二十四話 迷子になる理由は大抵ロクでもないもの
お化け屋敷を出た後、友里と楓は放心状態になっていた。
無理もない。正直、篤史もここのお化け屋敷の迫力には少々圧倒された。
そういうわけで、二人をベンチで休ませ、飲み物を買ってきたわけなのだが。
「―――何でいなくなってんだよ、白澤の奴」
自販機の飲み物を両手に持ちながら、篤史は思わず口に出して呟く。
そんな彼に対し、楓は申し訳なさそうな顔で、言葉を返した。
「悪い。アタシが目を離した隙にどっかいっちゃって」
「いや、広瀬を攻めてるわけじゃない。何も言わず、どこかへ行った白澤が悪い」
別にそれは、楓をフォローするつもりで言ったわけではない。ただ本当に、高校生だというのにつれに何も言わず、どこかへ行ってしまう子供のような友里に対し、少々苛立ちが募っていた。
しかし、とそこでふと考える。
あの、自分のことを陰キャの権化だと言い張る美少女が、こんな遊園地に来て、たった一人で行動するだろうか、と。
「トイレにでも行って迷ってるのか、はたまた別の目的があって、一人で行動してるか……どちらにしろ、このままってわけにはいかないか」
「まぁでも大丈夫だろ。携帯に電話すれば……」
「広瀬。よく考えろ。あいつが電話に出て喋るとでも思うのか?」
「あ……」
普通なら、楓の案のように、電話をして位置を聞き出すのが一番だろう。
だが、相手はなんといっても、あの友里だ。普段から喋ることをやろうとしないあの残念少女が、篤史たちの電話に出るということ自体がまず考えられない。
「じゃあ、【ウイン】にメッセージを送ったらどうだ?」
最近の若者、いや、スマフォを持っているものなら大抵の物が入れているSNSアプリ、【ウイン】。そこにメッセージを送れば、流石の友里も気づくだろう、と楓は考えたのだろうが、篤史は首を横に振った。
「もうしてる。だが、一向に既読にならない」
と自らのスマフォを楓に見せる。
そして、それを見た楓はというと。
「……山上。お前、結構可愛いスタンプ使うのな」
熊の人形が青筋を立てているスタンプを見て、そんな感想を口にしたのだった。
「うるせぇ。それより、これからどうするかが問題だ」
「まぁ……とりあえず、迷子センター?」
「広瀬。お前もお前で結構ひどいこと言ってる自覚あるか?」
女子高生が迷子センターの呼び出しで呼ばれる、なんてことは前代未聞の恥だろう。流石の篤史も、友里にそこまでの恥をかかせたくはない。
「けど、本当に最悪の場合はそれだな。まぁ、それはあくまで最後の最後だ。……とりあえず、俺の鼻で探すか」
「できるのかよ、こんな人混みの中で」
「俺は街中でもお前を見つけたんだぞ? それと大差ないだろ」
言いながら、篤史は匂いを嗅ぎ分け、友里がいるであろう方角をつかむ。元々、毎日のように彼女にはあっているため、その匂いは既に覚えている。
「―――よし、あっちだ」
「ホントに分かるのか。凄いなオイ」
「今は大体の方角だけだがな。まぁ、この分だと見つけるのに時間はかからないだろうが」
そう言って、篤史たちは友里の匂いがする方へと歩き出す。
遊園地も街中も、人が多いのはほとんど同じ。無論、ピーク時での人数は全く違うが、しかしそれでも現状、篤史は友里の匂いをちゃんと追えている。
と、そこへ楓が一つ、質問を投げかけてきた。
「なぁ。思ったんだけど、お前の匂いを追えるって能力だけど、それって色々と別の臭いがする場所でも使えるのか?」
その疑問は、ある意味、当然のものだと言える。
匂い匂いと言ってはいるものの、しかし匂いを放っているのは何も超能力者だけではない。むしろ、それ以上に特殊で苛烈な匂いを持つものは多い。
植物や動物は無論、屋台の料理や換気扇からの臭さ、ガソリンのにおいなど、それこそ数多のように存在しているはずだ。
「超能力者の匂いっていうのは、特殊でな。他のどんな匂いよりも濃いんだ。で、俺の鼻はそれを敏感に感じ取れるんだよ。まぁ、多分、これは俺の鼻だけかもしれないけど」
「ふーん。じゃあ、相手が生ごみの中で隠れてても、そこまでたどり着けるってことか?」
「たとえがひどいなオイ……まぁそうだな。たとえ、相手が泥をかぶって匂いを消そうとしても、俺は追跡できる自信がある。超能力者の匂いは、そんなんじゃ落とせないからな」
よく映画などで、泥水の中などに入ったり、他の強い匂いと混じることで、猟犬の鼻から逃れる展開などがあるが、恐らく篤史にはそれが通用しない。
けれども。
「でも、風邪をひいたりして、鼻の機能そのものが低下したら、無理だ。実際、一度試したことがあるが、その時は嗅ぎ分けることができなかった。そのことを踏まえると、あまりにも強い刺激臭を直接嗅いだり、催涙スプレーとかで鼻の機能を低下させられると、使えないかもしれないな」
鼻そのものをやられてしまえば、匂いも何もない。
ゆえに、篤史は常日頃から、しっかりと体調管理には気を付けているのだ。
「さて、匂いの元はここら辺なんだが―――――あっ」
と、周りを見渡す篤史は、ふとあるモノを見つけた。
「? どうした、山上。特設ステージなんか見て――――あっ」
そして、楓も同じ方向を見て、これまた同じく気づいたらしい。
そもそも、だ。考えてほしい。友里が単独で行動する理由。自称、陰キャの権化たる彼女が、自分たちから離れてしまったのは何故か?
答えは簡単。それだけ、彼女の興味をひくものがあったため。
そして、だ。ここは遊園地。そして、子供が集まっている特設ステージでよくある出し物と言えば、答えは一つしかない。
つまり。
「……なぁ、あいつ何してんだ?」
「見ての通りだろ―――子供に混じって、日朝ヒーローの特別ステージショー見てやがる」
そこには篤史の言葉通り、子供が多くいる中、一人前方で体育座りをしながらショーを観覧している友里の姿があったのだった。
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