九話 追試と言う名のピンチ
『追試?』
『はい……この前のテスト、赤点が出まして……それで、今度、追試をすることに……』
五時限目の授業中に、そんな話題でテレパシーを行う二人。
一週間前に行われた中間テスト。その結果が、今週になって、続々と返ってきているのだ。その結果が悪い者は追試となる。無論、赤点などとれば、当然のこと。
どこの学校でもありふれた、よくある話。
だからこそ、篤史が投げかける言葉はただ一つ。
『へぇ。そうか。頑張れ』
『冷たい! 傷ついているクラスメイトに対し、あまりにも辛らつではっ!?』
『テストの点数が悪いのは自分のせいだろ。それに、追試まで、まだ時間あるだろ。それまで必死になって勉強すれば、何とかなるだろ』
『うう~……この前、本当に困ってたら助けてやるって言ってたのに!!! 嘘つき、篤史さんの嘘つき!! そんな人にはもう部室のプリンあげませんよ!!』
いや何だその脅し文句は、と思わず呆れかえってしまう篤史。相変わらず、何というか、色んな意味で残念であった。
そもそも、だ。以前も言ったが、篤史もそこまで勉強ができるというわけではない。赤点や追試にはならなかったものの、平均点を下回る教科もいくつか存在する。故に、自分は人に教えられる立場ではないのだ。
ないのだが……それでも、自分の発言した言葉に責任を持てないのも、それはそれで問題だろう。
『はぁ……ちなみにだが、赤点とった教科は?』
『その……数学が……』
『数学か。まぁ……数学なら、ある程度は教えられるとは思うが……』
『本当ですか!? やったぁぁぁ!! これで勝つる!!』
『勝つるって何だよ。っつか、何に勝てんだよ』
まだ数学を教えるとしか言ってないのに、彼女はもう追試を乗り越えた気でいる。
そういうところが駄目なんだぞ、残念美少女。
『と、言うわけで、今日も一緒に帰りましょう』
「は?」
などと。
予想外すぎる提案に、思わず篤史は口に出して反応してしまう。
幸いにも、小声だったためか、誰も気づいていない。が、無論、友里は篤史の言葉を聞き洩らしてはいなかった。
『むー。何ですかその反応。勉強と言ったら、放課後一緒にっていうのが定番じゃないですか』
『いや、そうじゃなくて……いいのか? 俺と一緒に帰ると、それこそ目立つだろ?』
篤史が学校でどのような扱いをされているのか、知らないはずがない。そして、そんな男と一緒に下校するとなれば、それこそ目立つに決まっている。
『んー。そこについてなんですけどね。私、考えたんですよ。篤史さんと一緒にいれば、他の連中が寄ってこないので、私にとっては好都合かつ、ばんばんざい、ではないかと!』
『人を蚊取り線香的な扱い方をするな』
とは言うものの、友里の理屈は一応の筋は通る。
篤史は言ってしまえば、学校の嫌われ者、というより、クラスの者たちからは恐れられている。そんな彼の隣にいれば、確かに友里に対し、余計な誘いをしようとする輩はいないだろう。
だが、そこには致命的な短所が存在する。
『それでも……あれだぞ。変な噂とか、絶対にたてられるぞ』
『いやいや、今でももう変な噂たちっぱなしですから。それが一つ増えたところで、どうってことないです』
『ならオタクな部分も曝け出しても大丈夫じゃね?』
『それとこれとは話が別です。篤史さんは分かってないんです。陽キャ達からの陰キャへの差別的視線を……』
『俺との悪目立ちより、そっちの方が嫌なのか……』
確かに、思い返せば、彼女は目立つのが嫌だとは一言も言っていない。
ただ、平和に、穏やかに学校生活を過ごしたいと、吐露していた。
そう考えれば、篤史の隣にいることで、余計な茶々を入れてくる者は少なく、何かしらの誘いを受けることも少ないのかもしれない。
だが、それが果たして平和で穏やかな学校生活かと言われれば疑問なところでもあり……。
と考えていた篤史だったが。
『あっ、ちなみに、私、人が多いところで勉強するのは嫌なので、篤史さんの家でやりましょう』
「は?」
これまた先ほどと同じような反応をしてしまう。
今度はどうやら気づかれたようであり、何人かのクラスメイトの視線が篤史に突き刺さる。それに対し、気恥ずかしさを感じる篤史だったが、しかし仕方ないだろう。あまりにも突拍子もない提案だったのだから。
『……おい。仮にも年ごろの女子高生が、男の家に行こうとするとか、それはどうなんだ?』
『いや、篤史さんですから大丈夫でしょ、そこは』
『それはそうだが……何だろうな。そこはかとない残念な信頼をされているような気がする』
信頼されていることに嬉しいと思えばいいのか、それとも単純に舐められているのか……判断が悩ましいところだった。
とはいえ、だ。とりあえず、やることは決まっている。
『……分かった。じゃあ放課後、うちで勉強会だ』
『やったぁぁぁ!! あっ、お菓子とかジュースとか買っていくので、篤史さんの家にいく途中、スーパー寄ってもいいですか?』
『おうコラ駄目妖精。テメェちょっといい加減に自分の立場の危うさ理解しろや』
勉強会だと言っているにもかかわらず、遊ぶ気満々の友里に対し、ちょっと本気で指摘する篤史。
何にしても、こうして二人は放課後、一緒に勉強することになった。
そして、時間は刻々と過ぎ、全ての授業が終了する。
多くのクラスメイト達が、部活に行ったり、下校したりする中、篤史は約束通り、友里と一緒に帰ろうとする。
しかし。
「おい、山上っ。お前、どういうつもりだよっ」
唐突に投げかけられた怒号にも似た言葉。
それに対し、篤史は速攻で理解する。
これはまた、面倒なことになるぞ、と。
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