八話 転校生は注目されるもの
今日は特別、三話投稿。
楓が転校してきてから数日後。
これまでの彼女の様子を見て、篤史は部室にて、友里に質問を投げかけた。
「なぁ、白澤。お前、どう思う?」
『んー……私的には、アニメから入った勢として、アニメ終了後直後に漫画を買うのは早いと思います。やっぱり、アニメから入った身としては、アニメの続編を待つのが当然かと。初見だからこその感動、そして興奮。あれはたまりませんからね。ああ、でも漫画が売れないとまたアニメ作ろう、とはならないですし……究極の選択ですね』
「いやそうじゃなくてだな。広瀬のことだよ、広瀬の」
相変わらず自由すぎる友里にツッコミを入れる。
いや、確かに主語を言わなかった篤史も悪いが、それにしたって話が飛びすぎだろう。
『彼女が、どうかしたんですか? ハッ、まさか、透明化の能力を使って女子更衣室の覗きをしてるとか……!?』
「してねぇよ。っつか、広瀬は女だぞ。覗きしてどうする……そうじゃなくて、あいつ、クラスで浮いてないか?」
『え? そりゃ浮いてるに決まってるじゃないですか。何言ってんですか篤史さん』
「さも当然のようにさらっと言ったなオイ」
『いやいや、だって篤史さん。彼女は転校生。しかも篤史さんと同じくらいの目つきの悪さ。そして、私と同じ、あまり人と関わることに慣れていない態度。これだけの条件がそろってたら、クラスで浮かないわけがない。まさに究極のボッチですね』
「広瀬もお前にだけは言われたくないだろうな……」
しかし、友里の言葉もあながち間違いというわけではない。
転校生。本来ならば、それは噂の対象であり、注目の的。誰だって気にする存在だ。しかも、美少女ともくれば、それこそ話しかけたいと思う奴はそれなりにいるはず。
しかし、現実はそうなっていない。
一つは、彼女の顔つき。常に仏頂面であり、目つきが鋭い。正直、篤史クラスの目つきの悪さ。そして、そこから醸し出される不良オーラ。美少女ではあるものの、それ以上に怖さの方が勝ってしまっているのだ。
そしてもう一つ。こちらが重要。
「あいつ、能力使って、いつの間にか姿消してることが多いしな」
人とあまり関わりたくないのか、彼女は休み時間になると、毎回のように姿を消している。無論、教室の中で堂々と、というわけではないが、透明化の能力を使っているがゆえに、誰とも接点を持てていないのは事実だ。
「まぁ、超能力使わずに気配殺してる奴もいるが」
『ふふん。褒めても何もでませんよ』
「今の言葉を誉め言葉だと判断する時点で、お前は残念な奴だよ」
いつも通りな友里に対し、篤史はいつも通りな言葉を返し、溜息を吐いたのだった。
*
そしてまた数日後。
「バイトが見つからないから一緒に探してほしい?」
唐突に人気のない体育館裏に呼びだされた篤史。
そんな彼に対し楓が放った言葉は、少々意外なものだった。
「その、さ……アンタの言う通り、バイト始めようとしたんだけど……その、アタシ、こっちに来たのはちょっと前で、あんまし街のことしらないから……」
楓は一ヶ月程まえにこの街に引っ越してきたらしい。
だからこそ、この街については右も左も分からない。故に、どこでバイトをすればいいのか分からない、とのことだった。
「その割には、あそこへはいつも通ってたんだよな」
「うぐ……ま、まぁな。あの場所はたまたま知ったっていうか……っつか、隣町に関してもあそこ以外まともに何があるか知らないし……」
つまり、隣町についても状況は同じ。
しかし、それもそうだろう。篤史とて、生まれてからずっとこの街で暮らしているが、どこのバイトがよくて、どこのバイトが悪いとか、そんなことなど知らないのだから。
そして、だからこそ、彼がアドバイスできることも少ない。
「バイト、バイトかぁ。まぁ、俺が提案したんだし、一緒に探すのはやぶさかじゃないが……ちなみに、どんなバイトがしたい?」
「その……なるべく、煩くないのがいい。居酒屋とか、カラオケ屋とか、そういうのはちょっと……」
いかにも、楓のような外見をした女子が働きそうな場所ではあるが、それを彼女は嫌だという。
……いや、見た目云々で言うのなら、篤史も同じなので、そこについては言及しない。
しかし、それにしてもどうしたものか。
と、篤史が悩んでいると。
『―――話は聞かせてもらいました』
唐突に脳内に伝わってきた言葉。
それと同時に、篤史が後ろを振り返ると、そこには体育館の角から頭を出している友里がいた。
「ぬぉおっ!? って、白澤。お前いつからいたんだ」
『無論、最初からです。篤史さんが昼休み、部室へ行かずどこに行こうとしているのか気になりまして。少々後をつけさせてもらいました』
「全く気付かなかった……ってか、お前本当に気配消すのうますぎるだろ。どこぞの幻のシックスマンか」
『まぁまぁ、それについては置いておきましょう。それで、楓さんのバイト先を探す、ということでしたが……』
と視線を楓に一瞬移しながら、一拍あける。
そして。
『―――ウチでバイトするってのはどうでしょうか』
さらりと。
そんな提案をしてくる友里に対し、篤史は目を見開いて驚くのだった。
面白い・続きが読みたいと思った方は、恐れ入りますが、感想・評価の方、よろしくお願い致します。