十三話 気にするなって言われたら余計に気になる
後日の放課後。
「―――さて。早速だが、礼を言っておこう。君たちのおかげで、広瀬楓は学校に来るようになった。まさか、数日で解決してくれるとはな。重ね重ね、礼を言う」
再度、校長室へと呼ばれた篤史たちに向かって、沢城はそんな言葉を口にした。
と、そこで篤史は以前から気になっていたことを彼女へと問いかける。
「あの、一つ質問いいですか? 校長と広瀬は、もしかして親戚か何かですか?」
「ああ。そのことか。アレは私の姉の娘……つまり、姪にあたる」
それはある種予想できた答えであった。
沢城と楓が顔見知りなのは、楓の発言から分かっていたこと。そして、それが身内である可能性は高いと篤史はふんでいた。
何故ならば。
『あー、確かに。目つきが怖いところとか、ちょっと似てますよね』
そう。沢城と楓。二人の目つきの悪さは、どことなく類似しているのだ。無論、全く一緒というわけではないが、どこか面影を感じさせるものがあった。
そして、この際だと言わんばかりに、もう一つ、質問をする。
「もしかして、うちのクラスに広瀬を入れたのも、校長ですか?」
「ああ。どうやら彼女は君たちに信頼を置いているようだったからな。そしてそれは間違っていなかった。今でも彼女とは交流を続けているのだろう? 個人的にはそれを続けてもらいたいと思っている」
それは伯母としての心配か。それとも校長としての心配か。
どちらにしても、沢城が楓を気にかけていることには間違いなかった。
そして、その証拠に。
「それで、だ……一つ聞きたいんだが。彼女の周りで、最近妙なことは起こっていないか?」
そんな、奇妙なことを聞いてきたのだった。
「妙なこと、ですか? いえ、とくには」
「……そうか。いや、ならば、構わない。気にするな。変なことを聞いて悪かった。時間をとらせてすまなかったな」
校長のその言葉によって、その場の会話は打ち切られたのだった。
彼女の言葉に、疑問を持ちつつも、しかし篤史と友里は何も聞かず、校長室を出ていったのだった。
*
『気になりますね』
「気になるな」
下校途中。
二人は先ほどの沢城の言葉からの疑念をお互いに吐露していた。
『ああいう、いかにもなことを言われたら、どうしても意識しちゃうじゃないですか。こっちは聞く気なんてさらさらなかったのに、やっぱり気になるから聞いてみよう、的な展開になるっていうのに』
「まぁそれには大いに賛同するが……けど、さっきのあれ、どう考えても広瀬の前の学校に関係することだよな」
十中八九、そこは間違いないだろう。
奇妙な時期での転校。沢城が言っていた複雑な事情。恐らく、楓は前の学校で何かしらのトラブルに巻き込まれたのか、あるいはトラブルを起こしたのか、どちらにせよ、あまり口にはしたくないようなことがあったのは明白だろう。
だが、篤史も友里もそれを知らない。
いや、現段階では、それを知りたいとは思っていなかった。
少なくとも、篤史の方は。
『聞かないんですか、篤史さんは』
「聞かない。少なくとも、必要と感じるまでは」
『いやいや、それ、最初から聞いておけばよかったー的な展開へのフラグじゃないですか』
「うるせぇ……クラスメイトだろうが同類だろうが、人に聞かれたくないことの一つや二つあるもんだろ。加えて、それを話さないといけない程、切羽詰まった状況でもない。それに、あいつとは今度の休みにまたメイド喫茶に行くことになってる。そんな状況で、わざわざ嫌なことを話して、変な空気になるのは、俺としては御免だ」
『へ? 楓さんと一緒にメイド喫茶にですか?』
「ああ。バイトが決まった記念に……というのは建前で、本当はあいつが行きたくて仕方ないって顔しててな。あのままだったら、また透明化していくと思ったんだよ」
楓は根が優しい。しかし、それと同時に、趣味に対する情熱もまた、凄まじい。あの調子だと、メイド喫茶に行かなくとも、何かしらの不調になる可能性はあった。
と、そこで友里がポツリとテレパシーを送ってくる。
『篤史さん……それはもうデートなのでは?』
首を傾げながらそんなことを心の中で呟く友里に対し、篤史はまゆをひそめた。
「突然何だよ」
『いやいや、男女が休みの日にどこかへ出かけるとか、それもうデート以外の何物でもないのでは?』
それは、どこかで聞いたことがあるような言い分であった。
けれども、篤史は今回もはっきりと否だと断言する。
「行く場所がメイド喫茶でもか? っというか、それを言うのなら、お前と色々な場所に遊びに行ってるが、あれもデートになるのか?」
『うぐ……それを言われると、返す言葉もありません』
「それにお前だって分かってるだろ? あいつの目的は、あそこのメイドだ。きっと行った途端に、俺の存在忘れて、熱くなるだろうよ」
『確かメイさんでしたか。いやぁ~、楓さんもお目が高い。確かに彼女はあそこでも人気ナンバー2ですからね。美人ですし、態度もいいですし、何より笑顔が可愛いですからね』
「ほう? よく知ってるな。ってか、やっぱりお前、あの店行ったことがあるだろ。っつか、常連だろ」
『ノーコメントです。もしも、どうしても教えてほしいというのなら、この後、篤史さんの家でゲーム三本勝負をして私に勝ったら教えてあげましょう』
などと小さく不敵な笑みを浮かべる友里。
そして。
『ちくしょぉぉぉおおおっ、何で勝てないんだよぉぉぉぉおおおっ!!』
即落ち二コマ的な展開になったことは、言うまでもないだろう。
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