四十六話 地味な嫌がらせ程、ストレスになる
「え、どういう……」
疑問を口にする澄。
それに対し、友里の呆れた言葉が彼女の頭の中に入ってくる。
『だから、さっきから言ってるでしょう? 不審な行動しないでください。篤史さんが怪しむじゃないですか。会話したいなら、心の中で呟いてください』
意味が分からない指示を出され、澄はますます不快な気分になる。
だが、友里の言葉通り、篤史は彼女の挙動に不審を抱き、質問をしてきた。
「? どうした霧島。さっきから」
『ほら。言わんこっちゃない。篤史さんが困惑してるじゃないですか。ほら、早く言い訳してください』
一方的な言葉に苛立ちを覚えながら、しかしここは友里の言う通りに澄は篤史に対して口を開く。
「べ……別に。なんでもないわ」
などと言いながら、しかし心の中では疑問だらけ。
故に、友里に対して問を投げかけた。
『貴方……これは一体どういうこと?』
『どうもこうも、テレパシーを貴方に送っているだけです』
『テレパシー? 何を馬鹿な……』
『ああ、大丈夫です。超能力とかそんなのあるわけないじゃないとか、そういうの聞きなれてるんで。っというか、貴方に信じてもらうつもりなんてこれっっっぽっっっちもありませんから。とはいえ、流石の貴方でも、これが手品とかの類ではないというのは分かるでしょう?』
言われ、澄は反論できなかった。
彼女は薬を使った洗脳や催眠、そして言葉を使ったマインドコントロールを得意としてきた。だからこそ、手品や仕掛けなども容易に見破ることができる。
そして、だからこそ分かる。分かってしまう。
今、頭の中に聞こえてくる声は、トリックや幻聴などではない、ということを。
『……何が目的なの』
『目的? そんなの決まってるじゃないですか。私の大事な友達の篤史さんを傷つける貴方をどう料理してやろうかと思いまして』
随分と上から目線な口調。
しかし、それでも澄は友里の言葉を聞くしかない。何せ、彼女にとっては本当の意味で摩訶不思議な出来事が頭の中で起こっているのだから。
『っていうか、さっきから話を聞いてましたけど……もしかして、貴方、本当は頭悪いんじゃないですか? 証拠を突きつけられても皆は自分の方を信じる? ええそうかもしれません。ウチのクラスの連中ならば。けど、それ以外だったらどうします? 他のクラス、教師陣は無論、それこそネットの海にでもさらされれば、貴方の人生は終わりじゃないですか。洗脳? 催眠術? マインドコントロール? 馬鹿じゃないですか? そんなもので、本当に何もかもがうまくいくとでも?』
などと、次に出てきたのは、澄の作戦の不備についての指摘。
いや、実際のところ、澄が篤史に対して用意していた対抗策は、杜撰と言える代物。
そして、真実だからこそ、澄もまた反論ができない。
『そもそも、副委員長如きで信頼を勝ち取ってるとか何ですか。ギャグですか? 確かに、クラスでの評判はいいですよ。ええ認めますとも。しかし、それが学校全体となれば話は別。もしかして、全校生徒が貴方の虜になっているとでも? いやいや、それは流石に自信過剰じゃないですか? そういうのは生徒会長とかになってから言ってください。まぁ、その前に委員長にすらなれてない時点でお察しですが。とはいえ、貴方があの委員長に勝つところなんて、想像できないですし、無理もないことですけど』
などと言うものの、友里からしてみても、あの委員長よりも信頼を勝ち取る、なんて芸当は誰にもできないと思っている。
『しかしまぁ所詮は詐欺師の娘。どれだけ取り繕うが、その性根は腐りきっていることには変わりない。だからこんなことをしでかしているわけですし。何やら先ほど、自分がどれだけ不幸な存在なのか語っていましたが、はっきり言いましょう。貴方に不幸自慢をする資格なんてありませんよ』
「貴方は……っ」
あまりの物言いに、思わず口に出して怒りを露わにしてしまう。
だが、この会話はあくまで、テレパシー間で行われているもの。
ゆえに、第三者から見れば、澄が勝手に怒り出した、といった感じにしか見えない。
「おい……本当にどうしたんだ?」
「っ、何でもないわよ……っ」
眉をひそめる篤史に対し、澄は半ばキレながら言葉を返す。
そして、それはもう一人にも。
『苛立ちましたか? 腹が立ちましたか? 聞くに堪えませんか? だとするのなら、何より。私がしたかったのは、そういうことですから。それが今、私が貴方に抱いている気持ち。大事な友人をここまで追い詰めた貴方への怒り。それを少しでも理解させたかったので』
そして。
『今ので大体理解できたでしょう? 私は他人を怒らせることに長けている。そして、テレパシーを使えば、貴方が勝手に一人で怒り出す、という状況を作れる。これを周りが見れば、どうなるんでしょうねぇ?』
『貴方……っ』
『地味だと思いました? でも、これ結構きくんですよ。人間、突然喋りかけられるとどうしても反応してしまう生き物。そして、それを常に警戒するとなると、ストレスがものすごく溜まりやすい。え? 何故分かるのかって? そりゃあ勿論、昔、実践したことがありますので、よーく知ってますとも』
言ってしまえば、それは嫌がらせそのもの。
しかも、かなり地味。
けれども、やっていることは確かに地味だが、それをテレパシーという異様な力を行使することで、相手に与える精神的な負担はかなり大きくなる。
事実、澄はこの短時間の間に、かなり精神を揺らされていた。
『貴方……結局、何がしたいのよ』
『分かりませんか? つまり、これ以上篤史さんに何かするというのなら……私は徹底的に貴方を追い詰める、ということです。全身全霊で、ね』
まるで不敵な笑みを浮かべているかのような声を、友里はテレパシーで送ったのだった。
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