五十話 それでも、白澤友里は残念である
『……篤史さん。よく、言い訳をするなって言葉、ありますよね? 確かに何かしら悪いことをした時、謝罪せず、いつまでも自分の正当性を主張するのはどうかと思います。けれど、私は思うんです。説明や理由を述べることと、言い訳は違うのだと。たとえば、乗っている電車やバスが突然止まったりして遅れたりした場合、その人には罪はないと思うんです。だって、電車やバスが止まったのはその人のせいではないのですから。故に、まず怒るのではなく、説明や理由を聞くべきだと思うんです』
長々と語る友里。
それを全て聞き終えた篤史は、たった一言、問いを投げかける。
「ほう。それで、お前が二時間遅れた理由は何なんだ?」
『普通に寝坊です、すみませんでしたぁぁぁああああああああっ!!』
まるで、その場で土下座でもしているかのような、猛烈な謝罪テレパシー。
無論、実際は土下座などしてはおらず、相変わらず無表情のまま。
本当に、中と外のギャップが激しすぎる。
彼らは今日、以前観に行けなかったとある映画を観に来たわけなのだが、お察しの通り、友里がものすごい遅刻をしたために、予定の上映時刻は当の昔に過ぎてしまっていた。
『この度は誠に申し訳ないと思っております一応めざましをかけていたのですがそれも無駄となり起きた時点で約束の時間をとうに過ぎていました。ええ無論罰は受けます受けさせてください何なら篤史さんの好みの服を着ますのでどうか……っ!!』
「あーはいはい。もういいから。十分謝罪の気持ちは伝わったから。映画は次の時間帯のやつ見ればいいわけだし」
『うう……そういってもらえると、助かります……』
「ま、とりあえず、どっかで時間潰すか……あ、けどカラオケはNGな」
『篤史さん。その話はやめましょう。戦争になりますから』
唐突にテレパシーのトーン(?)が変わった。
どうやら彼女に対し、カラオケ、というか歌の話題はダメらしい。以前は、自分が音痴であったことを誇らしげに語っていたが、あれはあの場の勢いで、ということなのだろう。きっとあの日帰った後に、自分の発言を思い出し、のたうち回ったに違いない。
などという予想をしながら、篤史はふと別のことを口にする。
「にしても、お前とまた映画を一緒に観に行くことになるとはな……」
『? 何ですか篤史さん。私と映画館に行くの、嫌なんですか?』
「逆だよ、逆。前は言ってなかったが、俺、友達と一緒に映画を観に行くのって、ほとんど初めてだったからな。だから、こうして短期間の内に二度目があるとは思わなかったんだよ」
『篤史さん……何というか、あれですね。篤史さんも、結構なボッチ人生を歩んできたようで』
「それはまごうことなき事実で否定はしないが、お前にだけは言われたくない」
ボッチであり、残念であり、自称陰キャの権化である美少女にそんな言葉を口にする資格はない。
とはいえ、だ。
そんな彼女に、篤史がこれまで何度も救われてきたのは事実である。
「ただ……ああそうだな。お前と出会ったから、俺の高校生活は変わったよ。それにお前には、本当に助けられてばかりだ。その点については、マジで感謝してる」
きっと、今回の件は友里がいなければ解決できなかっただろう。
それは、澄への説得方法だけではない。彼女が自分と一緒にいてくれたからこそ、篤史は腐らずにいられたのだ。
たった一人でも、隣にいてくれる友達がいる。
そして、その友達が、自分のために大勢の前で怒ってた。
さらには、問題解決のために手を貸してくれた上、今日もこうして一緒に映画を観に来ている。
本当に、自分には贅沢な状況だと篤史は思う。
ゆえに。
「それでだな。その……これからも、一緒にこうしてもらえると……俺的には嬉しいというか……」
そんな、少々恥ずかしげなセリフを吐く篤史。
そんな彼に対し、友里は。
『は? 何言ってるんですか当たり前じゃないですか』
などと、即答した。
『篤史さんは私の大事かつ、数少ない、というか、唯一のオタク友達なんですから。嫌だと言っても、聞きませんから。そういうわけで、これからも構ってもらうので、そのつもりでよろしくお願いします』
さも当然だと言わんばかりの言葉。
彼女にとっては恐らく、本当に当たり前のことなのだろう。
だが、しかし篤史にとっては、その言葉はとても暖かく、芯に響く言葉だった故に。
「……ああ。よろしく頼む」
小さな笑みを浮かべて、呟いたのだった。
永遠というものは存在しない。
絶対というものはありえない。
出会いがあれば別れがあるように、きっといつか自分たちにもそういう時が来るのだろう。
けれども。
それはまだまだ先の話になるのだろうと、この時篤史は確かに思ったのだった。
ちなみに。
『あ、あづじざん~っ、後生ですっ、お金、お金貸してください~。もう少しで取れるんです、あのぬいぐるみがとれるんですぅ~』
「お前はホント、どこまでも残念なのな」
クレーンゲームに全財産をつぎ込み、鼻水と涙を流しているかのようなテレパシーを送ってくる美少女を見ながら、篤史はそんな言葉を口にしたのだった。
これにて一章完結です!!
いや~ここまで長かったです。そして、初めてのラブコメでここまで皆さんが読んでくれるとは思っていませんでした。
特にヒロインの音痴案件についての反響は予想外でしたww
話は一区切りつきましたが、まだまだ二人の物語は続いていきます。
だって……未だに二人の恋は始まってもいないんですから。
感想の返信、遅れてすみません。
少しずつ返していきます。
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