12話.オルゴラズベリーの借金返済の冒険③:ポーション
今年が終わるまであと1日。来年もいいことありますように。
「これは、これはロイド様。わざわざご足労いただき、ありがとうございます」
「別に、君たちの面倒を見にきたわけじゃないよ。勘違いしないで」
領民が挨拶をしてきたが、そう言って僕は彼を追い払った。
すると、すぐに別の男が寄ってきた。
男はニヤニヤとあからさまに怪しそうな顔で話しかけてくる。
「ロイド様、この状況を打破して経済を盛り上げる新たな策を考えました。あちらに馬車を用意していますのでぜひ」
「それは、僕には無理。父さんに言って」
チッと舌打ちをしてその怪しい男は消えた。
他の領民の女の子が僕たちを見て話しかけてきた。
「あ、あのロイドさま。みてください。新作のポーションを作ってみたんです。これで今頑張ってる冒険者さんたちの助けになるかも。ロイド様もよかったら一度使ってみて…ください!」
女の子は慣れない素振りで声を上ずらせながらも一生懸命お辞儀をし、瓶を差し出した。
「僕は冒険者じゃないし、あとなんかそれ臭いから」
「あ、すみません。失礼しました」
その女の子はガッカリした顔をしてすごすごと帰っていった。
「………」
振り返って見るとオルがポカンとした顔をしていた。
「いや何やってんの!?」
オルが怒ったような驚いたような顔で言う。
「え、いや何が?」
「だってさっきカッコいい顔で助け合うことが人間のつよさだー、とか僕たちはまだ負けてない、とかこっから全部とり戻す、とか言ってたくせに全然ダメじゃんか。すっごい冷たいじゃん。もっとこう、領主なら親身にならないとダメなんじゃないの?」
うっ、こいつアホっぽいくせに痛いところをついてくる。しかも演技が若干似てるがなんか腹立たしい。
「しょ、しょうがないだろ。僕が物心ついた時から皆んなさっきみたいに下から接してきて。確かに僕は偉大な領主の息子けど、そのせいで実力もないのに偉いみたいな扱いされて。そうなるとどう接していいか分からないんだよ」
「フーン?私にはさっきからずいぶんと好き勝手言ってくれたくせに」
「それは、オルが」
そう言って言葉を止める。
たしかに、こいつには振り回されっぱなしだが、
ずっとロイドとして僕を見てくれたのはこいつだけだったことに今気づいた。
だが、そんな事口が裂けてもいえるか。
「な、何でもない」
「……ふーん、ま、いいけどね」
途端に興味を失われたような、
どこか呆れられたような目で見られているのが
どうしようもなく気になる。
「ま、いいけどね」か。
事実、オルは無関心なのだろう。
僕が1番気にしていることを突かれた故に、言い返しづらい。それに、
彼女にとっては確かにまったく関係のない話だ。
だが、
彼女のいいけどね、は
お前は領主に、いや、皆を率いるものとして全く相応しくないダメなやつだが、私には関係ないないからいいよ、と言われているような気がした。
何故だろう。出会って数時間だがこいつにそう思われるのは非常に癪に触る。
「そ、そこの君、ちょっと待って!」
さっき僕にポーションを持ってきた女の子を呼び止める。
「ひ、ひぃ!な、何ですか?何か失礼でも?」
オドオドして女の子は振り返った。
「さっきのポーション。もう一度見せてくれないか?」
「は、はぁ、これですか?」
女性が先程見せたポーションを取り出した。
「うっ……やっぱりひどい匂い」
そのポーションはとても強い刺激集のようなものがした。
「そこは申し訳ありません〜」
女の子は頭を下げた。
「さっき言ったように僕はポーションのことは分からないんだ。だからこれの説明をしてくれ」
ロイの言葉に女の子はポカンとしたが、たどたどしく説明を始めた。
「え?あ、は、はい。こちらは今までのポーションとは全く違うアプローチをした品でして」
「と言うと?」
「はい。まず、従来のポーションは1本につき、1つの効果しかありません。
赤のポーションは攻撃力の向上、上がるのは膂力も魔法攻撃の力どちらも適用されます。
次に黄色のポーションはスピードの向上、
青のポーションは防御力向上、
そして、緑のポーションが体力の回復になります」
「それで冒険者はポーションを色ごとに使い分けているってこと?」
「はい。ですが、この度私が開発したものは、ずばり!一本で2つの効果を得られるポーションです。製法は秘密ですが、2つのポーションを混ぜ合わせ、一本で2つの効力を得られるポーションを開発しました。こちらは赤のポーションと緑のポーションの効果が合わせて得られる品になっています」
「なるほど。それでこれは赤色が濁ってるし、その…臭いのか」
若干黒ずんだ赤い色のポーションを見る。
というか説明を聞くに、それは画期的発明というやつなんじゃないか?
