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05 調和と対立

陰陽師の一部である呪詛師は、魔物を縛ったり作ったりして式神しきがみとして使役する場合がある。

見方によっては共存や調和を図る行為だ。


だが、陰陽師の別の一部である退魔師は、魔物や式神を排除するのが目的だ。


この二つにも確たる区分けがある訳ではなく、両方をこなす者も居れば、式神を使う退魔師も存在する。


呪詛師と退魔師を区別しないで【呪術師】と呼ぶ場合すらある。


そして、退魔師は陰陽師にだけ居るわけではない。

宗派や国によって、そのやり方や方針は様々だ。


「向こうも専門家でしょう?なぜ日本側に依頼するのですか?それも寄りにもよって俺に」

重蔵しげくら君は、グランス・エドラント氏と知り合いなのかね?向こうからの名指しなんだが?」

「確かに偶然ですが面識はあります」


宮内庁の一室に重蔵を呼んだのは、平賀潤一ひらがじゅんいち

宮内庁内部部局式部職祭事課の分室事務次官を務める60代の男性だ。


陰陽師と言う訳ではなく、あくまで事務職の男性だが、先日に電話した、重蔵の親戚でもある賀茂保則かもやすのりの上司にあたる。


「第八分室 特務係 係長の賀茂保則からは君の実力は聞いている。この件が上手くいけば便宜べんぎを図ろうじゃないか」


目の前にも【賀茂】が居るので、フルネームでの説明だ。


「便宜?具体的には?」

「別に神社の後継者は直系の血筋である必要はない。別の賀茂家の次男坊に引き継がせても問題はない。勿論、宮内庁への就職も無しで構わない。寺に就職しようが、ラーメン屋に勤めようが自由にしてもらって構わない」

「なんか、うま過ぎる話ですね」


当然、重蔵の身辺調査は再度されている。

平賀事務次官は咳をしてから、重蔵の目を見直した。


「君は承知かも知れないが、くだんのエドラント氏は魔物とも関係があるらしい。それも上級のだ。それを嗅ぎ付けた防衛省が、彼が国内で動き出す前に暗殺を企んでいるらしいのだ。日本国内で日本が警備しているバチカン関係者が死ぬのはかんばしくない。恐らくは防衛省の呪詛師も動くと思われるので、そちらの面をサポートして欲しい」


