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三十一話 嫌な予感がしたら基本当たるよね

 結論を言うと、マジックショーは大成功だった。

 縄抜けやハト出し、箱からの大脱出など、子供にも受けそうな、単純なものを選んだのが功を奏したのだろう。

 篤史は、今までの人生の中で最も多い拍手喝采を受けたのだった。


「二人とも。今日は本当に助かった。おかげで、子供たちは皆、喜んでいた」

「そりゃあ、何よりだ」

「まぁ、唯一の問題は、あのクソ馬鹿園長の趣味が出てしまったことだが……全く。園児に悪影響を及ぼしたらどうするつもりなんだ。しかも、バニーがダメなら、スクール水着とか言い出す始末。あの野郎、今度同じことしたら本当にしばき倒す」

「いや、柊。今日もお前、結構、園長をしばき倒してたと思うんだが……」


 柊にある意味でボロボロにされながらも、園長が頼み込んできた結果、結局澄は、バニーガール衣装のまま、アシスタントをすることになった。

 無論、その姿に釘付けになった少年たちは少なくないだろう。

 柊が言うような悪影響が出ていなければいいのだが……。


「そんなわけで、霧島。お前には妙な格好をさせて悪かったな」


 謝罪する柊に対し、澄は不愛想な顔で言葉を返す。


「そう思うのなら、そろそろ私を解放してくれませんかね?」

「むっ。それとこれとは話が別だな。それは人に妙な薬が入った飲み物を渡さなくなったら考えてやろう」

「っ!? 何でそれを……」

「それくらいの意識と対策はしてある。そして、まだあんなことをしている間は、正直お前から目を離すつもりはないからな」

「くっ……」


 淡々と言う柊に対し、澄は苦虫を嚙み潰したような顔になっていた。

 自分の飲み物に薬を入れられていたというのに、そのあっけらかんとした態度。本当に、何者なのだと思いたくなる。


「山上も、今日は本当に助かった。礼を言う」

「別に大したことはしてない。っというか、柊なら、あれくらいのこと、できそうな気がするが……」


 篤史の言葉に、しかし柊は首を横に振った。


「いや、俺はああいったことは不得手なんだ。ま、だからお前に頼った、ということなんだがな」

「へぇ、そりゃまた意外だ。柊にも不得意なことがあるなんてな」

「お前は一体俺を何だと思ってるんだ? 俺だって人間だ。苦手なことの一つや二つ、あるのは普通だろう」

「うん。まぁ確かにそうなんだが、お前が普通という言葉を使う時点で、もう違和感しかないわ」


 恐らく、自分たちの学校で最も普通というものからかけ離れた存在。そんな男が普通だのと言っても、全く説得力がないのであった。

 と、そこでふと柊が思い出したかのように、言葉を紡ぐ。


「そういえば、山上。お前に一つ、言っておかなければならないことがある。広瀬のことだ」

「何か分かったのか?」

「いや、具体的なことはまだだが、少しだけ。それと、広瀬というより、その元婚約者の話なんだが……どうやら、この街に来ているらしい」

「…………まじか」


 全く考えていなかったわけではない。

 だが、事実としてその答えを聞かされると、流石に驚くほかなかった。


「でも、何をしにこの街に?」

「分からん。まだ調べたばかりで、色々と情報が不足しているが、この街にいるのは確かだ。とはいえ、その目的や理由については不明なままだ。私見的なことを言わせてもらえば、広瀬がいる街にわざわざやってきたということは、正直あまりいい未来が見えないのは確かだ」


 それはそうだろう。

 元婚約者というだけでも不穏な関係だ。だというのに、徹は楓のことを自分の恋人を陥れた存在だと思っている節がある。そんな男がこの街にやってきたとなれば、気楽にいられるわけがない。


「とはいえ、もしかすれば、たまたまこの街に来ただけなのかもしれん。だから……」

「あら意外。委員長でも、そんな腑抜けたことを言うのね」


 そこへ、澄の鋭いメスが入る。


「委員長から話は聞いてるわ。私も情報収集をちょっと手伝ってるし。その上で言わせてもらうわ。少なくとも、二宮徹は広瀬楓のことを恨んでいる。そして、そんな奴が恨んでいる相手がいる街にやってきた。これが偶然で済まされるとでも思うの?」


 澄の言葉は尤もだった。そしてそれは、他の誰でもない、先日まで復讐のことだけを考えていた彼女だからこそ、説得力のある言葉。

 そして、そんな彼女の言葉を裏付けるかのように、篤史の電話が鳴る。


「…………白澤?」


 友里からの電話。それがどれだけ珍しいことなのか、篤史は理解していた。普通、連絡事項はメールなどで済ます彼女が、わざわざ電話をしてくる。

 何やら嫌な予感をさせながら、篤史は電話に出た。


『あ、もしもし篤史さん?』

「ああ。そうだが……どうした、白澤。お前が電話なんて。しかも喋ってるし……」

『いや、電話は喋らなきゃ無理じゃないですか……まぁ、そう言われるのも無理はありませんが。それより、篤史さん、大変言いづらいんですが、今すぐうちの店に来てもらえませんか?』

「何かあったのか」


 篤史の問いに対し、友里はどこか言いづらそうな声音で。


『えっとですね…………今、うちに楓さんの元婚約者の二宮徹が来てるんですよ』


 そんな、あまりにもタイムリーな答えを返してきたのだった。

面白い・続きが読みたいと思った方は、恐れ入りますが、感想・ブクマ・評価の方、よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 結局、バニーさんが出て来たのかあ。まあ、マジックの助手だから…当然だな。 委員長は、それでも一般人とな。まあ、類友というか、とんでもないのばかりあつまっていること。 婚約者は何をしてくれま…
[一言] 友里は喋らないのだと思ってた。 篤史は友里の事をまだ名字で呼ぶんですね。
[一言] モールス信号とか駆使して意地でも喋らないものかと
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