十話 友達が来た時、親ってテンションあげてるよね
「やだわー、友里ちゃん。友達を連れてくるなら事前に連絡してくれないと。丁度用事があって、お店閉めてたからよかったものの、これじゃあちゃんとしたおもてなしができないじゃない。あっ、貴方が篤史君ね? 友里ちゃんから話は聞いてるわ。いつもこの子がお世話になってるようで」
「い、いえ。こちらこそ」
「で、そっちが楓ちゃんね? 友里ちゃんがこの前言ってた転校生? ちょっとやだ滅茶苦茶かわいいじゃない」
「は、はぁ、ありがとうございます……」
「あっ、自己紹介がまだだったわね。私は、白澤真。よろしくね」
と、コーヒーとお菓子を出した後、喋りまくる真。
よほどうれしいのか、それともこれが素なのか。どちらにしても、彼の言葉に、篤史も楓も圧倒されていた。
しかし、このまま話を聞いているだけではダメだ。
「それで今日は―――っと、え? 友里ちゃん? えーっと……二人にはテレパシーのこと伝えてあるから大丈夫? というか、話があるからまずは落ち着け? あ、あらそう? ごめんなさいね。ちょっとはしゃぎすぎたみたいで」
どうやら友里が気を利かせてくれたらしい。
そして、タイミングを見つけた篤史は、真に対し口を開いた。
「あの、真さん。今日、実は……」
と言いながら、自分たちがここへやってきた目的を話す。
それを全て聞き終えた真は「そうなの」と言って、楓の方へと視線を向けた。
「―――じゃあ、楓ちゃんはうちでバイトしたいってことね?」
「は、はい。そうです」
「じゃあ、ちょっと質問。接客の経験は?」
「な、ないです。バイトも初めてです……」
「なるほどなるほど……ならコーヒーを淹れたりとか、料理をした経験は?」
「こ、コーヒーはインスタントばっかりだけど、料理なら多少、できる、と思います……」
「そっか。じゃあ、ちょっと料理作ってみてくれる? 材料は厨房に揃えてあるから。あっ、料理は何でもいいわよ。貴方が好きなもの、作って頂戴な」
「わ、分かりましたっ」
言うものの、楓の口調からは動揺が見え隠れしていた。当然だろう。初めてのバイト。それだけでも緊張するものだというのに、料理を作ってくれと言われれば、平常心などではいられない。
そんな彼女を見た真は、笑みを浮かべながら、楓の肩にそっと手を置いた。
「そんな緊張しなくていいのよ。別に試験とか、そういうんじゃないから。正直、人手が欲しいのは事実だから、楓ちゃんを雇うこと自体はオッケーよ。ただ、どれだけ料理ができるか、見ておきたくて。できなかったらできなかったらで、最初からちゃんと教えてあげる。勿論、コーヒーの淹れ方もね。だから、気楽に気楽に」
「は、はい」
「それじゃ私たちは奥で料理作ってくるから、二人は待っててね」
そう言って、真はそのまま楓を連れて、奥の厨房へと向かう。
そんな彼がいなくなった後、ふと篤史は呟く。
「……何か色々と濃い人だったな」
『事前に言わなくて、すみません……』
見た目と言動、そして仕草や態度、それらが全て、色んな意味で濃い。いや、それを言うのなら、篤史の両親も相当なものなのだが……。
しかし。
「でも、良い人そうだな」
『まぁ…………それは否定しませんが』
などという友里に対し、篤史は笑みを浮かべた。
そこで否定しないところを見ると、彼女も彼女で父親のことを嫌っていないらしい。
そして、だ。篤史はここでとある疑問を思い浮かべる。
「そういや、お袋さんは何してるんだ?」
買い出しにいっているのか、上で家事をしているのか、はたまた別の仕事をしているのか。篤史が考えた答えはそんなもの。
けれども。
『母はいません。私が小さい頃に離婚しました。父以外の別の男を追っかけて出ていったんです。で、そのまま離婚したって形ですね。まぁ、探せばどこの家庭にでもあることですよ』
刹那。
篤史は、自分の発言を即座に後悔した。
「……悪い」
『気にしないでください。別に寂しくはありませんでしたし。私には父がいましたから。それに、覚えている限り、良い母親とは口が裂けてもいえない人でしたし。いなくなった時は、正直せいせいしました』
友里のテレパシーからは、寂しさや悲しさというものが感じられない。恐らく、もう彼女の中では解決していることで、ゆえに事実を淡々と述べているのだろう。
それでも、これ以上その話を続けるのはやめようと判断した篤史は、別の問いを投げかけた。
「親父さんは、超能力のことは?」
『もちろん知ってます。っというか、私父親にもテレパシーで会話してますから。まぁ、その度にぶつぶつと文句言われますけど。ちゃんと口を使って喋りなさいだの、そんなんじゃ社会に出た時困るわよとか』
「まぁそりゃそうだな」
『あと、好きな人に対して「ごはんにする? お風呂にする? それとも……」っていう展開ができないわよとか』
「オイ待てなんでそこをチョイスした白澤父」
などと雑談を続けていく篤史たち。
しかし、その後。
「ぎゃあああああああああああああああああああああっ!?」
厨房の方から、真の絶叫のような声が聞こえてきたのだった。
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