重蔵は、陰陽師の中でも退魔師に重きを置いている。

相手が呪術師ならば、退魔師は適任だ。


「御役所同士で止められないんですか?」

「テレビの国会中継で、野党が政府に無理な言い掛りをつけているのを目にした事があるかね?役所にも意見の対立や派閥があるのだよ」


実際には省全体の対立ではなく、その一部同士の問題ではあるのだが。

事務次官は頭をかき、重蔵は眉間を押さえた。


「確かに、呪詛の発見や呪詛返しは領分ですけどね。高校生に任すには責任重大過ぎませんか?」

「エドラント氏は宮内庁側も信じてはいない様でな。向こうが指定した者がミスしたなら責任も軽減できる。なので、君も死なない程度に頑張ってくれればいい」


国としての面目を保つ為になら、陰陽師の一人くらい犠牲にしても構わないと言うのがまつりごとである。


逆に言えば、その為に陰陽師の一人ぐらい手放しても問題はないという話でもある。


事務次官としては、リスクを最小限に抑えた選択なのだろう。


【失敗しても、命をかけなくても問題はない】

この条件と報酬を重蔵が断る道理がないと、事務次官も承知なのだ。


ましてや、あれだけの能力を持つグランスが、日本の呪詛師に負けるとは重蔵には思えなかった。


バチカンと警備の関係者資料を受け取り、重蔵は宮内庁をあとにした。





高校には家事手伝いの為の休みと連絡を入れて、重蔵は某有名ホテルの一室に泊まり込んだ。


このホテルは、グランス・エドラントが宿泊しているホテルだ。


学校には重蔵の実家が神社なのも知れているので、余人に任せられない儀式が有るのは理解されている。

過去にも、儀式の為に学校を休んだ事もあるので容易に承認されている。


宿泊も客としてではなく、ちゃんと警備のIDと通信機を受け取って割り振られた待機室だ。


「式神を飛ばして来ているが、結界で防げているな。髪の毛とかの依代よりしろが入手できないからか、呪詛じゅそも感じられない」


ホテルの屋上でいんを結びながら、重蔵はホテル全域を霊的に見張っている。


実際には霊的にも不可視な部分が有るが、それはグランスと付き人である事は察している。


不可視部分は数を確認するだけで、詳細は覗かないようにするのが、術者同士のマナーの様なものだ。


しかし。


「オイオイオイッ!なんで、お前がココに居るんだよ?」


特に霊的な異常ではないが、ホテル内に知った霊気が存在していた。

これは万一の為に重蔵が、とある知人に付けていた【マーキング】だった。


彼は、急いで階段を駆け降り、マーキングのある場所へと向かった。

そこは警備対象であるグランスの部屋の近くだったからだ。




目的の階まで降りると、その階にはカートを引いた二人の従業員が居た。


給湯室付近に立っていた二人の女性従業員。

重蔵が付けた霊的マーキングが無ければ、普通の従業員と思ってスルーしてしまう状況だ。


歩み寄る重蔵に、従業員らしく礼をする二人だが、そのカートには小型のボンベが積まれており、給湯室のメンテナンスボックスが少し開いていた。


『警備の賀茂ですが、7階に従業員が2名居ます。連絡来てますか?』


重蔵が無線機で確認をとった瞬間、二人の従業員が逃げにかかった。


『いや、連絡は受けていない。7階は従業員も立入り禁止にしてある筈だ』


重蔵は柏手かしわでを打って、7階の廊下に仕込んでおいた式神を起動させ、二人の女従業員を転倒させた。


軽い脳しんとうを起こしたらしく、一人は意識が無い。


式神は術者の意思を色濃く受けるので、もう一人は膝を擦りむいたくらいで済んでいる。


「水前寺!なぜ、こんな所に居る?」

「賀茂くん?」


隠遁いんとんを解いたので、【誰か】ではなく【賀茂重蔵】だと認識できたのだろう。


「兎に角、こっちに来い」


重蔵は茜を引っ張り、エレベーターに乗り込んだ。


『警備の賀茂から連絡。侵入者は7階で失神している。給湯室辺りで作業していた模様。誰かを確保に回してくれ』

『了解。応援を送る』

『対象は女従業員の格好をしている。賀茂は別件で移動するが後を頼めるか?』

『大丈夫だ。数名を手配する』


地下へと向かうエレベーターの中で無線通信をしながら、重蔵は山根茜を睨み付けていた。


「賀茂君こそ、どうしてココに?」

「バチカンの人間が来てるんだぞ!宗教関係者が動員されてるんだ。お前こそ従業員名簿にも無いくせに、なぜ居るんだよ?」

「・・・・・・」


本名で、無線を使っているのを見れば、重蔵が関係者なのは明白だ。

対して山根茜は偽名で侵入していた。


「まさか、防衛省なのか?」

「!・・・・・・・」


茜は驚きはしたが、認めなかった。


『警備員7階に到着。従業員姿の一名を確保。メンテナンスボックスから保護対象の部屋へ電話配線の管を通してガスを送ろうとしたもよう。保護対象は無事。繰り返す、保護対象は無事』


エレベーターの中で聞こえる無線に、重蔵が茜の襟首を捻る。


「青酸ガスでも流すつもりだったのか?」

「・・・・・・・・」


地下の駐車場についたエレベーターから、重蔵は駐車している車の一台に茜を押し込め、車を出した。


「賀茂君、無免許?」

「俺は中学の時に留年ダブッてるんだ。もう18歳だよ」


高校に入ってからの知り合いである山根茜には知り得ない事だ。

学校でも生年月日は口外していない。

家業を手伝う関係で、学校の許可も得て夏休みに運転免許を取っている。


「お前達は作戦に失敗した。警備員に追われたが、お前だけは何とか逃げれた。いいな?それで押し通せ!」


重蔵は屋外カメラの無い場所へと車を止めて、茜を車から放り出した。


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