四十七話 最終手段って、大体力技だよね
『……つまり、私と取引したいってこと?』
『いいえ。これは警告です。もしもこれ以上、本当にひかないというのなら、私も相応の手段をとる、ということですよ』
送られてくるテレパシーから感じる圧。
それは本物であり、恐らく彼女は本気で言っているのだと澄は理解する。
そして、だからこそ、彼女は呆れていた。
『……馬鹿らしい。その程度のことで、私を止められるとでも?』
確かにテレパシーを送られてくるのは厄介だ。学校生活の中で唐突にやられたり、先ほどのような罵詈雑言を投げつけられれば、どうしても反応してしまうかもしれない。鬱陶しく、そしてストレスがたまるのは目に見えている。
だが、それで?
鬱陶しい? ストレスがたまる?
だからどうした。
その程度で止まれる程、自分はヤワではないのだ。
『そうですか……なら、どんなことがあっても、貴方は止まらない、と?』
『当然よ』
『……分かりました。では、もう仕方ありません』
それはまるで、何かを覚悟したかのような言葉だった。
『これは本当に、本当にやりたくなかったことですが……貴方がどうしても、篤史さんに危害を加えるというのなら、容赦しません』
そう言って、友里は少しだけ間をあけた。
緊張の刹那。相手が何をしてくるのから分からない澄は、眉をひそめ、警戒する。
そして。
『白澤友里―――歌いますっ』
「……………………は?」
あまりにも斜め上すぎる言葉に、思わず口で反応してしまった。
だがしかし、次の瞬間。
『――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――』
決して人が触れてはならないような何かが、澄の頭に流れ込んできた。
*
篤史と友里の作戦はこうだった。
篤史が澄と話している最中に、友里がテレパシーを送り、彼女を脅す……という何とも単純な代物。その間、篤史は、友里が澄にテレパシーを送っていても、知らぬふりを通し、友里と自分が別個で行動していることを装うことにしていた。そうすることで、相手の意表を突き、ボロを出させるため。そして、その瞬間を隠し撮りで録画する。
それをもって、彼女との交渉材料にするつもりだが、それでも解決できない時はどうするのか。
『安心してください。私の最終手段を使えば、きっと何とかなりますので』
何故か自信満々に答えていた友里。
そして、現在、篤史の不安は的中してしまった。
澄は隠し撮りを証拠にしても無駄だと主張してきた。何故なら、篤史はこのことを公にはできないと知っていたから。
その通りだ。仮に隠し撮りしたものをクラスメイトや教師陣に見せれば、彼女は報復として、翼の件をネットにばら撒くだろう。
そして、澄が持つマインドコントロール。
彼女はそれに対し、かなりの自信があるようで、それさえあれば、クラスは自分の思いのままであり、篤史が何を言ったところでどうとでもなる、と考えているようだった。
それが実際問題どうなるかはさておき、このままでは篤史が何を言っても澄には届かない。
ゆえに、どうしようかと迷っていたのだが……。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
突然、その場に倒れながら叫ぶ澄。
いきなりの出来事に、一瞬呆気にとられていた篤史だったが、即座に近寄った。
「お、おい、霧島、大丈夫かっ!?」
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ、やめてぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」
澄は、何かをやめるよう懇願している。
それを見て、篤史は、これが友里が言っていた最終手段であると即座に理解した。
したのだが……。
「白澤っ!! ちょ、お前、やめろやめろ!! 霧島、女子がしちゃいけない顔で絶叫してるぞ!! っつか、お前一体何してんだ!?」
澄は友里と同じくトップクラスの美少女。そんな彼女が周りの目を気にする余裕もない程、頭を抱えながら、のたうち回っている。
先ほどあれだけ余裕の表情を見せ、まさに『黒幕』だと言わんばかりな態度であったというのに、今では見る影もない。
加えて。
「分かった、分かった、分かりましたぁぁぁあああああああああ!! もうちょっかい出さない、噂も流さない、復讐も諦めるからぁああああああああああああああああっ!! だからこの歌を止めてぇぇぇええええええええええええっ!!」
「歌っ!? 歌って何だ、どういうことだよ!?」
あまりの状況に困惑する篤史。
今、テレパシーで繋がっているのは友里と澄。そのため、篤史には何が起こっているのかが全く分からなかった。
けれど、それでも理解できることはある。
さっき、証拠があろうと関係ないとか言っていた少女に、もう復讐しない、だから歌を止めてと言わしめる……それだけで、壮絶な何かが行われていることだけは分かった。
その後、篤史の制止の言葉は一向に届かず、直接隣の部屋で隠れていた友里に拳骨を入れることで、澄の絶叫は止まったのだった。
はい。色々と言いたいことがあると思います。
しかし、やりたいことやれたので、反省はしていません!!(オイ
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