四話 メイド喫茶へ女子が向かう理由は一つではない
「「「お帰りなさいませご主人様~」」」
複数のメイド服を着た美女にそんなこと言われながら店内に入る篤史。
……正直、人付き合いが苦手な彼からしてみれば、複数の人間に出迎えられるという時点で、結構くるものがある。
そして、それは恐らく篤史だけではない。
「それでは、奥の席へどうぞ~」
案内された席に座ると、少し藍色がかった黒髪ツインテールのメイドがやってきた。
そして篤史は思う。
メイド服と言いながら、ちょっと色んなところから肌が見えていないか?
太ももとか、足とか、胸とか。
そんなことを考えている篤史に対し、メイドが顔を覗き込むような形になりながら、喋りだす。
「やっとおうちに帰ってきていただけましたね、ご主人様。うん? 私ですよ、私。メイドのメイですっ。今日は疲れて帰ってきたご主人様たちのために、た~っぷり、ご奉仕させてもらいますね? あっ、そうだ。ご主人様、何かお飲み物はいりませんか? お腹はすいていますか? そ・れ・と・も、メイと一緒にゲームでもしますか?」
「あ、いや、ええと……」
笑みを浮かべて注文を待つメイに、篤史は圧倒されていた。
だが、そこに思いもよらない救世主が現れる。
「すみません。メイさん。早速で悪いのですが、私たち、とってもお腹が減っているので、このメイド特製ラブラブキュンキュンデリシャスオムライスを至急、二つ持ってきてください。もちろん、メイちゃんラブパワー注入付きで」
「ラブパワー注入つきですねっ、かしこまりました~」
友里の注文を聞き、メイはその場を去っていく。
そして、メイがいなくなったと同時、ほっとしたのもつかの間、篤史は心の中で友里に問いを投げかける。
『……おい白澤。お前、何か手慣れてないか?』
『いえ? 気のせいでは?』
『……そういうことにしといてやろう』
あの白澤が『喋って』対応することの珍しさ、しかも慣れた口調と注文の仕方。そこについて、気にならないわけがなかった。
が、ここへやってきた目的は忘れてはいけない。
『それで……どの子がそうなんですか?』
目線をメイドたちに向けながらテレパシーを送ってくる友里。
彼女の中では、楓はメイドとして働いているのではないか、という予想になっているらしい。当然だ。女子がここへ来るというのは、メイドとして働くため、というのが大きいだろう。無論、女性が全くいないわけではないが、それでも少数派なのは事実。
しかし。
『……いや、さっきから探してるんだが、メイドの方にはいないな』
『え? じゃあ、お客さんとして来てるんですか?』
『いや、まぁ客は客なのかもしれないが……』
言いながら、篤史は人差し指で、カウンター席を指さす。
けれど、そこには誰も座っていない空席があるのみ。グラスも置かれておらず、誰かが座っておりトイレに行っている、という様子もない。
『? 何ですか、あそこ、空席ですけど』
『そうだよな。俺にもそう見える。だが……あそこが匂いの元なんだよ』
匂いの元。それはつまり、二人が探している広瀬楓がそこにいるということ。
そして、それが誰もいない空席となれば、答えは一つ。
『……マジですか』
『ああ。大マジだ』
つまるところ、彼女は今現在、透明化して、空席に座っている、ということになる。それが何の目的かは分からないが……いや、分かりたくないが、とりあえず、目的の少女が目の前にいることは確かであった。
『まさか全裸の女子高生があそこに……』
『おいこらその話はやめろや。ってか、お前はどうしても広瀬を全裸にしたいんだな。……でもどうする? 流石に透明人間相手に、話しかけるなんてことできないしな……』
ここで席をたって近づき、挨拶したところで、逃げられるのがオチ。そして、残った篤史は誰もいない空席に対し、話しかけた可哀そうな奴という事実だけが残ってしまう。
『……あの、篤史さん。あそこに広瀬さんがいるのは確かなんですよね?』
『ああ。間違いない』
『分かりました。ちょっと待ってくださいね』
などと言われ、少し待った後。
突然と、空席だったはずの椅子が倒れた。
『―――おお、いましたいました。確かにあそこにいますね』
その口ぶりからして、友里が何かをしたのは間違いなかった。そして、それが何かを問いたい篤史に気づいたのか、彼女はそのまま説明を始める。
『私のテレパシーって、こう、何というか、電波を飛ばしてる感じというか……言葉を矢にして放ってるようなもんなんです。で、それが相手に直撃したら、手ごたえを感じることができる。今、あの席に向かってテレパシーを送ったら、見事に命中しました』
『命中って……それで? どんな内容のテレパシー送ったんだ?』
『とりあえず、そこの全裸な女子高生、とだけ』
『お前はどこまでも諦めないんだな』
そんな言葉が突然頭の中で聞こえたら、誰だって席を立って驚くだろう。けれど、未だ驚いている最中なのか、楓の匂いはその場に留まっていた。
そして、これは篤史たちにとっても、好機ともいえる。
『とりあえず、これで彼女にテレパシーは送れることが分かりました。それで、どうします?』
『よし。なら、二時間後に近くの公園に来るよう、伝えてくれ』
『分かりました』
そして、しばらくの間、無言の状態が続く。
とは言っても、それは篤史だけの話であり、きっと友里は楓と話し続けているのだろう。
しかし、それもようやく終わったようであり、再び友里は篤史に対し、テレパシーを送ってきた。
『―――篤史さん。とりあえず、相手から了承貰いました。かなり驚いていていましたけど』
『そりゃそうだろうな……って、今更だが素直に来ると思うか?』
『多分大丈夫かと。驚いてはいましたけど、向こうもこちらが超能力者だと理解していましたので。そのまま放置、というわけにはいかないと思っているはずです』
それもそうだろう。自分以外の超能力者から話があると言われた。これは無視できることではない。しかも、恐らく向こうはこちらがどこの誰なのか、分からない状態。ならば、それを確認するためにも、約束通りに公園には来るだろう。
などと思っていると。
「お待たせしました~」
そんな言葉と同時に、巨大なオムライスが運ばれてきた。
「本日のオススメ、メイちゃん特製ラブラブキュンキュンデリシャスオムライスでーすっ!! あっ、今から最後の仕上げ、しますねっ。はいご一緒に、ラブラブパワー、注入―っ!!」
「注入ーっ!!」
と、あっけにとられている篤史の隣で、友里が手でハートマークを作りながら、そんな言葉を呟くことにより、驚きはさらに大きなものとなる。
「はーいっ、ありがとうございまーすっ、また何かあればすぐに呼んでくださいね、ご主人様っ」
言い終わると、メイはそのまままた奥の方へと消えていった。
嵐のような出来事。
しかし、そんな中でも篤史が言いたいことは、ただ一つ。
「白澤……お前絶対この店初めてじゃないだろ」
『ノーコメントです』
シラをきる友里をにらみながらも、篤史はオムライスを食べる。
ちなみに、オムライス自体は物凄く美味であった。
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