こんな街中で話すことでもないような気がした。
「それで、今クラーケン討伐のために頑張ってる冒険者さんたちの助けになるかもと思って。本来こういう新しいものを売り出すには認可が必要なんですけど、それじゃ間に合わないから。このポーションがあれば少しでも討伐の力になると思うんです」
なるほど、それで僕に話しかけてきたのか。
だが、こういう冒険者のことは専門外で僕にはどう答えていいのか分からない。
父は今仕事で忙しいだろうから、ぼくからも連絡が取りづらい。
かといってこの製品が、認可をスキップしてまでクラーケン討伐隊に回すべきものなのか、素人の僕には分からなかった。
他の人に頼ろうにも、有識者に人脈もコネもないし、この女の子を信用していいかもわからないし。
せっかく呼び止めたのに、何も言うことができない。
やっぱり僕なんかじゃ……。
「へー。いいポーションだな」
だが、その時、後ろで聞いていたオルがひょっこり顔を出して言った。
「オル、君はもしかしてポーションに詳しいのか?」
「……友達がよくポーションを研究してるからな。私も使ったことあるし。このポーション、化学面のことはよく分からんけど、かなり良い素材を使ってるだろ?感覚でわかる」
じっくりと底からポーションを見ながらオルは言う。
その姿はまるで専門家のようだった。
「そ、そうなんですよ。私、素材にはかなりこだわりがあって。品質もかなりいいものだと自負してます。けど誰も気づいてくれなくて。嬉しいです。そんな事言われたの初めてで」
「ちょっと飲んでみて良いか?」
オルが言う。
「え?はい。こちら試作品ですから」
聞くと同時にオルがゴクゴクとポーションを飲んだ。
息を飲み、僕と女の子はその様子を見守る。
オルは手のひらを広げ、見つめながら考え込んでいた。
その様子を見ていると、一瞬だけだがゾッと寒気がしたような気がした。
なにか、オルの内側からとてつもない膨大で危険な力が渦巻いているような。
こんな小さなオルにそんな力あるわけないし。
気のせいだろうか。
「……ダメだな」
ボソリとオルは呟く。
「え?」
「確かに力が上がってる感覚はあるし、回復の効果もある」
オルは自分の皮膚を爪で引っ掻いた。
少し血が出たが、その傷はたちまち消えていった。
「けど、効果が弱すぎだな。パワーアップも回復力も誤差って感じ。これじゃクラーケン討伐には役に立たないぞ」
オルはバッサリと言った。
そこまではっきり言わなくてもいいんじゃないかと僕は思う。
このポーションの子が落ち込んでしまうのではと心配して彼女の方を見た。
だが、その考えは杞憂だったようだ。
「そ、そうか、2つの効果を得ると同時にそれぞれのポーションの効果を打ち消しあっちゃってたんだ。でも、被験者も呼べなかったし、そんな感覚気づけなかった……」
ぶつぶつと女の子は言った後目の色を変えて、身を乗り出して言った。
「あなた、名前は!?」
食い入るように見つめてくる女の子に、オルは驚いてビクリと肩を震わした。
「うわ、何だ急に、オルだよ」
「オルちゃん。私、アリアナって言うの。そこの魔道具店やってて。良かったら、いえできれば絶対後で来て欲しいの。すぐポーション改善してくるから。明日来てねー!あ、あとロイド様、話を聞いていただき、ありがとうございました」
深々とお辞儀をし、アリアナと名乗る女の子は急いで去って行った。
