二十一話 特訓や修行回は嫌われている
『篤史さん。ご存じですか? ラノベや漫画で、特訓回というのが嫌われているという風潮があるということを。その理由は至ってシンプル。話が進まないんですよ。現代の読者は、物語がいかに面白く進むのか、それを楽しみにしています。なので、昔のアニメや漫画にあったような特訓回は見ていてつまらないと思う層が必ずいるのです。当然でしょう。修行や特訓という描写は確かに主人公が強くなる過程が描かれますが、正直言うと読者はそんなことより、ド派手でかっこよく敵を倒す主人公の姿を見たいのです』
しかし。
『けれど私は思うのです。地道な努力、積み重ねた研鑽、そういった諸々を描くことも重要なのではないかと。無論、全て事細かくしてしまえば、それこそつまらないとは思いますし、必要はないと思います。けれど、それでも昔のアニメや漫画にあったような修行や特訓の中で見せる、己との対話。これはとても重要なポイントだと思うのです。ただ強敵と戦うだけではなく、内なる自分と相対する。そうすることで、過去のトラウマや自分の壁を乗り越えることができる。そういう展開があってもいいと私は思うんです』
なので。
『そういうわけで、篤史さん。特訓をしましょう』
「長いわっ。っというか、唐突すぎるだろ」
あまりにも長すぎる前振りに、思わず篤史は声を上げてツッコミを入れる。
昼休み、大事な話があると思って来てみれば、また妙なことを言い出した友里。
そんな彼女に対し、溜息をはきながら、篤史は問う。
「ってか、何の特訓だよ」
『決まってます。私のテレパシーの特訓です。今まで学校では篤史さんだけにテレパシーを送ってきましたが、最近では楓さんとも同時に話す機会が増えてきました。だというのに、一人にしかテレパシーを送れないのは、やはり不便だと再確認したのです。そこで! 特訓をして、テレパシーを同時に複数人に送れるようにしよう、ということです!!』
まるで、一念発起したかのようなテンションでテレパシーを送る友里。まぁ、相変わらず顔は無表情ではあるが。
正直、それは篤史も思っていたことだ。最近、なんだかんだで三人でいることが多くなったが故に、その度に友里のテレパシーが複数人に使えればいいと何度も思った。
しかし、だ。
「いや、それを頑張るんなら、もういっそのことちゃんと口で喋ればいいだけの話だろうが。どんだけ口を使いたくないんだよお前は」
『無論、死ぬまで』
「おいコラやめろ馬鹿。どこぞの壬生狼の名セリフを言うな」
またもやアウトな台詞を吐く友里に対し、篤史は片手で頭を抱えた。
しかし、だ。テレパシーを複数人に使えるようになれば、それはそれで便利になるのは事実。加えて、友里が言ったように、複数人で喋ることも増えてきている。ならば、友里のテレパシー能力を向上させることは必要なことなのかもしれない。
……まぁ、だったら普通に話せ、と思ってしまうのだが、それは置いておこう。
「―――っというわけだ。協力してくれるか」
放課後。
篤史は楓をラノベ研究会の部室へ呼び、ことの経緯を説明した。
「そりゃ、構わないけど……特訓って、具体的に何やるんだ?」
『簡単です。私が今から二人にテレパシーを送ります。それがちゃんと聞こえているか、伝わっているかを教えてくれたらいいだけです』
「それくらいなら、お安い御用だけど……」
要はテレパシーが伝わっているかどうかを確認するだけ。それだけならば、篤史や楓には何の負担にもならない。
そして承諾を得たことで、友里の特訓が始まった。
『おっほん。では早速―――あ―――き――て―――か―――』
「???」
テレパシーを使っているのは理解できる。が、言葉が途切れ途切れになって、全く何を言っているのかが分からなかった。
「広瀬、お前の方はちゃんと聞こえたか?」
「いや、何というかぶつ切り状態で、何言ってるかさっぱりだった」
二人の言葉を聞き、友里は愕然としていた。
『くっ……これは少々、本気で骨が折れそうですね……思った以上に難しいです……』
そうして、そこから友里は二人にテレパシーを送り続けた。
最初は全く何を言っているのか分からなかったが、しかし徐々に単語が一つひとつ送られるような形となり、徐々にではあるが、同時にテレパシーを送れるようになっていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「おお。流石の白澤も、ここまで疲れるとちゃんと声に出した呼吸するんだな。でも、最初の頃よりはだいぶ何言ってるのかは分かってきたような気がしたぞ」
「ああ。まだ、途切れ途切れになるが、そこはこの先の練習しだいだろ。あとは実践とか」
「実践?」
「こうやって三人だけの時ならまだいいが、外で会話するとなると、それこそ他の人間もいるわけだろ? そういった場合でもちゃんと話せるようにしておかないと、使えるとは言えないだろ」
特定の場所でしかテレパシーが使えないとなってしまえば、それはある意味これまでと同じでしかない。いつでもどこでもどんな状況でも、テレパシーを送れる。その領域までに至らなければ、使い物になったとは言えない。
『人がいっぱいいる場所……成程』
と、そこで友里は何か思いついたかのように手を叩き。
『では皆さん。週末、三人で遊園地に行きましょう』
そんな提案をしてきたのだった。
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