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四十三話 犯人はお前だって一度は言ってみたいよね

 結局、篤史は翌日は、いつも通りに過ごしていた。

 佐山には、廃工場の件は黙っておくように伝えてある。きっと『黒幕』も失敗したことを理解しているがゆえに、もうこれ以上、佐山を使ってアクションを起こすことはないだろう。

 しかし、だから問題はない、というわけでもない。

 それは佐山を使わなくなるというだけであり、実際のところは別の手段を講じてくるに違いない。それこそ、不良たちを使って直接的な暴力をしかけてきたのだ。これ以上放置すれば、もっと過激なことをしてくるのは明白。

 ゆえに、その前に何か対策をしなければならないのだが。


(さて……どうしたもんか……)


『黒幕』の正体は判明した。

 そして、その動機についても。

 手口についても、確たる証拠はないものの、予想はついている。

 けれど、問題なのは、それら全てが分かったところで、自分に一体、何ができるのか、というところ。

 今言ったように、『黒幕』の手口についての証拠は、今のところ何もない。いや、そもそも篤史が予想している方法だとするのなら、『黒幕』を法律で裁くことはほぼ不可能・・・。きっと教師陣や警察関係者に伝えても、大半の者には信じてもらえないんだろう。

 ならば、この事件を解決するには、どうするべきなのか……。

 

 などと考えている中。


『篤史さん。貴方は今、何か困っていますね?』


 唐突にそんなことを問われた篤史は、思わず目を丸くさせてしまう。


「……なんで、そう思うんだよ」

『いやいやいやいや、何でも何もないでしょうに。朝からずーっと様子がおかしいし、話しかけても上の空ですし、ゲームをしてても私がちょっと勝てそうなところまでいっちゃってますし……いや、結局負けちゃってますけど、ま、まぁゲームに関してはきっと私の実力がついてきた証拠なんですけれど』

「うん。それはない」

『即否定!?』


 いつものような軽口を言い合う二人。

 しかし、友里はそんな中でも真剣な面持ちでテレパシーを送ってきた。


『ま、まぁそれは置いておくとして……篤史さん。何か困ってるなら、私に相談してください。私、基本役立たずでダメ人間ですけど、それでも友達の力にはなりたいと思っています』

「白澤……」

『きっとそう思っているのは、私だけじゃありません。委員長や斎藤先生、それからウチの部長や副部長だって、手を貸してくれるはずです。篤史さんが何だかんだで優しいのと同じように、あの人たちも優しい人たちですから』


 言われ、篤史はそこでようやく理解する。

 そうだ。今の自分は一人ではない。

 この前の佐山の時もそうだ。彼は暴力という手段をとらないために、他人の力に頼った。それは己で問題を解決できないという証明でもあったが、同時に自分には力を貸してくれる誰かがいるという証明でもあったのだ。


 はっきり言おう。今回の事件は、篤史の問題だ。

 けれど、今、篤史一人ではこの問題を解決することはできない。何せ、彼は超能力者を嗅ぎ分ける鼻を持っていること、そして喧嘩に強いこと以外では、普通の人間と大差ない男なのだから。そして、その二つは今回の件を解決するのに、あまり役にはたたない。


 ならばどうするのか。

 答えは最早、一つしかない。

 そう思った篤史は。


「白澤……悪いが、力を貸してくれないか」


 目の前にいる少女に対し、そんな言葉を投げかける。

 そして。


『はいっ。勿論です!』


 友里もまた、篤史の言葉にいつものように元気よく答えたのだった。




 その後、篤史たちは他の人間にも協力を仰いだ。

 主に頼ったのは、柊と斎藤。この二人がいなければ、きっと『黒幕』を追い詰めることはできないと思ったから。

 彼らにやってもらうことは一つ。芝居だ。

『黒幕』を裏校舎、つまりはラノベ研究同好会の部室へと誘い込むこと。それには、教師と委員長という信頼がある立場の人間が言ってもらう他ない。

 準備は整った。あとは、『黒幕』が来るのを待つだけ。

 そして―――


「よう。遅かったな」


 ドアが開かれると同時に、篤史はやってきた人物に話しかける。

 投げかけた声に、『黒幕』はどこか驚きの様子だった。恐らく、彼女からしてみれば、篤史がここにいることが不思議だったのだろう。

 そう考えると、篤史たちの作戦、その第一段階は成功とみるべきだろう。

 そして、篤史は前置きを置かず、単刀直入に言い放つ。


「お前が噂の『黒幕』だったんだな……霧島」


 霧島澄。

 篤史のクラスの副委員長であり、この学校で友里と同じ、一、二を争う程の美少女。

 そんな彼女は、困惑した表情を浮かべながら、その場に立っている。

 それはまるで、意味が分からないと言わんばかりな顔と態度。

 けれど、篤史にはもう分かっている。それが、ただの演技でしかないことを。

 だからこそ、彼は決定的な一言を告げるのだった。


「いや、この場合、こういえばいいか? 元要注意宗教団体『父之湖ちちのみずうみ』。その教祖の娘、門黒澄かどくろすみ


 その言葉に、澄の顔は硬直する。

 元要注意宗教団体『父之湖』。

 それはかつて、篤史の両親が潰した、宗教団体の一つであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一気読み中のコメント投下失礼します。 霧島澄……これでめげなかったら、何年か後に「娘の泉」とか「赤道○○共和国」とか創ってそうですね。 ↑しかし、名前がストレートで、おや? と思ったものの…
[気になる点] あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! 「おれは 恋愛小説を読んでたと 思ったら いつのまにか推理小説になっていた」 な… 何を言っているのか わからねーと思うが  おれも 何…
[一言] おおぅ… 宗教洗脳技術か! でもアレって依存とか自尊心肥大とか選民思想系では無いのかちら カラクリにドキがムネムネしちゃう! 主人公のお父さんみたいなのが主役の漫画や小説はいくつか読んで…
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