私はその……失敗が多い
私は、P校という私立中学校に通っている。この地域では名が知られていて、いちおう周りの人に自慢しても恥ずかしくない学校だ。でも正直言って私にはこの学校の雰囲気が好きになれない。小学校のほうが圧倒的に楽しかった。まぁ…その、たまに年不相応の…「失敗」しちゃうことはあったけど…。そして先週の水曜日に「こと」はおきてしまった。
その日は雨のせいか気温がぐっと下がった。3時間目の数学の時間、私はひそかに下腹部の重みに耐えていた。中学生になってからは絶対に漏らさない。もう小さい子じゃないんだから。入学したときにそう決心したはずだった。もっともその決心は2日後のおねしょによって崩れてしまったのだが…。
とはいえ、家でのおねしょとみんなが見ている前で水たまりを作ってしまうことではわけが違った。小学生のときならおもらししてもみんなわぁわぁ騒ぎながらもあたりまえのように水たまりを拭いてくれた。(本当は先生が除菌しないといけないらしいけど)こういう寒い日は「体操服だけじゃ寒いでしょ」と自分のズボンを貸してくれる子もいた。(なんで2着もズボンを持ってたのかはよくわからない)一回そのズボンにおもらしをしてしまったことがあった。その子は笑いながら「そこのもらし屋が!」とわたしのおでこをペタペタとたたいていた。そして何よりも着替え終わって10分もすればクラスがいつも通りの雑然とした雰囲気に戻っていたのが良かった。たまに下級生の子に指をさされて、「おもらしする子だ」と叫ばれるのには頭を抱えたけど…
もらしてしまった後のまわりの反応は予想通りだった。この中学校では人の秘密や悪口を公然と言うような生徒はあまりいない。だからといってみんなフレンドリーというわけではない。結局その日は誰からも話しかけられなかった。
家に帰ってから私は「そろそろおもらし治さないとねぇ」と言いながら替えの制服を用意する母に「地元の中学校に転校したい」と思い切って言ってみた。母は少し考えてから「もう少しこの学校で頑張ってみない?」と言った。当然の返答だった。私はこの中学校に入るために1年間勉強してきたのだ。楽しいことも全部とは言わないが7割くらいは我慢してきた。私だけではない。塾代を払い毎日のように送り迎えをし…母子家庭の我が家にとってそれが簡単なことではないことが小学生の私にも分かった。それを入学して2週間でやめるなんてフツウの人の考えることではない…
木曜日と金曜日は学校を休んだ。行けなかった。当たり前のようにおねしょをした私を起こしにきた母に私は「行きたくない」とだけ答えた。母は何も言わなかった。月曜日の朝、母もしびれを切らしたのか、「学校にいかないの?」言ってきた。「行けない」と応える私に「小学生のときは間に合わなかった次の日も元気に学校に行ってたじゃない。だいたい転校先の中学校でまたもらしちゃったら同じことよ。」とたたみかける。もうこれ以上粘っても無駄だと悟った私は、仕方なく学校に行くことにした。重いあしどりとともに…
そして2時間目…私はまたも下腹部の重みに悩まされた。そういえば前の休み時間トイレに行っていない。時計を見るとあと30分以上もある。経験上こんな長い時間持ち堪えるのは不可能だと分かる。先生に行ってトイレに行かせてもらうしかない。頭ではそう分かっていた。でも声はでない。私はもう疲れきっていた。その間にも下腹部の重さはどんどん増し、私の膀胱に訴えてくる。私はせめてもの抵抗として出口をギュッとおさえる。
最初の波がきた。なんとか下半身に力を入れておさえようとする。だがおさえきれなかったものが少しあふれてきてしまう。パンツが少し湿ったのをかんじる。(いつもならこのくらいは耐えられるのに…)時計を見た。まだ15分以上ある…。その瞬間、私の体が勝手に下半身を緩めてしまった。生暖かい液体がスカートに染み込み、足元につたる。おそるおそる下を見るとそこにはできたばかりの水たまりがあった。
その日は保健室で着替を借りて早退した。家で母に何と言おうか考えた。気持ちはもう決まっていた。あとはどう伝えるかだ。
夕方、母が帰ってからすぐに「私転校する」と言った。そして中学校が好きになれないこと、おもらししてから誰とも話せてないことなどを言葉を絞り出しながら伝えた。そしてその日のうちに私の転校が決まった。
木曜日、私は転入生として地元の中学校の門をくぐった。授業中のあのざわざわした雰囲気が懐かしい。私も久しぶりのおしゃべりにこうじた。知らない生徒も多かったが話題は尽きなかった。授業を全く聞いていなかったことに5時間目になってから気が付くくらい…放課後、家が近いということでクラスメイト3人と一緒に帰ることになった。
帰り道の途中でハッとする。学校から家まで30分近くかかることを忘れていた。(トイレに行っておけば良かった…)モジモジしながら歩いていると一緒に歩いていた男子に感づかれる。「小便我慢してるでしょ。」顔をしかめながら「うん」というと「俺の家この近くだから行く?それとも華麗に漏らすのが好み?」とからかいながらも助け舟をだしてくれる。私は迷わずその子の家に向かって走った。小学生の頃は人のトイレに駆け込むことなど何度もあった。門についた。鍵を開けるのを足踏みしながら待つ。もういつ決壊してもおかしくない。ドアが開くと挨拶もせずに家に入る。だが焦っていてなかなか靴が脱げない。右手に力を入れた瞬間、パンツが温かくなる。まだ決壊はしていないがけっこうでてしまった気がする。靴をむりやり脱ぎ捨ててトイレに向かって走る。少しずつちびりながら。ドアを開けて便器にまたがる。下着をおろした瞬間ためていた液体が一気にでる。間に合った…
下着を履き直すと思った以上に濡れていた。床は大丈夫だったがパンツはもちろんスカートにも大きなシミがある。そのまま帰ろうとしたが、さっきの男子に見つかってしまった。「そのまま帰るつもり?」私がうなずくと彼は笑って「おもらししちゃいましたって街中にアピールしながら歩くって凄い勇気だね。」とまたからかう。結局彼(というよりその親)が貸してくれたズボンに着替えて、汚してしまった下着の「お土産」を持って帰った。
家で母に事情を話すと母はすぐにその男子の家に電話をかけた。「うちの子の粗相により大変な迷惑を………」受話器の前で頭をペコペコ下げる母の声は弾んでいた。
稚拙な箇所もあったと思いますが、最後までお読みいただきありがとうございます。
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