十一話 リアクションがオーバーな人っているよね
「―――で、これは一体全体、どういう状況?」
真の絶叫を聞いて駆け付けた篤史たちが見たモノ。
それは、膝を地面につけながら、悶絶する真と、それを見てあたふたしている楓の姿だった。
その状況を見て、篤史は一言。
「……広瀬、お前、何した?」
「な、何にもしてねぇよ!! ほ、本当だぞ!!」
などと自分の無実を主張する楓。ちょっと涙ぐんでいるところからして、かなり困惑しているようだった。
ふと見ると、厨房の調理台の上に、オムライスがあることに篤史は気が付く。よくある家庭的なオムライス、ではなく、レストランなどで出される、ふわふわトロトロのたまごが乗っかったオムライス。
「これ、お前が作ったのか?」
「ああ、そうだ。それを食べて、店長、こんな風になっちゃって……」
だとするのなら、考えられる答えは一つ。
「つまりは、こいつが原因か」
オムライスを食べて、ひざを折り、悶絶している。そのことから考えて、導き出される答えは一つ。
つまり……それだけ、彼女のオムライスがまずかったということか。
けれど、そうだとするのなら、一つ疑問が生まれてくる。
『んー、でも見た目は滅茶苦茶おいしそうですけどね?』
「だな。俺もそう思う」
そう。先ほども言ったように、楓が作ったオムライスは、見た目だけで言うのなら、レストランに出てきてもおかしくないレベルだ。これが、原型が分からない程のダークマターならまだしも、形だけを見れば、完璧な仕上がりとなっている。
これが一体全体、どうしてまずくなるというのだろうか。
などと考えていると、真が不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと起き上がる。
「ふ、ふふふ……まさか、人生でこんな目にあわされるとは、思いもしなかったわ……」
未だに震える真。
そんな真に対し、不安そうな表情を浮かべる楓は質問をする。
「え、えっと……その、店長……アタシの料理って、そんなにまずかったですか……?」
恐る恐るのその言葉。せっかくバイト先を見つけたというのに、早速やらかしてしまったと言わんばかりの状況で、彼女の心が穏やかではないのは言うまでもないだろう。
そして、そんな彼女に対し、真はというと。
「まずかった……? そんなわけないでしょう!! むしろ逆、逆なのよ!!」
満面の笑みを浮かべながら、そんなことを呟く。
あまりにも意外な言葉に、楓はおろか、篤史や友里も首を傾げてしまっていた。
「ぎゃ、逆?」
「楓ちゃんの料理、意識が吹っ飛ぶほど、美味しいのよ!! いやぁ、料理を作る手さばきが尋常じゃないほどテキパキしてたから、ああ、こりゃプロレベルだわって薄々思ってたけど、食べてみたら、その予想すら遥かに超えるんだから、もう凄いの何の。料理食べて、一瞬意識が飛ぶって、初めての経験だったわ~」
『え、何ですかその展開。どこぞの日本のパンを作ろうとする焼き立て的な漫画ですか』
「白澤。それはきっと誰にも分からないたとえだぞ」
などとツッコミを入れるものの、しかし篤史も同意見だ。料理を食べたからと言って、意識が飛ぶなど、あまりにも馬鹿げた話。
けれど、仮にも料理を出している喫茶店の店長がベタ褒めする程のレベルなのは間違いない。
そう思って、篤史は残っているオムライスを一口食べた。
刹那。
「っっっ!? これは、確かにうまい……っ!?」
口にオムライスを運んだ刹那、篤史も一瞬意識が飛びそうになった。料理を食べて、意識が飛ぶなど、早々ない経験に驚きつつも、篤史は真の言葉に納得していた。
そして、それは友里も同じだったようで、頷きながら、テレパシーを送ってくる。
『いやぁ、これは確かにおいしいですね!? てっきりメシマズイベントかと思っていたんですけど、まさかその真逆だったとは……楓さん、恐ろしいですね』
ある意味ひどい言いようだが、しかし実際のところ、篤史も同じようなことを考えていたので、人のことは言えない。
『というか、あれですね。全ての原因はオーバーリアクションをして周りを心配させたあの人が悪いということですか……よし、後でケリ入れておきます』
「ほ、ほどほどにしといてやれよ……」
などと娘にケリをいれられることが確定した父親は、やってきた逸材の両手を握っていた。
「楓ちゃん、是非ウチで働いて頂戴っ!! いいえ、働いてくださいお願いします!!」
それはある種の懇願。
濃い上に、まるで迫るような頼み方に、楓は少々圧倒されながらも、疑問を口にした。
「え、ええっと……い、いいんですか? アタシなんかで……」
「いやいやいやいや、これだけのモノが作れるなんて、物凄い才能よ!? もっと自信持ちなさいな!!」
「でも、アタシ、その……目つき悪いし、人とあんまりうまく喋れないし……」
「目つきが悪い? 何言ってんの! それだけ可愛い顔してるんだから、気にしなくていいのよ、そんなこと!! それにうまく喋れなくても大丈夫っ! うちの従業員や常連さんは、私の娘でそういうの慣れてるから!! むしろ、ちょっとでも喋れる楓ちゃんの方が百倍マシだから!! 人として立派だから!!」
『ほう。言いたい放題いってくれますね、あのオカマ』
「いや事実だろ」
『そこはフォローしてくださいよ、篤史さんっ!!』
などと言われるものの、事実は事実なので、訂正はしない篤史なのであった。
そんなこんなをしている内に、どうやら楓の腹は決まったようで。
「そ、それじゃあ……よろしくお願いします」
「ええ、よろしくお願いねっ!」
これ以上ない程の喜びに満ちた顔をする真。
そして、そんな彼につられるかのように、楓もまた、小さな笑みを浮かべていたのを、篤史は見逃さなかったのだった。
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