四十八話 でもやっぱり、白澤友里は残念である
【重要】
※前話の内容が大幅に変わっていますので、そちらを確認した上でお読みください。
『ふー……いやー歌った歌ったー。メドレー形式で歌うのは初めてでしたが、案外いけましたね。それに途中で曲が変わるからか、いつもよりも効果覿面だった気がします。今度は別のアニソンメドレーやってみようかな』
商店街を歩きながら、友里はそんなことをテレパシーで送ってくる。
「満足するのは構わねぇけどよ。あれ、大丈夫なのか?」
『大丈夫ですよ。叫びながら「分かった、もう二度と纏わりつかない」って言ってましたし。というか、こんな奇妙な現象に出くわしたんです。普通の人間なら、近づくことはないでしょう。まぁ、あの人が普通の人間の感性をしているかはさておいて、それでももうちょっかいを出してはこないでしょう』
それは確かに一理ある。
脳内に奇妙な声が聞こえてくる……普通なら、それだけで怖いと思うものだ。ましてや、それが殺人的な歌を歌ってくるとなれば、尚更。そんな奴が近くにいる人間のところになど、もう二度と行かない、となるのが自然な流れだろう。
しかも、この対処法ならば、誰かに相談することもできない。したところで、頭のおかしな奴として認識されるだけ。誰も血を流さず、一方的に相手を退散させる方法として、これ以上のものはないだろう。
だがしかし。
「……その、悪かったな」
『? 何がですか』
「いや、またお前の力に頼っちまってよ……」
そんな篤史の言葉に、友里は首を傾げる。
『何ですか篤史さん。変に改まっちゃって』
「いや、なんつーかよ、最近お前の力にばっか頼って、俺何にもしてねぇと思って……」
澄の時も、妙な連中に絡まれた時も、そして今回も。
篤史はその全てにおいて、友里に解決してもらっていた。
本来ならば、篤史が何とかして対処すべきはずだった。だが、頭の回転がそこまでよくない篤史にとって、すぐに考え付く解決策は、それこそ暴力によるもの。
今回の件、もしかすれば、篤史が徹をボコボコにして二度と来させないようにする。そういう未来もあったのかもしれない。
だが、それは現代の日本において、あまりよろしくない対処法。何より、篤史はそれで一度、痛い目を見ているのだ。故に、彼はまた友里の力に頼ってしまった。
そんな自分が情けない……そう言いたげな彼に対し。
『はぁ? 何言ってんですか、篤史さん。何もしてないって、どの口が言うんですか』
友里は、そんな言葉を送った。
「え……いやだって、俺今回、本当に何もできてなくて……」
『いやいや、篤史さんがいなかったら、私、楓さんと出会ってませんでしたし。加えて言うのなら、篤史さんがいなかったら、きっと楓さんと友達になることもできませんでした。貴方がなんだかんだでお人よしな性格をしていたからこそ、私と楓さんをつなげてくれたんです。つまり、全ては篤史さんのおかげというわけです』
「いや、それは流石に話が飛躍しすぎなんじゃ……」
『いいえ、そうなんです。とにかく、この結末は篤史さんのおかげでもある。それを自覚してください。大体です。前から言ってますが、篤史さんは自己評価が低すぎなんです。まるでアレですね。超絶チートな力を持ちながら、自分は弱いと勘違いしているネット小説主人公みたいです』
「やけに具体的だな」
『シャラップ。私が言いたいのは、そういう自分に対して勘違いしている人間は時折、見ているとイライラするってことです。そして私はそういうのが嫌いです。なので、篤史さんはもっと自分に自信を持ちましょう。そっちの方が、かっこいいですよ?』
「……、」
言われ、思わず篤史は言葉を失った。
正直、篤史は未だに今回、自分が何かをやれたとは実感できていなかった。
しかし、だ。
それでも、誰かに「貴方のおかげだ」と言われた事実がどうしようもなく嬉しくて。
「……ありがとな、白澤」
つい、そんな言葉を小さく呟いたのだった。
『? 今、何か言いました?』
「いや何も。それよりも、だ。テレパシーとは言え、歌ったら疲れたろ。何か奢ってやるぞ」
『え? マジですか!? じゃあ、メガ盛りルーレットたこ焼き買いましょう!! 何でも八個のたこ焼きの中に超絶辛い奴が混じってるらしいんですけど、それ以外は滅茶苦茶美味しいって評判なんです!!』
「おう、また珍妙なやつをご所望だな……まぁ、いいぜ。けど、ハズレ引いても文句は言うなよ?」
『ハッハッハ、何を仰る篤史さん。それは私のセリフです。辛いのを食べても大丈夫なよう、水を買っておくことを提案しておきます』
そんなことを言い合いながら、二人は共に歩いていく。
誰かの問題を解決するためには、決して自分が直接介入するだけが方法ではない。
ただ友人になったり、ただ遊んだり、ただ共にいたり。
それだけでも、相手の心の支えになり、何かを変えることもあるのだ。
たとえ、その出会いがどんなものであったとしても。
たとえ、その関係がどこにでもあるものだったとしても。
人を成長させる要因になるのかもしれない、と篤史は身をもって理解したのだった。
まぁ、当然のことながら。
『ぎゃあああああああああああああああああああっ、辛い辛い辛いっ!! あ、あづじざん、水、水買ってぎでぐだざい~~~~っ!!』
「いやすげぇなオイ。お前の残念さはどこまでも突き抜けてるのな」
八つの中に一つしかない激辛たこ焼きを一発で引き当てながら、舌を出し、涙を流しながら懇願してくる少女を見て、篤史はある種の安堵を覚えていたのだった。
これにて二章完結です!!
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!
新ヒロインもそれなりに好評なようで、何よりです。
ただ、個人的に思ったのは主人公よりラブコメしているような……まぁ気のせいですよね(笑)
二章はこれにて終わりになりますが、まだ物語は続きます。
え? いつになったら主役二人の恋が始まるのかですって?
…………さぁ?(オイ
次こそは、彼らの恋が始まる……のかどうか、是非楽しみにして待っててください!!