21 生徒会
学校は【原因不明な校舎の崩落事故】で暫く休校になっていた。
かねてより、世界的な感染症に何回も遭遇した日本では、リモート授業の準備が義務化されており、今回もコノ制度が利用されている。
そんなリモート授業が終わった16時に、学校近くのカラオケボックスに生徒会の役員達が集まっていた。
普段着で集まった彼等八人は、単なる遊び友達の集まりにしか見えない。
カラオケボックスに入った生徒会長の藤原明は、鞄から情報パッドと携帯ミュージックプレーヤーをだしてきた。
そして、カラオケ機のマイクの前でミュージックプレーヤーを再生し、以前録音した曲と歌声の音を再生し始めたのだ。
パーティルームのドアの内側にも人を立てて、外からは覗けない様にしている。
廊下側からは、カラオケを楽しんでいる様にしか見えないだろう。
このカラオケボックスは、廊下側には幾つものセキュリティカメラが有るが、室内には無い。
ただ事故防止の為に、室内に赤外線感知と動体センサーだけは付いている。
「わざわざ集まってもらって申し訳ない。先日の学校での事故について報告したいと思う」
生徒会長は歌声の響く室内で、皆に挨拶をした後に情報パッドの映像を見せた。
「これは警察内部の同志より提供された映像だ。生徒会室で建築材を含む多くの物が【消滅】しているのが分かる。これは明らかに【奴等】による破壊工作だ」
「つまりは、我々の活動がバレていると言う訳ですか?」
「そう見るのが正しいだろう」
副会長の返事に、生徒会長が頷いた。
他の生徒会役員達も、その常識では有り得ない映像を覗き込んで頷いている。
「出席者簿でも確認したが、例の悪魔を含めた奴等が、当日は欠席しているので間違いないだろう。だが、人間までグルだとは考えたくは無かったな」
「文字通り【悪魔に魂を売った】裏切り者だったわけですね」
古から有った話ではあるが、近くで人間から裏切り者が出たという話に、皆の顔が歪む。
それは、生徒会役員達からも出る可能性を示唆しているからだ。
特に、これだけ実践的な力を示されては、敗けを見越して鞍替えする者が出るかも知れない。
ここに集まったのは思想や信念で集まった者達で、決して奇跡や法力と言ったものを目の当たりにした者達ではない。
教義を勉強したり儀式などには参加しているが、超常的な事に対する免疫は無いのだ。
だが隠していても、やがて知れ渡る事なら先に示しておくべきだと生徒会長は考えた。
「この様に敵は強大だ。だが、我々の小さな力でも、皆で協力して立ち向かわなくては人類に未来はない」
「そうですね。人類の存亡は、我々の抵抗にかかっているとも言えるでしょう」
生徒会長と副会長は、共に教団で教育を受けた者だ。
生徒会長は、持参した情報パッドをスワイプして、重蔵達の情報を表示した。
彼等のリストには、防衛省に属する茜の調書は勿論、重蔵が陰陽師である事も書かれていた。
特に重蔵は、その能力を見込んで生徒会にも誘ったが、『家の手伝いと重なると職務がこなせないから』という言い訳で断られてしまった経緯がある。
その様に目をつけていた賀茂重蔵に、入国した要注意人物として報告の有ったシシス・F・メリスが接触している事は、彼等にとって大きな誤算だった。
教師には影響力の無い彼等生徒会には、同じクラスになる事を防ぐ手立ては無かったのだ。
「教団本部には、支援を申し出ているが、もう少し時間が掛かる様だ。我々は彼等の監視を重視し、可能ならば分断を試みたいと思っている」
「今回は来ていないが、各部活にも我々の賛同者は居る。今までは制限していたが、この機会に情報の共有を強化して、事に当たりたいと思う」
生徒会は、学校内で多くの部活とも接触がある。
彼等は、その機会を利用して同志を募る活動をしていたのだ。
実際には世間話や噂話程度であり、思想や信念といった繋がりではない。
だが、この情報共有により、賛同者に引き入れる事が可能だろうと彼等は考えていた。
自分達の隣に【実在の悪魔】が居るとなると、他人事ではないのだから。
ゴホン、ゴホン!