はぁ、とため息をつく。
これで一件落着か。けど、オルがいなかったらアリアナの満足そうな笑顔は引き出せなかった。
本来そうやって民をやる気にさせるよう促すのは領主の役目なのに。
僕はやっぱりまだまだだ。
「やればできんじゃん」
落ち込んでいた僕にオルは笑って嬉しそうに言った。
「いや、僕は何もできなかったよ」
「でもアリアナ最後笑ってたよ。ロイが呼び止めたおかげだな」
「…それは君が……いや、ありがと」
「?、どういたしまして」
ほんと、オルといると調子狂う。けど彼女の奔放さには救われてばかりだ。
そういえば、よくポーションの知識なんてあったな。
オルをみて僕は思う。
こいつもしかして冒険者なのか?でもこんな子供の冒険者がいるなんて聞いたことないな。
「君本当何者だい?妙にポーションに詳しくて冒険者みたいだし。でもお金のことすら知らなかったり、馬鹿みたいに食ったり」
「そ、そんな事どうでもいいんじゃないかなー」
オルは目を露骨に逸らし、下手な口笛を吹く。
明らかにオルが動揺してるのが分かった。
怪しい……正体を隠してるのか?何のために?
けど……別にいっか。
「ま。そうだな。オルは悪いやつじゃ無さそうだし、聞かないでおいてやるよ」
そういうことにしよう。
オルの正体など僕にとってはどうでもいいことだ。
「おお、サンキュー。私が魔獣四王のオルゴラズベリーだなんて、口が裂けても言えないから助かるよー。ありがとう。ロイ」
だが、僕の気遣いなど何の意味もなかったようだ。
無邪気に笑ってオルは言った。
その屈託のなさに思わず聞き流してしまいそうになったが、今オルがとんでもないことを言ったことを僕は頭の片隅でギリギリ聞き逃さなかった。
「……………………はぁ!!?」
ポロリとオルの口から全く予想だにしない言葉が出たのだ。
い、今なんて言った。魔獣四王?オルゴラズベリー?
何でここであの竜王の名前が出てくるんだ?
それは最強と謡われるドラゴンの名前だった。
誰だろうと一度は耳にしたことのある名だ。
いわく、そのドラゴンは山を吹き飛ばし、同族を引きちぎり、数々の人間を襲った怖ろしい龍だという。
凶暴さでは魔獣四王で一番とも言われている。
途中で口を滑らせたことに、オルは今気づいたらしい。
「あ、あわわわわ、い、今のなし、なし、なーーし!」
え、え?本気か?本当になんなの!?
嘘つくような奴には見えないし?
ほんとっぽいリアクション。けど、そんな事はありえないし。
え、言い間違え?
夢でも見たのかな?人の姿だし?
僕は考えることが多すぎてフリーズしたように立ち尽くした。
オルが慌てたように騒ぐ声が、不必要に周囲の目を集めていたる事にかろうじて気づいた。
「ちょ、ちょっと待って!いったんここを離れよう」
僕はオルの手を引き、急いでその場を離れた。
何なんだよもーーーー!?
と、僕は心の中で叫んだのだった。
とにかく落ち着ける場所に行こう。話はそれからだ。
_______
時は少し遡る。
オルゴラズベリーが真蜘羅やセレーネと別れた後、
怪鳥王フェルミナもまた、1人で行動をしていた。
「この剣、なかなかカワイイわね。これで冒険者っぽく見えるかしら」
彼女は剣が売っている店で珍妙な剣を手に取り、一人呟いた。
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