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番外編:カルラの話 前半

わたくしはカルラ・オールフェミア。

王宮で侍女頭をしているものです。


仕事は主に王のご息女であるルナ様とその妹サン様の身の回りのお世話を担当していました。

といってもサン様は永い眠りにつかれ、ルナ様は自分探しの旅に立たれたので、

今は侍女の監督役が主な仕事ですがね。


ですが、最近そのルナ様がお帰りになられたのです。

しかも、魔獣を3匹も引き連れて。

あの時はさすがに驚いたものです。ですが、久しぶりにお世話ができる喜びに比べれば、そんなことは些細なことでした。


魔獣のうちの一体。セレーネさんは瀕死の重体で、どうやらその治療のために実家に戻られたようです。



そうそう、そのセレーネさんとこの前とお話しましてね。

とても魔獣とは思えない方でそこも驚きましたよ。


年増の長話で恐縮ですが、よかったら聞いてください。


あれはわたくしが3匹の魔獣のお客様たちにマナーのレッスンをしていた時のことです。


わたくしは休憩時間、中庭のベンチに座って好物の饅頭を食べながら、植えられた草木の緑を眺めていました。

そんななか後ろから突然セレーネさんに話しかけられました。


「こんにちわ。カルラさん!」

「…こんにちわ」

少しびくりとしましたが、わたくしはそれを表に出さずに粛々と挨拶を返しました。

「あれ~!?驚かせようと思ったのに…カルラさんって表情筋生きてる?」

セレーネさんは首をかしげて困惑してましたが、

ちゃんと驚いてました。本当に久しぶりに胸がドキドキしています。

一流の侍女はそんな表情を決して表に出さないというだけの話です。



「セレーネさん。貴族社会で相手をビックリさせるのはNGです。相手が転倒する可能性などを考慮すれば、大問題に発展する可能性があります」

わたくしは注意を促します。

「そこですか!?…ごめんなさい?」

困惑しながらしょんぼりする表情豊かな

セレーネさんをわたくしはそっと撫でました。

「ですが、今は休憩中なので、特別に大目にみてあげましょう」

途端にセレーネさんはパッと表情が明るくなりました。

本当に魔獣なのに感情表現が豊かで面白い方です。

なるほど。こういうところなのでしょうね。ルナ様がセレーネさんを気に入ったのは。


「それで、何か御用でしょうか?」

「あ、うん。カルラさんと少し話がしたいと思って」

「わたくしと?」

なんでしょう。先日ガヌドス様が話したサン様のことでしょうか?

