表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/132

五話 部室の私物化はほどほどに

 ここで一つ、篤史は疑問を口にした。


「っつか、昨日も思ったんだが、ここ、勝手に使っていいのか?」

『あ、大丈夫ですよ。ここ、ウチの部室なんで』


 と、友里はあっさりとそんなことを口にする。

 先ほどまで涙目になっていた彼女だが、篤史の弁当のおかずを一つ与えたら、この状態に戻った。本当に、色々と残念な性格である。

 が、今はそれは置いておく。


「部室……? 何部の?」

『ラノベ研究同好会』

「まじか。ウチの学校にそんなのがあったのか」

『まぁ、表立って何かをやってるわけじゃありませんからねぇ。やっていることと言えば、毎日ひたすらラノベを書いて書いて書きまくるだけですから』

「まぁ、そりゃそうだろうな。何せ、ラノベ研究同好会なんだから」

『とは言っても、ここに来るのは大体私だけですけど』

「何だって?」


 聞き捨てならない言葉に、思わず篤史は問いを投げかけた。


『元々人数が少ないうえ、それぞれが自分の家で執筆してますからね。他人がいると気が散るって理由で』


 確かに、集中して作業がしたい、となれば個々人でやるのは理解できる。それも、創作活動だ。ちょっとした音でも気になってしまうのだろう。

 しかし、だとしても。


「それで、よく部活として成立してるな……」

『一応、毎年文化祭用のラノベとか出してますし、ちゃんと部活動はしてるんです。毎月ちゃんと一冊分は書いてきてますしね。私以外は』

「私以外はって……お前は書かなくていいのかよ」

『私は読む専門なので。それで、感想を言ったり、評価したりするのが私の役目です。逆にラノベを書かないでくれって頼まれるほどですよ? 下手に執筆活動したら、作者の立場を考えてしまうからって』


 つまり、常に読者の立場でいてくれ、ということだろう。

 確かに、感想を貰うとなれば、作っている者よりも、ただ読む人間だけの方がいいのかもしれない。何せ、作者は読者に向けて作っているのだから。作者には分からないこと、理解できないことを、読者なら指摘できることがあるのだろう。


『そういうわけで、ここには私以外、滅多に来ません。加えて言うのなら、部活に入る条件として、ここを好きに使っていいという承諾も得てます。なので、私がここで何をしようとも、自由、というわけです。それに、月に一度の感想会を除けば、毎日早く下校できますし。まさに、私にとって素晴らしい部活動と言えるでしょう!』

「胸を張って言うことじゃないだろ……」


 いや、まぁ確かに口には出していないが……それでも、頭の中に入ってくる内容が内容なだけに、篤史は思わずため息を吐きたくなった。

 何度も言うが、彼女の表情はそこまでの変化がない。笑ったり、涙を浮かべたりするものの、表情の変化は乏しいと言える。

 が、問題なのは、その中身。明らかに人付き合いが苦手な性格。しかも、陽キャと呼ばれる連中には、明らかな嫌悪を持っている。そして、一見無口でミステリアスな雰囲気は、ただ口で話すのが嫌いなだけという始末。

 これが、学園で一、二を争う美少女の正体ともなれば、誰もが愕然とするはずだ。


『あっ、そうだ。篤史さん』

「篤史さん?」

『あれ? もしかして、下の名前で呼ばれるの、嫌いですか?』

「いや、そういうわけじゃないが……」


 今まで同級生どころか、女子に下の名前で呼ばれたことがなかった篤史は、一瞬戸惑いを見せてしまう。


「悪い。それで、何だ?」

『いえね。ものは相談なんですが、ここで昼食をとる、というのはどうでしょう。ここなら他の人に見つかりませんし、今日みたいな雨とかになっても問題ありませんし』

「それは……」


 篤史としては願ったりかなったりな提案だ。

 今日のような雨だけではなく、これから天候があれたりした場合のことも考えれば、室内で昼休みは過ごしたい。

 だが、しかし。


「いいのか? ここはいわば、お前の聖域みたいなもんだろ。っつか、そもそもお前だって、一人になりたいからここにいるんだろう?」

『失敬な。私は別に一人になりたいから、部室にいるわけではありません。あの能天気かつ邪魔でしかない陽キャどもに見つからないようにするため、ここにいるのです』


 心の中で毒づく友里。

 どうやら彼女にとって、陽キャというのは、本当に嫌いなタイプらしい。


『無論、交換条件があります。それは……』

「ゲームの対戦相手をしろってか?」

『なっ!? 何故それを……まさか、篤史さんは心を読む能力も持っているのですか……!?』

「んなわけあるか」


 これまでの流れからそれくらいは察することができるのは当然。

 そして、その内容を篤史はよく吟味する。

 昼休みは一人で過ごしたい、という気持ちはある。だがしかし、今の彼にここ以外でゆったりとした時間を過ごせる場所は、学校にはない。

 だとするのなら、答えは一つ。


「分かった……ま、それくらいなら付き合ってやるよ」


 交渉成立。

 こうして、学校一の美少女と学校一の嫌われ者の間に、奇妙な縁が結ばれたのだった。

最新話投稿です!


面白い・続きが読みたいと思った方は、恐れ入りますが、感想・評価の方、よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 毎月一冊って結構えぐいだろ
[一言] 一緒にゲームをやる相手は大切ですね
[良い点] 容姿は優れているのに、中身は愉快で残念なヒロインが実に良いですw 応援させてもらいますので、更新頑張ってください。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