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03 銀行強盗

賀茂重蔵かも しげくらは、銀行の建物に入るやいなや、手持ちの小さな袋からビニール袋を出すと、チャックを少し開いて左右に振り撒いた。


茶色掛かった緑色の粉が広がり、独特の臭いが鼻を刺激する。


ビニール袋をポケットにしまい、両手で印を結んで護身の結界を展開した。



状況は、銀行強盗に入った覆面の男が包丁を片手に案内係の職員を人質に取り、現金を要求。


客は全員逃げたが、店長が対応中に警官隊が来た為に犯人が鬼化して店長を殺害。


失神した職員の首に包丁を向けたまま立て込もっていた。


脅しの為に、職員の体には幾つもの刺し傷が付けられ、射殺も試みたが照準が定まらず、宮内庁への応援要請となっていた。


警官隊は、これ以上刺し傷を増やさない為に犯人が居るフロアから退去し、裏から事務室と天井裏に隠れて待機している。


フロアに来た重蔵が見回すと銀行内部の客側に人影は無く、見るとカウンターの内側から蒼白い炎が上がっている。


カウンター越しに覗き込むと、倒れている女性職員の近くに、数人の男性が立っていた。


「グランス・エドラント?」

「やあ、賀茂重蔵君。また会ったね。不良品の処置は終わったよ。あとは任せて大丈夫かな?」


犯人だった男は、骨と、わずかな肉塊だけになっていた。


「不良品?鬼化はお前達の仕業なのか?」


重蔵の物言いに、従者の一人が敵意をあらわにしたが、グランスが制した。


「【事故】ってところかな?手柄は君にあげるから、後は夜露死苦ヨロシク!」

「20世紀ネタかよ!」


グランスが、ふざけた敬礼をすると、彼等四人は薄れる様に消えていった。


「さて、どうするか?」


犯人の遺体は残っている。

だが、その横で倒れている職員の出血が著しかった。

重蔵は、無線機で警官隊に連絡をとる事にした。


『応援部隊より。状況は終了した。犯人は射殺扱いで処置。人質は出血多量の為に救急車に移送を急いで下さい』

『対策本部了解。警官隊と救護班突入!白パーカーには関わるな。一切の接触を禁じる!』

『了解!救護班急げ』


銀行の前では、救急車が誘導され、人混みが騒ぎ出している。


重蔵は裏口から突入してくる警官隊とスレ違いながら、隠遁の印を結び、人混みに紛れて姿を消した。


「さて、どう言う風に保則やすのりさんに伝えたものかな?」


パーカーとタオルを脱いで、駅のゴミ箱に放り込むと、重蔵は眉間にシワを寄せながら電車に乗り込んだ。






「どうにも信じがたい話だが、確かに犯人の死体は焼けていた。陰陽道にも、こんな術が有るとは聞いていないし・・・【グランス・エドラント】と【不良品】か?調べる必要が有るな」


都内のオフィス街にあるコンサルティング会社の一室では、賀茂重蔵と保則が溜め息をついていた。


犯人の焼けた遺体は、ブルーシートを掛けて運び出され、検死も特別な部所へと回される。


最近に頻発しているコノ様なケースには、既にマニュアルが出来ており、箝口令かんこうれいも報道管制も法制化されていた。


これは日本だけの話ではなく、世界各国で行われているものだ。


話を聞いて席を立とうとした保則の肩を、太い両刃の剣が再び椅子へと押し戻した。


「殿下は、騒がれるのを好まぬ」

「い、いつの間に?結界を潜り抜けたのか?」


見ると、保則の背後に黒スーツの男が立っており、剣で保則を押さえ付けている。

剣は実体ではなく、霊的な物らしく、やや透けてみえていた。


「騒ぐなら、お前の命だけではなく、文京区に居る家族や勝浦の実家まで焼け死ぬ事になるぞ」

「くっ!」


保則が苦虫を噛んだ様に顔を歪ませる。


「やれやれ、困ってるじゃないかシャールトン。公僕には報告の義務が有るんだから、沈黙は可哀想だよ」

「しかし、殿下・・」


突然現れたグランスは顎に手をあてて、少し考える素振りを見せた。


「そうだね。じゃあ、今回の件はバチカンの特殊部隊が介入した事にしてよ。今、法皇が来日してるでしょ?その警備の者が過剰に反応した結果だと報告してくれていい。警察や表向きには宮内庁の活躍で構わないけど、君達の中では、そうはいかないんだろう?」

「バチカンだと?」


確かに、先日から来日しているニュースはテレビでも流れている。


「ああ。同行者の名簿には俺の名前も有るから、それくらいなら確認しても良いよ」


グランスの目配せで、シャールトンと呼ばれた男の剣が消えた。


「じゃあ、世界の各国で発生している人体発火事件は・・・」

「ノーコメント。貴方の部所でも活動内容は極秘扱いでしょ?想像は自由だけど、報告は裏付けを取ってからにしようね?今回の事も、燃える犯人を眺めている我々を重蔵君が見ただけだろう?我々の言葉を信じる裏付けは?死者に対して我々は祈りを捧げていただけかも知れないだろ?」


そう。殺す瞬間も見ていないし言質も取っていない。

【不良品】は、道を外れた人間を指す隠語かも知れないし、【処置】も教会特有の聖別や祈りを指すのかも知れない。


銀行のビデオは、データが全て消えていた。

この様な事件は、通信障害をはじめ、電子機器の異常が発生している。

天井裏の警官からは、突然倒れて燃えだした犯人しか目撃されていない。


「まぁ、家族もある事だし、実害がある訳でも無いなら、余計な事はしない事だね」


また、ふざけた敬礼をして、グランス達は普通にドアから去っていった。



会議室に残された二人は、無言のまま暫く御互いの顔を見つめていた。


「重蔵。実は、お前の報告を少し疑っていたのだ。だが、謝罪する」

「保則さん、仕方ないですよ。当人も自分の目が信じれていませんから」


二人は、同じタイミングで溜め息をつくのであった。


「しかし、まさかバチカンが関係していたとは驚きですね保則さん」

「重蔵?まさか、その話を信じている訳じゃあないよな?」

「えっ!どう言う意味です?」


保則は、コメカミを押えて重蔵を睨む。


「この結界を破って、ここまで来た奴等の力は確かに驚異だ。だが陰陽術は、ある意味で化かし合い。さっきのグランスの名と顔がバチカンの関係者にあったとしても、同一人物とは限るまい?」


このビルは、地脈から地霊までを選抜し、設計から建設まで陰陽道の技術を注ぎ込んで建てられている。


その防壁を破る相手には、どう足掻いても勝てないだろう。

だからと言って、その言葉を信じるのは、また別の話だ。


名前をかたり、幻術で姿を真似る事は不可能ではない。


「術者としては一人前だが、重蔵もマダマダだな」

「チッ!これだから大人は嫌なんだよ」


保則は苦笑いをし、重蔵は膨れっ面になった。


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