三話 透明化の超能力者って全〇なこと多いよね
『透明人間って……ガチの超能力者が出てきましたね』
夕方。学校の帰り道。
篤史たちは、早速、校長の依頼を受け、となり街へとやってきていた。
何故となり街かというと、母親が何度もその転校生―――楓を見失ったのが、となり街だから。
そして、それはビンゴであり、篤史は現在、確かに楓の匂いがこの街にあるのだと理解していた。
そんな中、篤史は先ほどの友里のテレパシーに言葉を返す。
「テレパシー使ってる奴が言うセリフでもないとは思うけどな」
常に無口だというのに、中身はお喋り大好きテレパス美少女。しかもテレパシーに関して、受け取る側には拒否権がないときた。
そこだけでも尋常ではないというのに、彼女にはあの最終手段が存在する。
一度聞いただけで、色々と画策していた黒幕が、全てを捨て去り、許しを請う程の歌。
……うん。普通にヤバイ。
などと思っていると、友里がとある疑問を投げかけてくる。
『でも、透明化ってどういう能力なんでしょうか』
「? いや、そりゃそのままの意味だろ」
『いえ、そうではなく、どういう仕組みなのか、ということです。自分という存在の認識を見失わせるものなのか、あるいは文字通り自分の体を透明化する能力なのか……特に、後者であるなら、ちょっと興味があります』
「その心は?」
『いやだって、自分の体を透明化するってことは、余計なものを着てると無理じゃないですか。つまり、彼女が完全に透明になっている時は、全……』
「いわせねぇよ!? っつか、お前何言ってんの!? 女子としてその発言はどうなんだよ……」
透明人間は透明になる時、全裸になっている……映画などではよく見るパターンだ。しかし、だからと言って、それを女子が口にするのは流石にまずい。っというか、敢えてそこには触れないでおいた篤史の苦労が水の泡になった。
けれども……まぁ確かにそこについて、考えなければならないのは事実だ。仮にも相手は女子。それが全く服を着てない状態で街を出歩いていたら、それはそれでまずいだろう。
しかし、篤史としては、そこについては正直心配ないと思っている。
「けど、校長の話だと、母親が一瞬で見失ったって言ってたからな。多分、前者なんじゃね? だって、後者だと、母親が尾行している一瞬の隙に服とか荷物とかを処理するのは無理だろ。もしくは、身に着けてるものすら一緒に透明化させちまうことができるとか」
『ですかねぇ……ちっ』
「今の舌打ちがどういう意味なのか、じっくりと聞きたいんだが」
一体何を想像していたんだこの残念美少女は。
『とはいえ、能力のガチさで言えば、篤史さんも相当だと思いますけど』
「何でだよ」
『いやだって……半径一キロの距離で匂いを識別できるとか、凄すぎじゃないですか?』
一キロ圏内。
それが、篤史が匂いを判別できる範囲だった。
とはいえ、それは超能力者に限っての話。いや、そういう限定だからこそ、それだけの範囲で扱える、ということなのかもしれない。
『しかも、本人の匂いがついたハンカチから分かるって……何ですかそれ。鮫ですか貴方は』
篤史たちがとなり街までやってきたのは、校長からの助言があったから。
しかし、今、彼が匂いを識別できているのは、校長が楓の両親から借りたというハンカチ。その匂いを嗅いでのことだった。
「いやそんなこと言われてもだな……っつか、鮫って鼻はいいけど、一キロ先まで嗅ぎ分けられるってのは嘘らしいぞ」
『えっ、つまり篤史さんは鮫以上だと? ……やばいですね』
いや、やばさでいうのならお互い様だろ、と言いかけたものの、篤史は寸でのところで踏みとどまり、言葉を変えて口を開く。
「大体だよ。どっちの方角にいるのか程度のモンだ。まぁそれを頼りに近づけば、正確な位置が分かるがな」
『ほうほう……なら、私が迷子になっても、すぐに見つけてくれるということですねっ』
「うん。お前の場合、マジでやりそうだから、洒落にならないな……」
目の前にいる美少女がどこまで行っても残念なのは篤史も良く知っている。そのため、デパートなどで携帯を無くした上で迷えば、迷子センターに行きかねないこともあるだろう。
「っと、ここだ……な……?」
目の前にある店を見て、篤史は思わず、疑問形になってしまう。
そして、その店に対し、疑問を抱いたのは、篤史だけではなかった。
『ええと、篤史さん? あの……本当にここなんですか?』
「違う……と言いたいが、匂いは確かにここからきてる。間違いない」
正直に言おう。透明化の能力と聞いて、篤史はあまりよろしくない場所にいっているのでは、とは思っていた。
自分の姿を消せるのだ。それこそ、スリや窃盗など当然簡単。バスや電車の無賃乗車は当たり前。映画館での無賃鑑賞も可能だろう。
それだけ姿を消せる能力とは、厄介で凶悪な能力であり、犯罪への使い道は数多ある。
ゆえに、様々な予想をするのは当然のことであり、篤史も友里もそれなりの覚悟でここまで来た。
だというのに。
だというのに、だ。
「……………………なんで、メイド喫茶なんだよ」
ハートマークとメイド服が描かれた看板を見ながら、篤史はそんなことを吐露したのだった。
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