確かにガヌドス様は全てを話したわけではありません。

というよりガヌドス様ですら真実を全て知らない、というのが正解ですが。

もしや気づかれた?なんて、ありえませんか。


わたくしの心配は杞憂だったことが、次のセレーネさんの言葉でわかりました。


「うん、ルナってカルラさんのこと尊敬してるでしょ?だからちょっとお話したいなって」

「ルナ様が私を尊敬?そんなはずないでしょう。本当にルナ様がおっしゃられていたのですか?」


わたくしの反応にセレーネさんは怪訝そうな顔をしました。

ですが、わたくしはサン様の死を止められなかった罪深い人間です。

姉であるルナ様が許してくださるはずがありません。


「ううん。でもカルラさんといるルナを見てれば分かるよ」

「…そうですか」

セレーネさんとルナ様はお互いに絆を育まれている様子。

セレーネさんの言葉なら、本当にそうなのかもしれません。


「カルラさんってルナにもはっきりものいうよね?ルナって王女だし、ためらったりしないの?」

セレーネさん的には、この話題は大したことではなかったらしく、次の話題に移りました。

わたくしも追及せずにその流れに乗ることにします。

「それなら心配ありませんよ。私も一応高位の貴族ですから。ルナ様に対しても正しく教え導くためならば、何を言っても罰せられることはありません」

「え、え!?貴族」

セレーネさんは、わたくしの言葉に何かを見比べるように目線を左右に動かしました。

なんとなく、今まで見た貴族とわたくしを脳内で比較しているんだろうなと予想がついて、心の中で苦笑してしまいました。

確かに、大抵の貴族はどうしようもない方ばかりですから、セレーネさんの疑問も頷けるというものです。

もっともわたくしの方が異端なのでしょうが。


「貴族の権力が王と匹敵するほどに高い理由は元来、王が暴走した時に止められるようにするため。しかし、今では貴族の方が権力に溺れている始末。嘆かわしいことです」

「へー。詳しい」

セレーネは感心したように目をぱちくりとさせました。

「そっか。じゃあさ。ルナの権力にも負けないんだったら、なんで私たちのこと…その」

セレーネさんはそっと下を向きます。

その姿は次の言葉を言うべきか迷っているように見えました。

何を言いたいか想像はつきましたが、あえてその先はフォローしませんでした。お茶を飲みながら、次の言葉をじっと待ちます。

やがてゆっくりとセレーネさんは次の言葉を紡ぎます。

「反対しないの?魔獣だからって」

想像通りの疑問でした。わたくしは少し考えます。

これはきっと言葉を選ばないといけないことでしょうから。

「簡単なことです。わたくしは出身や家柄などの前情報だけで相手を差別する事はありません。例え魔獣であってもです」

「それって」

「相手を判断するならばじっくり内面を見てから、という事です。セレーネさんは…まだ審議中ですかね。ルナ様はお強いので一緒にいる事は許可できる…くらいでしょうか」

セレーネさんはわたくしの言葉を聞いてじっとこちらを見ました。

「厳しかったですか?悪いですが、わたくしはルナ様のことに関しては一切妥協しませんよ」

すると、セレーネはまっすぐにこちらを見つめ返してきました。

「…いえ、逆に信頼できます」


その言葉で気づきました。

見極められているのはわたくしも同じだと。

私が信頼に足る人物か、セレーネさんなりに必死で探っていたのでしょう。


ルナ様を守るナイト…ですか。

…なるほど、なかなか面白いじゃないですか。

きっとその視点は、成長すればルナ様の役に立つことでしょう。

これは、セレーネさんの評価を少し上げないといけないかもしれませんね。


少し笑みがこぼれた。

それを見て、セレーネは目を丸くした。


「カルラさんが笑った!?」

セレーネが驚いた顔をする。私自身表情を崩す事になるとは思わなかった。

「人間ですから。そんな事もあります。それに手心を加えてしまう事も。私個人はあなたがルナ様の隣になれる方になって欲しいとはおもってますよ。ただの理想ですが」

「それってカルラさんに認められたってことでいい?」

「ご自由に解釈なさってください」

「じゃあさ。じゃあさもっとお話ししていいんだよね」

そこからセレーネさんが始めたのは本当に些細な日常についての質問でした。

ルナ様の幼少期のことや王宮での暮らし、だけでなく、私自身のことまで様々です。

社交界ではない、何の気づかいもいらない気楽な話し合い。

そんな穏やかな会話をしたのはいつぶりでしょうか。

つい楽しくなって私も少し話過ぎてしまいました。


せっかく楽しくなってきたので、わたくしからも質問をしてみました。

一番気になっていたことです。

「セレーネさんはなぜルナ様についていくのですか?種族も違うのに」

すると、セレーネさんは少し不思議な顔をしました。

「種族って関係あります?」

「ないとはいえませんね。天敵同士ですから。少なくとも普通ではありませんよ」

「はっきり言うんですね」

「ですから、興味があるのです」

悩むようにセレーネさんは空を見上げました。

「うーん…楽しいから、かなぁ」

「楽しい、ですか?」

「うん。ルナがいるだけでさ。どこだって居心地がよくなるんだ。最初からそうなんじゃなくて、ルナがが他の人間を変えてるんだと思う。だから、ルナがいる場所が私が一番楽しいし、今後もそうだってことを期待してるとワクワクするんだ。それって一番大事なことだと思うからさ」

笑顔でそういうセレーネさんの回答がしっくりきて、胸のつかえがとれました。

ずっと不思議で考えていたものですから。

なるほど。ルナ様は旅の中で人々をそんな気持ちにさせているのですね。

聞けて良かった。ルナ様が旅に出たのは正解だったのだと、そこではじめて思えました。

「セレーネさん。話に夢中で敬語忘れてますよ」

「あっ、そうでした」

「でも、今回は特別に許して差し上げます」

「え!?」

なにせいい気分ですからね。


「じゃあこっちからも。カルラさんは貴族なのに、なんでルナの侍女頭をやってるんですか?」

次はセレーネさんの質問です。

「わたくしは…」




読んでくださりありがとうございます。



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