二十八話 何だかんだで国民的なアニソンは覚えているもの
※大事なことなので、もう一度言います。
誰が何といおうと、これはラブコメです(真顔)
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」
歌い終わった(多分)友里は、手を膝につけながら、荒い呼吸をしていた。とはいえ、本物の声で歌ったわけではなく、テレパシーでの歌ではあるが。
「おい白澤大丈夫か。もうはぁはぁじゃなくて、ぜぇぜぇとか言ってるが……」
『さ、流石に五人同時のリサイタルはきつかったです……テレパシーを送るだけならまだしも、歌うという作業も入れたら、こんなに疲れるとは……選んだ曲は、そこまで疲れるものではなかったのですが』
選んだ曲。その言葉に、篤史は疑問を抱き、思わず問いを投げかけてしまう。
「……ちなみに、何歌ったんだ?」
『もちろん、アニソンです。けど、コアなものじゃなくて、ポピュラーなものにしました。具体的に言うと、日曜の夕方にやってて、主要人物のほとんどが魚の名前で……』
「オイだからやめろって!! お前はどうしてそう、危ない橋を渡ろうとするんだよっ!!」
あろうことか、国民的アニメのオープニングで巨躯の男たちを一掃してしまうとは……白澤友里。本当に、色んな意味で恐ろしい少女である。
と、そんなことをしているうちに、男たちの一人が、目を覚ます。
「う、うう……一体何が……」
「気分はどうだ? ま、聞くまでもなく、最悪だろうが……けど、そっちに合わせてやる暇はないんでな。起きたところで悪いんだが、お前らに指示した奴のことを聞こうか」
未だ状況を把握できていない男は、目を大きく開く。
が、それも一瞬のことで、次の瞬間には倒れながらも、篤史たちを睨みつけていた。
「……言うと思うか?」
「普通なら思わない。だが、そうだな。口を割らないっていうんなら、好きなアニソンを言え。そしたら、さっきのような地獄をもう一度味合わせてやる」
「なっ……」
『任せてください。どんなアニソンも、フルで歌いきる自身があります』
現在、ある種のハイな状態になっている友里は、不敵な笑みを浮かべるかのようなテレパシーを送ってきた。
……まぁ、恐らくではあるが、明日にはその反動でかなり落ち込んでいるのだろうが。
しかし、友里がもう一度、その歌声(?)を披露するまでもなく、相手の男が口を割った。
「……に、二宮徹。そいつにお前らを脅せと言われた」
言われた瞬間、篤史たちは眉をひそめませる。
その名前には聞き覚えは全くない。だがしかし、『二宮』という苗字に関しては、知らないというわけではなかった。
「二宮、徹……?」
『篤史さん、それって……』
「……多分そうだろうが、一応、広瀬に確認をとってみるか」
ただの偶然か、それとも……。
今は分からない。だが、篤史としては、これが何かの間違いであることを願う他なかったのだった。
*
そして翌日。
「―――ああ。多分、間違いない。二宮徹は、アタシの元婚約者の名前だ」
篤史の願いもむなしく、楓の口から、確かな答えが返ってきた。
現在、彼らは友里の喫茶店に集まっている。
昨日の話ならば、学校でもできるだろう、と思われるかもしれないが、しかし『もう一人』の人物に事情を説明するために、ここに集まったのだった。
「兄さん……」
二宮徹の妹、二宮春奈。
相手の妹である彼女にも、話をするために、篤史は楓に頼んで呼んでもらっていたのだった。
「けど、どうしてそんなことを……」
「……それは恐らく、兄が、楓さんに恨みをもっているから、かもしれません」
「恨み?」
春奈の言葉に、篤史は思わず反応してしまう。
恨みならば、それこそ楓の方が相手のことを恨んでもいいだろう。勝手に婚約を取りやめられ、挙句そのせいで彼女は居場所を失い、転校するハメになったのだから。
「兄が付き合っていた方の会社が潰れたのはご存じでしょうか? 兄はそれを、楓さんたちが裏から工作してやったことでは、と考えているのだと思います。何せ、時期が時期。楓さんと婚約を取りやめた直後に倒産しましたから。もしかすれば兄は、楓さん達が『相手の会社を潰して、もう一度自分の娘を婚約者にするつもりだ』などと考えているのかもしれません」
「それは……」
「ええ。無論、私たちは楓さんたちを疑ってはいません。あれは本当に偶然、たまたま起こった不幸。けれど、兄はその偶然を偶然にしたくない、という節がありました。それだけ、相手の方に思い入れがあった、ということなんでしょうが……」
だから、その報復として楓の友人である篤史や友里に目を付けた、と。直接本人ではなく、周りから攻めてくるあたりから、相手のいやらしさがうかがえる。
「まぁ……でも、そうだな。アイツ、それだけ彼女に入れ込んでたから」
「でも、だからって楓さんや周りの人に迷惑をかけていい理由には全くなりません。……今回の件は、私から両親に報告しておきます。最悪、家族の縁を切ることになるかもしれませんが、それだけのことをしたのです。他人を使って、人様に危害を加えようとする。人としてあるまじきことです。白澤さん、山上さん。本当にすみませんでした。今後は、このようなことがないよう、こちらもできるだけのことはしていきますので」
「あ、ああ……よろしく頼む」
春奈の説明を聞き、篤史はそんな言葉で返した。
確かに、彼女の説明には筋が通る。恋人の家族を滅茶苦茶にされたと思い込んでいる男の暴走。ようは、そういうことだ。
だが、何故だろうか。
(……何だ、このしっくりしない感は)
そんな違和感をしかし具体的には説明できないがために、それ以降は何も発言せず、今日はお開きとなったのだった。
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