二話 学校の裏事情とか知ると気まずいよね
唖然とする二人に対し、沢城は淡々とした口調で続けた。
「そんなに驚くことか? 私が、君らのことを超能力者だと知っていたことが」
「いや、まぁ、それは……」
当然、驚くことだ。
篤史と友里、二人とも家族以外に自分の能力を話したことはない。それ故に外部に漏れることは決してないはず。
だとするのなら、考えられるのは、沢城も何かしらの能力者で、それで自分たちが超能力者であると知った、ということ。
だが、それはまずない、と篤史は判断する。
何故なら、今、こうしている時も、沢城からは超能力者としての匂いがない。つまり、彼女はただの普通の人間。
だからこそ、余計に篤史は疑問を強く抱いてしまっていた。
『何で校長先生が超能力者のことを……ハッ!? まさか、この学校は超能力者を集めて調べるための施設だったということですか? そして集められた私たちは人体実験の犠牲になる定めにあると……』
『いや、何いきなりぶっ飛んだことテレパスってんだよ。っつか、それなら何で俺ら含めて三人しかいねぇんだよ。いくら何でも少なすぎだろ』
相変わらずツッコミどころ満載な妄想が炸裂する友里。
しかし、友里の疑問は尤もである。
そんな彼らの脳内会議を見たかのように、沢城は言う。
「何、別に不思議なことではない。私の身近にも超能力者と呼ばれる人間がいるというだけの話だ。その人物の能力というのが、顔を見た相手が超能力者かどうか判別できるというものでな。しかも、直接顔を見る必要はなく、写真でも構わない。加えて、それがどんな能力なのかまで把握することができる」
『えっ、それってつまり……』
『俺の完全な上位互換だな……』
篤史は匂いで超能力者かどうか、判別することができる。それだけだ。相手がどんな能力なのか、それを見極めることはできない。だというのに、その人物は、写真を見ただけで、超能力者かどうかだけではなく、その能力を知ることができるのだから、篤史よりも能力は上だ。
「私は毎年、その者に頼んで、ウチの生徒、並びに教師陣の中に超能力者がいるかどうか、調査してもらっているというだけの話だ」
『……あのー、それ普通に個人情報の流出じゃないですかって、ツッコミを入れるのは……』
『NGだ。やめとけ』
友里の提案を即座に篤史は止める。
学校のちょっとした裏の顔が見えてしまったことに対し、色々と言いたいことはある。だが、それをここで自分たちが言ったところでどうにもならないし、そもそも沢城相手に、そんな意見を言う勇気がない。
きっと超能力者かどうかを判別する理由も分からなくはない。超能力者がいる、という知識を持ち、その上で判別する方法を持っている人間からすれば、誰がそうで誰がそうではないか、知りたいと思うのは不思議ではない。ましてや、能力を使って悪事を働こうとする輩がいるかもしれない。それを防止するために、事前に知っておく、というのは当然の手段なのだろう。
だから、篤史が口にしたのは別の言葉。
「それで、校長先生は自分たちが超能力者だと分かったんですね」
「ああ。白澤君がテレパシー能力、山上君が超能力者を匂いで判別できる能力、ということも把握済みだ」
そして、二人の能力を完全に言い当てたことで、沢城の話がデマではないことを篤史は再確認する。
「……本来ならば、一生徒にこんなことを頼むのは筋違いだというのは理解している。だが、相手が超能力者となれば、話は別だ。超能力者の悩みは同じ超能力者にしか分からない。そして、現在、我が校にいる生徒の中で超能力者は三人。さらにその中で今回の件で役立つ能力を持っているのが山上君、君だ」
もう一度、念を押すように言われた言葉。
篤史が必要。しかし、篤史にはどうにもその言葉がいまいちピンときていなかった。
「あの……さっき、校長の知り合いの人は超能力者を顔で判別できるって言ってましたよね? しかも、能力まで把握することができるって……正直、俺の能力、それの下位互換だと思うんですが……」
篤史は匂いで相手が超能力を判別できるだけ。一方で沢城の知り合いは判別だけではなく、能力も見極められる。どちらが優秀かは、一目瞭然だ。
しかし、篤史の言葉に沢城は首を横に振る。
「いいや。そんなことはない。確かに、私の知り合いの能力と君の能力は似ている。が、決定的に違う部分があるとすれば、君は能力者を広範囲でしかも正確に追跡できる、という点だ」
『追跡……ああ、そういえば、私と初めて会った時も、正確に居場所、見つけてましたね』
確かにその通りである。
篤史の能力は、超能力者を広範囲で判別することができる。そして、その匂いを追っていくことも当然可能だ。しかも、正確に。
そして、だからこそ、超能力者相手ならば、理論上、どこまでも追跡できることはできる。
「今回の相手は、君のその正確に相手の居場所を突き止めることができる能力が必要不可欠になる。何故ならば―――」
言うと、沢城は封筒から一枚の写真を取り出しながら。
「彼女、広瀬楓の能力は……透明化能力だからな」
そんな事実を口にしたのだった。
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