二十六話 カウントダウンされると、人って焦るよね
※前回の「鬼面ヤイバー」についての設定を少し変えました。
『…………グスッ』
突然だが、友里は泣いていた(無論、心の中で)。
その理由は、罵倒を浴びせられたからでも、どこか怪我をしたからでもない。
もっと単純で、どうでもいいこと。
つまり。
「まぁ気を落とすなって。抽選がハズレるなんて、普通に考えたら当たり前のことだろ」
『何ですか篤史さん。あれですか、自分だけ四等が当たったから、余裕ぶってるんですか。ええそうですね。おめでとうございますうらやましいぞちくしょぉぉぉぉっ!!』
七つのスタンプ。それを集めたことによるくじ引きをした結果、当たったのは篤史のみ。とはいえ、四等の商品はお菓子の詰め合わせであり、そこまで大したものではない。
それこそ、五等のティッシュよりかはまだマシ程度のものだ。
「けど、惜しかったよなぁ。白澤の抽選番号、一等と最後の数字だけ違うって、それもうある意味神引きだよな」
『楓さん……これ以上傷口を広げないでくれます?』
「お、おう。悪い」
完全に苛立ちモードに入ってる友里。
しかし、それも無理もないだろう。
何せ。
『え、当たった……当たった!? え、嘘、ほんとに? マジですか神ですかやったぁぁぁあああああああっ!!』
からの。
『え…………違う? いやいや、何を言って……嘘。最後の数字だけ、違う、だと……なんじゃそりゃぁぁああああああっ!!』
だったのだから。
相変わらず、外見が全く変化しないため、傍目からはその急激な感情の変化が見受けられないが、それをじかに脳内に送られてくる篤史たちからすれば、物凄い落差であった。
『くっ、こうなればやけです。篤史さん、楓さんっ。ゲームセンターにゴーですっ!! この怒りと鬱憤を晴らしにしきましょう!!』
「それは結構だが、またクレーンゲームで破産するなよ」
『シャラップ!! そうなった時はまた篤史さんに頼みますので!!』
「おいこら人に金を借りる気満々でいうな」
『なら、楓さんに借ります!!』
「そこでナチュラルにアタシが入るのな……ってか、アタシもダメだぞ。今月のメイド喫茶計画に支障がでかねないし」
「メイド喫茶計画って、また珍妙なモンが出てきたなオイ」
などと言いあいながら、ゲームコーナーへとやってきた篤史たちは、ホッケーゲーム、太鼓ゲーム、レースゲームと遊んでいった。
ちなみに。
『くっ、何という意地悪な配置……篤史さん楓さん。どちらか、軍資金を貸してもらえ―――』
「「知らん」」
と、速攻でクレーンゲームの沼に嵌った友里に対し、二人は即答する。
それから、色々なゲームを遊びつくし、満足しきった一同。
そんな中、ふと楓の視線が気になった篤史は、彼女が見ている方へと顔を向けた。
「ん? どうした広瀬……って、プリクラ?」
「あ、アタシ、その……こういうのってやったことがなくて……」
「あー……そういや、俺もないな」
『私もです』
それもそうだろう。何せ、ここにいるのはボッチ人生を歩んできた連中だ。それが、皆で写真を撮るゲームなど、やったことなどあるわけない。
けれども、だ。
そんなダメ人間たちではあるが、しかし今はボッチではないのもまた事実。
だからこそ、篤史は言う。
「……なら、やったことない同士、初体験としゃれこむか」
『むっ、篤史さん。今の発言は妙ないやらしさを感じました』
「やかましいぞ残念妖精」
などとツッコミを入れつつ、プリクラの中へ入る一同。
【モード選択! どれがいい?】
「も、モードって、何のことだ?」
「えっと、あっ、これだ。この中から選ぶって感じだな」
『テンプレモード、キラキラモード、チャーミングモード、クールモード……色々ありますね』
そんな風に、どれにしようかと迷っていると。
【もうすぐ時間切れになっちゃうよ?】
などという声に思わず三人は驚く。
「え、時間切れってなんだ?」
「あっ、見てみろ、これ何かカウントダウンしてるぞっ」
『ええと、とりあえず、無難にテンプレモードで行きましょうか……』
そうして、モードを選んだ篤史たち。しかし、それだけでは撮影は始まらず、その後も何度もよく分からない選択肢が出てきた。
そしてその度に。
【もうすぐ時間切れになっちゃうよ?】
【もうすぐ時間切れになっちゃうよ?】
【もうすぐ時間切れに―――】
『だぁぁぁあああっ!! もうちょっとゆっくり選ばせてくれませんかねっ!? こっちはプリクラ初体験なんですよっ!!』
などという友里のテレパシーはしかし、篤史たちにしか伝わっていない。いや、この場合は声に出したところで無意味ではあるのだが。
そして、ようやく何とか撮影までたどり着く。
【それじゃあ、撮るよ! 皆笑ってーっ!!】
何ともありきたりな指示。
あとはただ撮られるだけになった……のだが。
『……篤史さん。顔が固まってます。まるで、使ったことがないのに何故か常にチェーンソーを持っていると誤解されている、どこぞの湖に出る殺人鬼みたいです』
「やかましい。そもそも、あれは覆面してて顔見えないだろうが。お前こそ、こういう時くらい笑ったらどうだ」
『私はいいんです。これが正常なので』
「どこかだ。そっちこそ、いつも以上に顔が強張ってるだろうが」
「もうアンタら、いいから笑えって」
などと言っているうちに。
【3・2・1―――ハイ、チーズッ!】
「「『あっ』」」
言い争っているうちに、撮影されてしまった一同。
無論、その一枚が驚くほどにごった返した絵になってしまっていた。
ちなみに。
その後【もう一枚いくよーっ】と、何度か撮られたものの、しかしまともに写っているモノは一つもなかったのであった。
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