表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/132

二十七話 必殺技も練習は必要である

 時刻は夜の七時。

 篤史と友里は、楓と別れて、一緒に帰路についていた。


『いや~、楽しかったですね遊園地。私、学校とかの遠足でも何度か遊園地に行きましたけど、他のクラスメイトとうまく馴染めてなかったので、全部地獄のような時間でしたから。こうして皆で遊園地行って楽しめるなんて、本当に初めての体験ですよっ!!』

「いや、それには賛同できる部分もあるが……とりあえず、あれだな。何というか、どんまい」


 それは友里と同時に自分にも向けられた言葉。

 彼もまた、学校行事で遊園地に行ったときの楽しい思い出は、ほとんどないに等しかったのだから。


『にしても、最後の最後までうまくプリクラとれませんでしたね。まさかアレで写真を撮ることが、ここまで難しいとは、思ってもみませんでした……くっ、もっと時間があれば……』

「別にいいだろ。これはこれで味があるというか、記念にはなるだろ。それに……」

『それに?』

「プリクラなんて、またいつでも一緒に撮れるだろ。その時、うまくなってりゃいいだけの話だ」


 篤史たちは、同じ学校、同じクラスにいるのだ。ならば、これからいつでもどこにでもでかけられるのだから。プリクラの一つや二つ、また機会があるはずだ。


『そうですね……その時は、篤史さんも殺人鬼スマイルじゃなくなってるよう、努力してくださいよ?』

「おいこら。お前、言いたい放題言ってるがな、俺の顔はそこまで怖くはないだろ」

『いやいや、普通に怖いですから。確実に人を五、六人は殺してきた顔になってますから。何なら、ウチの父親や委員長に確認してもらいますか?』

「くっ……」


 妙に自信に満ちたテレパシーを送ってくる友里。どうやら、篤史の笑顔は本格的に怖いというのを改めて自覚させられた。

 そして、だからこそだろうか。


「……そういうお前だって、いつも通りの顔じゃねぇか。お前の笑顔、可愛いくせに、何で写真を撮る時も無表情のままなんだよ」


 などと。

 思っていることを、ポロリと零してしまう。


『……あ、あの~、篤史さん? 今、私のこと可愛いっていいました?』

「……っ、い、言ってねぇけど? 空耳だろ、空耳」

『えーっ、うっそだー。今私、ちゃーんと聞こえましたよー?』

「うるせぇ。人間、思わず妙なことを口走ることがあるだろうがっ。大体、お前はな―――」


 などと反論しようとした刹那、篤史の言葉が止まる。

 言葉だけではない。その表情も一瞬にして、剣呑なものへと変化したがために、友里は思わず問いを投げかけた。


『あ、篤史さん? どうしました……?』

「静かに。それと、ちょっと黙ってろ」


 真剣味のある篤史の言葉に、友里はテレパシーを送ることができなかった。


「―――いい加減出てきたらどうだ」


 ここは人通りの少ない街中の夜道。

 だというのに、路地裏から、巨躯の男たちが数人、その姿を現したのだった。


「何だ。お前らは」

「広瀬楓にこれ以上近づくな」


 篤史の問いに、男の一人が端的に答える。


「いきなり出てきて随分と上から目線だな。それで? もしそれを断ったら?」

「そっちにいる女と一緒に、痛い目を見てもらう」


 これまた即答かつ簡素な言葉。

 そして、それだけに相手が冗談などでこんなことをしているわけではないと、即座に理解する。


(数は、五、六人程度か……人数的には問題ないが、こいつらただの喧嘩が強いって連中じゃないな)


 それは体付きを見ての感想ではない。まるで、黙々と作業をこなすかのような態度。以前の不良たちとは違う。実力があるからこその風格が備わっていた。


(最善の策は、白澤を担いで逃げることだな。まぁ、その隙をどうやって作るかが問題だが……)


 男たちは、二人を取り囲むかのような形になっている。ゆえに、何かしらの手段を使って、隙を作り、それをついて、逃げるのがベスト。

 ……のはずだったのだが。


『篤史さん。ここは、私に任せてくれませんか? ちょっと試したいことがあるので』

『試したいことって……お前、まさか……』


 試したいことがある。

 この状況でのその言葉。篤史は一瞬で察して止めようとするが、しかし最早遅い。


「……一度だけ聞きます。このまま、何もせず、黙って去ってもらうことはできませんか?」

「できんな」

「なるほど……なら、仕方ありません。こんなところで、進化した最終兵器を使うことになるとは思いませんでしたが……けれど、逆に良かったです。何事も、練習台は必要なので」

「……?」


 友里の言葉を理解できない男たちは、首を傾げ、奇妙だと言わんばかりの顔になっていた。

 そして、そんな男たちに対し、友里は言い放つ。


「そういうわけで、白澤友里―――歌います」


 次の瞬間。

 この世のものとは思えないほど、おぞましく、冒涜的で、名状しがたき何かが、男たちの頭の中で響き渡る。

 それによって。


「「「ぎゃああああああああああああああああああああああっ」」」


 屈強な男たちの絶叫が、夜の街にこだましていくのであった。

面白い・続きが読みたいと思った方は、恐れ入りますが、感想・ブクマ・評価の方、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 進化した全体用最終兵器が炸裂するとは、暴漢は白目をむいて数時間は立ち直れないかも。
[良い点] 近い将来歌で銀河を救うんですね!僕知ってます!
[良い点] HUNTER×H○NTERの世界でも放出系念能力者として活躍できそう。 [一言] 最終兵器といいつつまだまだ攻撃範囲に進化を残してそうな件が頼もしすぎる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