十七話 爆弾発言もほどほどに
『篤史さん。楓さんの料理を食べに行きましょう』
ある日の放課後の教室。
唐突に、友里はそんなことをテレパシーで送ってきた。
ちなみにではあるが、楓は既に、友里の喫茶店へと向かっており、教室には姿がなかった。
「……なんだ藪から棒に。そしてお前の場合、行くんじゃなくて、帰るっていうのが正解なんじゃね?」
『シャラップ! 細かいことはいいんです。とにかく、今日はあのクッソ美味しいカツサンドを食べなきゃやってられないんです』
何やらちょっとイライラしているかのような口調。
その態度で、篤史は大体のことを察することができた。
「あれか。そんなに今日帰ってきた小テストの点数悪かったのか」
『うぐっ………………はい』
予想的中。
どうやら、今日帰ってきた数学の小テストが、あまりよろしくなかったらしい。
小テストが悪かったものには、課題として問題集が渡され、それを期限内に提出しなければならない。それが彼女の機嫌が悪い理由だろう。
「こんなこと俺が言えた義理じゃねぇけど、勉強はこまめにしとけよ。そんなんじゃ、夏休み明けの期末テスト、また追試くらうぞ」
『ふ、ふんっ!! 大丈夫です!! そこは最終兵器篤史さんの出番なので!!』
「俺はいつから最終兵器になったんだよ」
『そして、それでもやばかったら、秘密兵器楓さんにテストの答えを教えてもらいますっ!!』
「そして広瀬は秘密兵器か。っというか、それ絶対にやるなよ。俺もできる限り、ちゃんと勉強教えててやるから」
『え、本当ですか? わーいっ、これで期末は楽勝ですね!! あっ、ちなみに今日出された課題も一緒にやってくれると助かります』
「調子に乗るなよ、残念美少女……まぁ教えてやるけれども」
と、そこできっぱりと断れないところが、彼がなんだかんだと言われる所以なのだろう。
そうして、二人は、喫茶店へと向かうことになったのだった。
*
「あー、友里ちゃんお帰りなさい。って、あら篤史君も一緒?」
「どうもっす」
「なーに? 篤史君もウチの楓ちゃんの料理、食べに来たの?」
「えっと、まぁ、そうっすね」
「ふふ、素直ね。それで、注文は……はいはい。カツサンドね、友里ちゃん。じゃあ、カウンター席にでも座って待ってて」
言われ、篤史と友里はカウンター席に座った。以前来た時はいなかった他の従業員もちらほらと見えており、客も満席、とまではいかないが、しかしそれなりの数はいる。
だからこそ、篤史は思う。
「白澤。お前、手伝わなくていいのかよ」
『いやいや、篤史さん。私が一体、何を手伝えると? 無口無言のウェイトレスなんて、存在価値ないじゃないですか』
「いやだからこそそれを改善しようぜ……まぁいいや。それじゃ、早速出された課題をやるぞ。そら、プリント出せ」
『えー……』
「えー、じゃねぇ。後回しにしてると面倒なことになるのは目に見えてるだろ。そうなる前に、さっさと終わらせるぞ」
『はーい』
渋々と言いたげなテレパシーを送りながら、友里は鞄から課題のプリントを取り出した。そこから、篤史たちはカウンターで数学の課題を一緒に解いく。
そんなこんなしているうちに、真がカツサンドを持ってきた。
「はい、カツサンドお待ちどお様。って、あら友里ちゃんに勉強を教えてくれてるの?」
「ええと、まぁ、数学だけは、ちょっと得意なんで」
「そう。ありがとうね。この子、勉強に関してもからっきしだから、私としても困ってたのよ~。助かるわー」
笑みを浮かべて言う真。それに対し、友里は無言で「余計なことをいうな」的な視線を送っている。いや、多分テレパシーも一緒に送っているのだろうが。
と、そこで篤史は疑問を口にする。
「あの……店長。あいつ、ちゃんと働けてますか?」
「ええ。それはもう助かってるわ。元々、料理がプロ並みだから、私が教えることなんてほとんどないし。それに真面目だから、黙々と料理を作ってくれて、本当に助かってるわ。勿論、お客さんからも好評よ」
「そうですか……他の従業員さんとは、やってけてます?」
「ええ。っというか、皆彼女の腕に驚いているわ。美人で料理の腕もいい。それに、会話も思ってたほど、問題はないようだしね。だから、お客さんと従業員、両方から大人気ってわけ……あっ、ごめんなさい。注文が入ったみたいだから。それじゃ、勉強の続き、よろしくね」
そう言って別の客の方へと行く真。
すると、友里が突然、不敵な笑みを浮かべるかのようなテレパシーを送ってくる。
『ふふ』
「何だよ」
『いえ。篤史さん、まるで過保護なお父さんみたいだったので』
「……うるせぇ。人をおちょくる暇があるなら、ちゃんと問題を解きやがれ。そら、そこまた間違えてるぞ」
『え。あっ、ホントですね』
ったく、と呆れながら、篤史はその後も友里に勉強を教えていく。
そうして、一時間と少し経った頃。店もだいぶ落ち着いてきており、人もそんなにいなくなっていた。
そんなときに、だ。
「―――すみません。ここに、広瀬楓さんはいらっしゃいますか?」
そう言いながら、店に入ってきた長い黒髪の少女。
年齢は十四、いや五、といったところか。恐らくは中学生なのだろうか、何故だろう。ただの制服姿からは考えられない程、どこか気品がある雰囲気を醸し出していた。
「えっと、どちら様で……?」
「ああ。すみません。申し遅れました」
などと、一礼した後。
「自分、二宮春奈といいます。広瀬楓さんと婚約関係にあった許婚の妹です」
そんなとんでもない爆弾を投下していったのだった。
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