約がなければ、真っ先に軍門に下っていただろう。
人間もそうした方がいいと思うのだが、人族はなぜか強きものに最後まで抵抗する。
矜持という奴らしいが、スライムのスピナにはよく分からない。
だが、その方針を貫く人間に未来はないのではないかとスピナは思った。
風の勢いが弱まり、スピナは戦場に目を戻した。雁字搦めに拘束され、地面に横たわる怪鳥王とそれを見下ろす蜘蛛の王の姿があった。
「はい!そこまでー」
セレーネ様が手を叩いてその場にいる全員に聞こえるように言った。
「惜しかったね。いやーそれにしても危なかったわ。前よりはよなったんちゃう?」
蜘蛛の王は、ベットに飛び込むように怪鳥王にダイブして抱きつき言った。
「ちょっと!降りなさいよ」
怪鳥王が噛み付くように言う。
糸のせいで身動きができないのだ。
「はいはい」
蜘蛛の王は肩をすくめ、残念そうに怪鳥王から降りた。
長い沈黙の後に怪鳥王が悔しそうな顔をして大きなため息をついた。
「いったい何が?」
あの神速による体当たりで完全に怪鳥王が勝ったように見えたのに。
なぜ怪鳥王が負けたのか、スピナにはサッパリ分からなかった。
だが、その疑問に答えてくれる人がいた。
突然スピナの体が宙に浮いた。
驚いて振り返ると、セレーネがスピナの体を抱き抱えていたのだ。
「セレーネ様!?」
驚き、自身を抱え上げたスライムの王の名を呼ぶ。
王である彼女が、一介の雑兵である彼女に接触する理由が思い浮かばなかった。
「やっほー。スピナちゃん。何が起こったか不思議だった?そんな難しくないよ。マクラがフェルミナの動きを見切ってた。それだけ」
そうして、セレーネは蜘蛛の王が怪鳥王の動きを読めた理由を解説してくれた。
一番の要因は、蜘蛛の王の知覚能力の高さだ。
通常蜘蛛は、8つの目を持つが視力は低い。
その特性は蜘蛛の魔獣にも当てはまる。
だが、異質にも蜘蛛の王にその性質は当てはまらなかった。
レベル1、ただのタランチュラだった蜘蛛の王は、次々と敵と戦い、その力を強めていった。力が強まるとそれに比例して、視力もどんどん上がっていったらしい。
そして、最終的に蜘蛛の王は上半身が人間、下半身が蜘蛛である今のアラクネの姿に進化した。
上半身の蜘蛛の王の赤い2つの瞳には、進化前にあったその8つの目が、4つずつに別れて、1つの眼に凝縮されていたのだ。
彼女の赤い目を間近で見ると、眼球の中に、小さい点が4つあることがわかる。それは、全てかつて蜘蛛の頭部についていた目だ。
8つの眼が凝縮されたことにより、蜘蛛の王は人並み外れた動体視力を持つ。
だから、怪鳥王の神速スピードも目で追うことができたのだ。
だが、それだけではない。
蜘蛛の王は相手を自分の思い通りに動かす技術にも非常に長けている。
今回怪鳥王が蜘蛛の王の糸を切る事で、見つけた一筋の道。怪鳥王にとっては勝利への道とも呼べる道だった。だが、それは、蜘蛛の王が糸の出力を調整して作った偽りの道だったのだ。
来ると分かっているルート。いくら速かろうと蜘蛛の王の眼が捉えられないはずもない。
あとは魚を編みで救うように、広範囲に展開した糸で怪鳥王を引っ掛けてやれば良い。
怪鳥王の動きは、武術をベースにしたもの。それは言い換えれば型がある動きだ。
相手を嵌めることに特化した蜘蛛の王にとって、型にハマった動きなど、見切ってくださいと言っているようなものだ。
そうして、怪鳥王は突進のカウンターを食らい、蜘蛛の王の糸に捕まってしまったと言うわけだ。
こうして、怪鳥王と蜘蛛の王の決着がついた。
ここまで見て、セレーネの解説を聞き、さっきディアボロスが言っていた意味がなんとなく分かった。
それは、複雑な相性だ。
1戦目戦った怪鳥王とオルゴラズベリー。その圧倒的な力に任せて戦うオルゴラズベリーにとって、それをいなせる武術をベースに戦う怪鳥王は相性の悪い相手だったのだ。
一方2戦目では、型にハマった武術は、相手を誘導して罠にかける蜘蛛の王に相性が悪かった。
「じゃ、次は私ですか。よーく見といてね。スピナちゃん」
そう言って、セレーネは私を地面にそっと置いた。
そして、セレーネは蜘蛛の王との第3戦に挑みに行く。
今までの流れから、スピナにも勝負の結果はなんとなく予測できた。
3戦目、蜘蛛の王は糸主体で戦うも、液体のスライムボディはそれを全て潜り抜け、セレーネが勝利を収めたのだ。
その後、スライムの粘液まみれにされ、蜘蛛の王がセレーネに上目遣いで這い寄っていくという
変態的行動を見せていた。
一体あれはなんだったのか?
考えるだけ無駄な気がする。スルーしよう。
次の4戦目。
セレーネVSオルゴラズベリー
この戦いでは、オルゴラズベリーが圧倒的な力で猛威を振るい、本来どんな物理攻撃も無効にするスライムの液体の体を吹き飛ばすことで、オルゴラズベリーに軍配が上がった。
圧倒的暴力で、無敵のボディ特性を打ち破った形だ。
この結果により、魔獣四王の間には、拮抗した化け物的能力値と複雑な相性があり、三すくみならぬ四すくみの関係にある、とスピナは心の報告レポートに刻んだのだった。
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