四十四話 妙なテンションで行動するのは危険
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
「―――で? 何か弁明はあるんだろうな?」
篤史は端的に楓に向かって問いを投げかける。
「べ、弁明って……ええと……」
「ほう? この現状が分からないと? 自分が何で周りを囲まれながら正座させられているのか、理解不能だと、お前は言うのか?」
現状……つまり、楓を中心として、四人が彼女を取り囲んでいる状態。
そして、その中心で、楓はまるで説教を受けている子供のように肩を狭めて正座していた。いや、まるで、ではないか。実際に今、彼女は四人から猛烈な説教を受けていたのだった。
その原因は言うまでもないだろう。
「ホント下から見た時は焦ったわー。まさか空中で宙づりになってる女の子がいると思えば、次の瞬間、その子が落ちちゃったんだもの」
『いやー、あれはちょっと心臓が止まりかけましたね。いや、冗談抜きで一瞬、目の前が真っ白になりましたし……でももっと驚いたのは、途中で止まったことですけど』
友里の言葉は大げさではない。実際、篤史も頭の中のものが吹き飛んだほどだ。それだけ、目の前で人が屋上から落とされるというものは見ている側にとっては心臓に悪い。
しかし、だ。
今回に限っては、そのまま転落死、ということにならなかったがため、まだ幸運だと言えるが。
「っというか、あれどうやって宙づりにしてたの?」
「頑張って両手で吊るしました」
「おいこら何誇ったような顔してんだよ。っつか、そこじゃないだろ。何で途中で落下が止まったのかって話だ」
「ああ、それはあれだ。命綱だよ。病院にあったシーツとかカーテンとか集めて作った」
「命綱って……でもあの時はそんなもの見えなかったぞ?」
「アタシの力で透明にしてたからな。一回アイツを気絶させて、その時に命綱をつけて透明にした状態で吊るしたんだ。おかげで、あっちは命綱をつけられていることすら気づいてなかったよ」
さらりとそんなことを言う楓に対し、篤史は頭を抱えていた。
確かに、自分が宙づりの状態で命綱も透明化されてしまえば、効果は絶大だろう。そして、そんな状態ならば、足にくくりつけられている違和感も感じる暇もない、というわけだ。
だが、しかし、だ。それでもあまりに杜撰な作戦としか言えない。
「っつか、よくもまぁあんな危険なことができたもんだな」
「き、危険って……まぁ確かにそうかもしれないけど、でも命綱を作ってたし、絶対に安全ってわけじゃないけど、死なないよう配慮はして……」
「本当に、本気で、そんなこと言ってるのか?」
「………………ハイ、正直やりすぎたと思ってます」
楓の反論は、篤史の言葉で一刀両断された。
命綱を作っていたから安心……などというのは、あまりにも楽観的な話だ。確かに、結果的に見れば成功しており、絶大な効果を与えることができた。
けれども、だ。
「まぁ、さっきあらかたここでの事情は聞いた。その上で、あの女に同情するつもりは一切ない。ない、が……それとこれとは話が別だろ。もしも、本当に何かの拍子であの女が落ちて死んじまったら、どうするつもりだったんだよ」
「うぐ……そこを突かれると、何も言えない……」
篤史の指摘に、楓は反論できない。
もしも、命綱が途中で切れてしまったら……その結果、楓は取り返しのつかないことになっていただろう。
「その、えっと……何というか、色々と溜まっていたものが爆発して、それで変なテンションになって……悪かった」
「はぁ……っというか、どっからあんな発想が出てきたんだよ」
「いや、その……この前白澤から借りた映画を参考にして、やってみたんだけど……」
「つまり元凶はお前か」
『ファっ!? いやいやいやいや、映画を貸しただけで何故に元凶扱い!? っというか、流石にそこまで先読みできないですって!!』
友里の言葉に、しかし今回だけは篤史も納得するほかなかった。彼女は別に、楓に映画と同じようなことをさせるつもりなど一切なかった。というか、映画を見ただけで、それと同じ方法をとろうとする者はそうはいないだろう。
そんな非現実的な行動をしてしまうほど、楓のテンションはおかしな方向に向いていた、ということだ。
「まぁ、まぁ。過ぎたことはいいじゃない。っというか、向こうがそれだけやり返されることしてたわけだし」
と、近くで泡をふいて倒れている加奈をさす真。
「でも楓ちゃん。私はまだ怒ってることがあります。それが何か、分かる?」
「えっと……」
それが何か分からない、と言わんばかりな楓の態度を見て、真は続けて言う。
「私、前に言ったわよね? 困ったことがあったら、ちゃんと言いなさい。そして頼りなさいって。なのに、貴方一人で解決しようとここまで来ちゃって……全くもう。本当に困った子なんだから。でも……本当に無事で良かったわ」
言うと、真は楓を抱きしめた。
「それから、私がこんなこと言うのも何なんだけど……よく頑張ったわね」
子供のやったことを叱り、子供が安全だと知り安堵する。
その仕草、言葉はどこまでも大人のそれであった。
ゆえに、篤史は思わず、言葉を零す。
「ほんと、お前の親父さんって大人なのな」
『……ノーコメントです』
篤史の言葉に、友里はそんな言葉を送ってくる。
それはまるで、父親を褒められながらも、それを素直に認められない子供の反応そのものであった。
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