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四十三話 脅しもほどほどに

※間違って別のを投稿していたので、修正しました。

「うっぷ……」

『っていうか、篤史さん。大丈夫ですか?』


 手を口で抑える篤史に対し、友里はそんなテレパシーを送ってくる。


「あ、ああ……大丈夫だ。しかし、店長の運転テクは凄いな。ここまで普通、二時間はかかるっていうのに、一時間足らずでついちまった」

『まぁ、あの人、運転技術に関しては凄いですから。それで何度も白バイを出し抜いてきたらしいですし』

「まじかよ店長、半端ねぇな……」


 予想外な真の得意分野……といっていいかわからないが、とにかく、それによって篤史たちはここまで来ることができた。

 とある山奥。そこにある廃病院に彼らは向かっている。

 しかし、そんな中、春奈は顔をしかめた状態で口を開いた。


「あの、一人でぶつぶつと何を言ってるんですか? っというか、こんなところに楓さんがいると本当に思っているんですか?」


 彼女の言葉は尤もだろう。

 春奈には一応、篤史の能力について説明はしてある。が、だからと言って、すぐに信じられるかと言われれば、それはノーだ。普通、超能力を持っていると言われて、簡単に信じる人間などいない。

 しかし、それでも篤史は敢えて言う。


「ああ、それについては間違いない。俺の鼻をフル活用して、あいつの匂いを追ってきたからな。正直、ここまで範囲広いのは初めてでちょっと不安だったが、ここまでくれば大丈夫だ。あいつはこの先にいる。必ずな」


 自信がある一言。

 篤史の鼻が利くのは半径一キロ圏内だった。

 何故過去形なのかというと、その範囲が更新されたためである。


(まさか、本当にたどり着くとはな。最初は本当に不安だったが、人間、気合と根性で何とかなるもんだな……その反動か、滅茶苦茶鼻がムズムズするけど)


 篤史は今まで、自分の力を高めようとはしてこなかった。そんなことをしても無意味だと思ったから。何せ、篤史の能力は友里や楓とは違って、強化したところで何の意味もないのだから。

 しかし、いいや、だからこそ、この力を使ってどうにかして楓の居場所を突き止めようとした結果、今まで以上の広い範囲で探せたのかもしれない。まさに、火事場の馬鹿力的なものである。

 などと考えていると、ようやく、廃病院に到着した。

 すると。


「っ!? あれを見て!!」


 真に言われ、一同は上を見上げる。

 そこには、屋上から宙づり状態の加奈の姿があったのだった。


 *


「もう……もう、許して……」


 力のない声で、宙づり状態の加奈は言う。

 その表情はほとんど死にかけ。生気がない。だが、それは廃病院の屋上から、片足を掴まれ、宙づり状態にされているからではない。

 ここに来るまで、かなりの『躾』をされた彼女は、精神的ダメージをかなり負っている。外見的な傷は一切ないが、心の傷はかなり抉られていた。

 その内容は……まぁ、敢えて伏せるとしよう。

 加奈の言葉を聞いて、透明状態のままな楓は言い放つ。


『だったら、もう二度とアタシらに関わらないと誓え。そうすりゃこの手は離さない』


 現在、楓は未だ透明のまま。故に、客観的に見れば、加奈が何故か宙で浮いているような姿になっている。

 しかし、加奈にとって、一番の恐怖は楓の姿が見えないことであり、それによって彼女の表情や掴んでいる手が見えないということ。

 いつ離されるのか、今相手はどんな表情を浮かべているのか。それが確認できないことが、恐怖を倍増させていた。


「分かった! 分かったから!! もう二度と、私は貴方たちに関わらない!! 誓うから!! だから、お願い許して……!!」


 ゆえに、彼女がやることは、言われた通りにすること。

 交渉、懇願、話し合い。それらは相手の表情やしぐさを見て、初めてできることだ。その相手の顔が見えないどころか、姿が把握できなければ、それらは意味を成さない。

 相手の姿が見えない。それが、どれだけ怖いことなのか、加奈はこの時、嫌というほど理解させられた。


『本当か?』

「本当よ!! 本当に、本当に誓うから!! だからどうか、許して……!!』

『…………、』


 正直な話をしよう。この時、楓は加奈の言葉をほとんど信じていた。

 自分に逆らったら、報復したら何をされるのか。それを、徹底的に彼女の心に刻み込んだ。ゆえに、絶対とは言えないが、加奈がこの後、何かしらの仕返しをしてくる可能性はかなり低い。

 それを楽観的という者もいるのかもしれない。だが、少なくとも、楓は加奈はもう何もしてこないと確信していた。

 ゆえに、あとやるべきことはただ一つ。


『……この手は離さないと言ったな』

「そ、そうよ。だから助けて……」


 涙ながらに懇願する加奈。

 そんな彼女に対し。




『あれは嘘だ』




 そう言い放ち、楓は加奈の足から手を離す。

 そして。


「いやぁぁぁあああああああああああああっ!!」


 一人の少女の絶叫が、山の奥地で響き渡ったのだった。

面白い・続きが読みたいと思った方は、恐れ入りますが、感想・ブクマ・評価の方、よろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
[一言] どうでもいいけど私の顔と仕草を誰も見ようとしないので、今回の話の理屈で言えば私も交渉が超強いことになる(前向き)
[一言] 元婚約者にも同じことをやりましょう 昔の恨みもあるし
[良い点] 楓「この手に限る」
感想一覧
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