二十五話 オタク常識が別のオタクに伝わるとは限らない
「何か言うことはあるか?」
ベンチの上で正座している友里に対し、篤史は物凄い圧のこもった言葉を投げかける。
『篤史さん。落ち着きましょう。そして話を聞いてください。これには深いわけがあるんです』
「もう一度言う。何か、言うことは、あるか?」
『一人で勝手に行動してしまい誠に申し訳ありませんでしたぁぁぁっ!!』
最早言い訳はできないと悟った友里は速攻で謝りの姿勢に入った。
頭を下げ、謝罪のテレパシーを送る彼女に対し、篤史は大きなため息を吐く。
「ったく。行くなら行くで、せめて行先くらいは教えとけよ」
『いや~、ヒーローショー見に行きます! と言い出すのは流石の私も憚られまして……』
「その割には子供に混じってヒーローショー見てたがな。しかもその後、子供に混じって写真撮影もしようとしてたし」
そして、無論、その撮影を行ったのは他でもない篤史なのだが。
「……はぁ。まぁいい。次からはちゃんとどこに行くのか言っていけよ。こっちは心配すんだからよ」
『はーい』
「間の抜けた返事だなオイ」
本当に分かっているのか、と思いつつ、篤史はこれ以上の説教をやめる。折角の遊園地。いつまでもぐちぐちと言っているなど、時間の無駄であり、もったいない。
と、そこで楓がふと呟く。
「それにしても、意外だったな。白澤が特撮好きだったなんて……確か、さっきのは鬼面ヤイバー、だっけ? アタシは小さい頃、そういうのに全く興味なかったから詳しくは知らないけど……」
『……………………何ですと?』
楓の言葉に反応する友里。
その態度、というか空気は、先ほどまでとは一変し、今度は彼女が物凄い圧を放っていた。
『楓さん……まさか、鬼面ヤイバーシリーズ、一つも見たことがないんですか?』
「え、えっと……そうだけど?」
『それマジで言ってます?』
まるで殺気が込められていたかのようなテレパシーに、楓は思わず、身を震わせる。
一方、篤史はそんな友里を見て、確信する。
あっ、これは何かスイッチが入った、と。
そして、その予想通りに、友里の感情が爆発した。
『まさか……まさか、昭和、平成と続いてきた日本を代表とするヒーローシリーズを一切見たことがないなんて、信じられません!! 昭和は分かります。ええ、年代的にも無理でしょう。私とて、昭和版に関しては未だ勉強不足なところもあります。けど、けれどっ!! 平成版は知っておくべきでしょう!! 何故なら、平成版がまた新たに盛り上がった二期シリーズが始まったのは、私たちが五歳の頃。つまりは、特撮ヒーローを見るドンピシャな世代!! だというのに、全く知らないなんて、そんなことありえますか!?』
「いや、普通にありえるだろ」
と、友里の思いのたけを、篤史はたった一言で一刀両断する。
「自分が知っていることが世間一般常識だと思うな。っつか、そもそも、鬼面ヤイバーは男向けの特撮だろうが。男女がどうのとは言いたくないが、基本的にアレを見る女は少ないだろ。そんでもって、特撮ヒーロー好きな女子高生なんて、そもそもそんなにぽんぽんいるかよ」
『うぅ~……そこを言われると、何も言い返せません……』
篤史の言葉に流石の友里も反論する余地がないと思ったのか、彼女のマシンガントークは一瞬で終わったのだった。
けれど。
「まぁ……でも、そうだな。白澤がそんなに言うんなら、ちょっと見てみようかな……」
などと楓が言うものだから、友里はすかさずそれに食いつく。
『本当ですか!? なら、任せてください!! 平成版は全て網羅してありますから!! しかし、やっぱり最初に観るべきは、平成の一番最初のレックウですかね!?』
「って、おま、最初に勧めるのがそれって、どうなんだ……?」
篤史の言葉に、楓は首を傾げる。
「? その、レックウ? っていうのは、何か問題あるのか?」
「いや、まぁ、平成の鬼面ヤイバーを代表する最高作品であるのは確かなんだが……結構過激でな。怪人が人を殺すシーンがマジでリアルっぽいのでも有名なんだ。それこそ、当時のPTAやら親から苦情が殺到した程だ」
「マジで? あー……でもまぁ、ちょっとグロいくらいなら、アタシ平気だし、大丈夫でしょ」
「そうか……まぁ、お前がいいなら、止めはしない」
と、篤史はそれ以上何も言わなかった。
事実、レックウは平成鬼面ヤイバー内で屈指の名作であることには違いないのだから。そして、篤史もレックウのことは大好きなため、それを見てくれる人が増えることは、好ましい限りである。
『じゃあ、決まりですねっ!! 今度、ブルーレイ持っていきますから、楽しみにしててください!!』
などと。
友里は、相変わらず顔には一切出さずに、そんなウキウキしているテレパシーを送る。
こうして、鬼面ヤイバーオタクに、新たな一員が加わるのであった。
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