三十話 やはりバニーガールは最高である
待合室。
篤史たちは、そこでマジックショーの準備をすることになっていたのだが、柊が真剣な声音で口を開いた。
「……山上。ちょっと俺はあのクソ馬……ごっほん。園長に話があるから、霧島とここで待っててくれ」
言うと柊はすぐさま、待合室を出て言った。
それを確認すると、澄は明らかに不機嫌な顔つきのまま、言い放つ。
「それにしても、委員長も余計な真似してくれるわね。まさか、貴方と一緒に、こんなことをやるハメになるなんて……」
「それを俺に言われてもな……文句なら柊に言え」
「言っても聞きやしないわよ、彼。っていうかさ、本当に何なのあの男。私のこと容赦なくこき使うし、逃げようとしたらすぐに見つけられるし、ちょっと強烈な薬使った催眠術とか使っても全く効果なかったし……」
「おいこらちょっと待てや。最後のは聞き捨てならないぞ」
「別にいいでしょ、効果なかったんだから」
そういう問題ではない。
……と言いたいところだが、もっとも恐ろしいのは、澄が催眠術を使っても、柊には全く効かなかったという点だ。
流石は委員長、というべきか。
「まぁ、あいつが常人離れしてるのは今に始まったことじゃねぇだろ。っつか……」
「あら? 何か言いたげね。私のこと、いやらしい目で見て。そんなに気になる?」
「いやそりゃあそうだろ……お前みたいな奴がバニーガール姿してたら誰だってガン見するっつーの」
そう。篤史の言葉通り、澄は現在、バニーガールの衣装を着ていた。脇も胸元も丸見えであり、網タイツの脚線美は色っぽいどころの話ではない。
正直に、そして簡潔に言おう。
今の澄は、かなりエロい、と。
「しょうがないでしょ。これ着てくださいって書かれた紙と一緒に待合室に置いてあったんだから」
「それは事実ではあるがそれで素直に着るのはどうかと……っつか、それ着てよく平然としてられるな」
「この程度の服なら別に問題ないでしょ。裸になったわけでもあるまいし。それとも何? 山上君は、こういうのを着て顔を赤らめるところを想像してたわけ? それとも、女子のこんな格好見て、緊張してるとか?」
「いや、そういうわけじゃないが……」
嘘である。
この男、美少女のバニーガール姿を見て、かなり緊張している。
メイド喫茶でも結構肌色成分が多い衣装はあった。が、それでも目の前にいる澄とのインパクトは全く別物。話にならない。
ゆえに、篤史は思う。
バニーガール、最高である、と。
「ま、冗談はそこまでにしておいて、私が信じられないのは、そうやって貴方が普通に話しかけてくることの方がどうかしてるとしか思えないんだけど。もしかして、私が貴方に何をやったのか、もう忘れたの?」
ツンケンとした口調。だが、無理もない。何せ、澄にとって、篤史は自分の人生をある意味無茶苦茶にした相手の子供なのだから。
その原因が、徹頭徹尾、彼女の親にあると言っても、はいそうですか、と言って納得できるほど、世の中は簡単な作りでできていないのだ。
「……いいや。忘れてねぇよ。んでもって、お前がもう二度と手を出さないって言ったこともしっかり覚えてる」
「そういうことを言ってるんじゃないわよ……よく私たちの因縁で、平気な顔できるわねって言ってるの」
「まぁ、そうだな。俺らは色々と事情が込み入ってるのは確かだ。特に、お前が俺を恨む気持ちもわかる。けど、それをいつまでも引きずって、ぐだぐだやるのがお前の望みか? 顔合わせる度に、むかついた表情を浮かべて、気まずくなるのがいいと?」
「いい悪いの問題じゃない。そうなるのが普通だって言ってるの」
「そうかい。まぁ、それはそれで構わない。俺も別に仲良くしろとは言わないし、思ってもない。ただ、普通のクラスメイトとして付き合ってくれればいい。委員長も、それが目的でこんなことをしてるんだろうからな」
柊は二人の事情を知っている。そんな彼が、わざわざこうしてセッティングをしたのは、つまるところ二人の溝を埋めろ、という意味もあるのだろう。
無論、彼とて完全な和解ができるとは思っていないだろう。ゆえに、ある程度、それこそ朝、教室であったら挨拶をかわす程度の仲になればいいはずだ。
「ちっ……本当に親子そろってむかつく。そういう態度が腹立つのよ」
「そうかい。そりゃ悪かった」
「加えて、そのあっけらかんとした口調も気に食わない」
「へいへい」
「あと、普通に顔が怖い」
「それは関係ないだろ」
流れで普通に悪口を言われ、流石の篤史もそれには反論をする。
そんな彼に対し、澄は溜息を吐いた。
「……今日のところは、委員長に言われてるから仕方なく手伝ってあげる。けど、勘違いしないで。これで全部帳消しにするとか、無かったことになんてしないから。復讐はしないけど、私はあなた達を許すつもりはこれっぽっちもないんだから」
「そうか。ま、今はそれでいいよ……ってか、柊の奴遅いな、一体何をやって……」
などと言っていたところで。
『―――だから、何考えてるんだって聞いてるんだ、このクソ馬鹿がぁぁああ!! 子供が見てる前で、あんなハレンチな格好を、させるやつがあるかぁぁぁああああっ!! それでも教育者の端くれか貴様ぁぁぁぁああああああああああああっ』
どこからともなく、柊の怒号が耳に入ってきたのだった。
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