パーティルームの中で、一人が咳をした。
見ると、部屋全体が白く煤けている。
「火事か?この煙は!」
立ち上がろうとした生徒会長の膝が揺らぎ、座っていたソファーに手をついた。
ゴホン、ゴホン!
ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!
急に部屋中の者が咳き込みだし、もがきながら床などに転げだした。
室内で白いモヤが動いて人の姿の様になっている。
やがて、一人、また一人と痙攣を始め、唾液をたらしながら動きを止めていった。
すべての者が動きを止めた後、生徒会長が持ってきた情報パッドが消えて、白い粉の入った瓶が姿を現した。
室内の白いモヤは消えて、誰も歌わないカラオケボックスの中で、エンドレス再生された歌声だけが流れ続けていた。
駅前の喫茶店で、シシス・メリスは紅茶を飲んでいた。
座席は複数のセキュリティカメラから見える位置に座っている。
レアチーズケーキを追加注文しながら、彼女は文庫本を片手に二時間近くココで過ごしていた。
店の前にある大通りを走るパトカーと救急車に、一瞬だけ頭を上げた彼女が今、見ているのは生徒会長が持っていた情報バッドだ。
文庫本にはシオリが挟まれて、その情報パッドの横に置かれている。
「まずは情報の流れと組織図。サイトへのIDとパスワードを警察にリークしてっと」
この世界で生まれ育った彼女にとって、情報バッドの操作など朝めし前だ。
警察やマスコミなど複数の場所へ情報の転送を終えて、彼女の口元に笑みがこぼれる。
「生徒会の全員がコカイン中毒死とか、この学校はどうなっているのかしら?」
この情報を流用して警視庁内の配下が、学校の事故現場から時限装置の一部が発見され、硝煙反応があったと証拠を改竄する事になっている。
『学生にまで浸透した麻薬を使ったテロリスト洗脳と、それが起こした爆発事故』というシナリオで既に準備済みだ。
警視庁内部の敵側協力者も、かなり排除できるだろう。
勿論、マスコミやネットにも、生徒会長のIDで一部の情報を流しているので隠蔽はできない。
情報バッドの初期化をしながら、シシスは最後のケーキを口へと運んだ。
◆◆◆◆◆
「そうか。シシス様の近くで反対勢力が祈りの儀式を行うと、異界への門が開く恐れがあるのか」
宮内庁の分室。
その一室で、重蔵は上司である平賀事務次官に定期報告を行っていた。
シシスとの連絡役が本来の目的である彼の行動は、当然シシスも知っているし、報告の内容は口止めされている物でもない。
書類での報告は漏洩する可能性が有るし、シシスと祭事課の繋がりは一部の者しか知らない為に、直接口頭での報告になっている。
「先日の、生徒会役員の死因が、シシス様によるものかは不明ですが」
「その生徒会長のアドレスから、宮内庁を含む各所に組織の情報が送られているところを見ると、十中八九は間違いないだろう。お陰で、どこも天手古舞だよ」
眉間にシワを寄せる平賀の机の上に山積みされている書類の中には、確かに生徒会役員の情報も見えがくれしていた。
幾つもの機関が、同一の情報を元に連携せずに行動している為に、『調査員を派遣したら行方不明や、既に事故死していた』という案件が御互いに各所で起こっているのだから。
「シシス様達に対する反対勢力が、一つだけとは限らないからな。賀茂君、今後とも彼女の言動には注意をしておいてくれ」
「分かりました」
重蔵は、頭を下げて部屋を出た。
「あぁ、厄介事は勘弁なんだがなぁ」
平賀事務次官は、愚痴りながらパソコンのメールソフトを起動させた。




