四十一話 言葉は暴力よりも強し
すみません!
投稿しようとした瞬間、やっぱり違うと思い、一から書き直して遅れてしまいました……。
囲まれている。
篤史は、周りを見ながら状況を把握していた。
見た目からして、どこかの不良グループだろうか。その手には金属バットや鉄パイプなどを持っており、いかにも好戦的だと言わんばかりの印象を受ける。
そして全員、こちらを逃がさないよう、完全に包囲している状態だ。ここから篤史一人で逃げるならまだしも、佐山を連れてとなれば、かなり困難なのは必至。
ゆえに、逃亡は不可能だと理解した篤史は、口を開いた。
「誰だ、お前ら」
率直な質問。
それに対し、リーダー格の男が答える。
「いやいや、俺らが誰なのかなんてどうでもいいだろ? 俺もお前らが誰なのか、そんなことは知らないし、興味もない。ただ……お前らをボコボコにすれば、金を貰えるって話でなぁ。だからまぁ、とりあえず、リンチされといてくれや」
端的な答え。それによって、篤史は何となく、状況を察した。
(これも『黒幕』が用意した策ってことか。佐山だけだと不安だから、事前に失敗した時のことを考えて……いや、そもそも最初からこっちが本命だったって可能性もあるか)
噂の件から分かるように、『黒幕』は相当性格が悪い。
佐山が今回、『黒幕』に利用されているのは言うまでもない。だが、佐山一人に全てを任せたとは到底思えない。きっと、佐山は囮に使われたのだろう。篤史を呼び出すためだけに。
そして、何も知らない佐山はというと、奇妙な男たちの登場にあたふたしていた。
「何だ、こいつら……」
「さぁな。でもまぁ、安心しろ。俺が何とかする。お前はそこでじっとしてろよ」
そう言って、篤史は自ら前へと出た。
無防備かつ、丸腰なまま近づいてくる篤史に対し、リーダーの男は鼻で笑う。
「俺が何とかする? ハッ、そりゃあれか? お前があいつの分までボコボコになるって意味か?」
「いいや? お前ら程度、俺一人で十分だって話だ」
その言葉で、男の表情が一気に変化する。
先ほどまでこちらを見下していた顔が、挑発されたことにより、怒りの形相になった。
そして。
「……舐めた口きいてんじゃねぇぞ、クソがっ!!」
男の拳が、篤史の顔面に直撃した。
はずだったのだが……。
「―――何だ。今、殴ったのか?」
「……へ?」
思わず、素っ頓狂な声を出してしまう男。
それもそうだろう。彼は今、本気で殴った。本当に、もしかすれば人を殺してしまうかもしれない勢いで。そして、一方の篤史は何の構えもとらず、避けようとすらしなかった。
回避も防御していない。本当に、男の拳は百パーセントの力で直撃したのだ。
だというのに。
篤史は、何事もなかったかのようにその場に立っている。
「まぁ、ともあれ、これで一応証拠はとれた―――なぁ、委員長!」
言うと同時に、どこからともなく、我らが委員長こと、柊雪斗が現れたのだった。
「今の、ちゃんと撮れてるか?」
「無論だ。抜かりはない」
言いつつ、柊は自らのスマフォを見せてくる。
その画面は録画モードになっており、先ほどまでの状況はきちんと撮れているようだった。
「て、テメェどこから湧いて出やがった!!」
「ふん。そんなことなどどうでもいい。それよりも、自分の心配をしたらどうだ、早坂大河」
驚きの上に、さらに驚きが重なる。
リーダーの男―――早坂は自分の名前を一度も口にしていない。だというのに、フルネームで指摘されれば、誰だって驚くだろう。
「っ、な、何で俺の名前を……」
「俺は風紀委員をしている身でな。だからこそ、うちの生徒にちょっかいを出そうとする輩には目を光らせているんだよ。無論、名前だけじゃない。お前の生年月日から住所、今まで通っていた学校まで、一通りは調べてある」
と言いつつ、柊は全員に分かるよう、スマフォを前に突きつけた。
「今さっき、警察に連絡をした。もうじき、ここに来る。そうなったらどうなるか、流石に理解できるだろう?」
こういう時、警察に電話をする。それが最も常識的で、当たり前の自衛行動。
しかし、早坂はそんな柊の言葉を一切信用していない様子だった。
「ハッ、そんなはったりがきくとでも?」
「はったりかどうかはお前たちが勝手に決めればいい。ただ、どの道お前たちは終わりだがな。先ほどの暴力行為は、しっかりと録画させてもらった。そして、既に俺の知り合いたちに送信している。もしも俺達に何かあれば、それをネットにあげるよう、頼んだ上でな」
それが柊が用意した、もう一つの自衛手段。
自分たちを傷つけようものなら、相手の個人情報を公開する。このネット社会だ。少しでも個人情報が明るみに出れば、それは一瞬にして、世界へと拡散されてしまうだろう。
「へ、へへ……だからどうした? 俺らがネットの噂程度でビビるとでも思って……」
「馬鹿か貴様は。録画した動画をそのままあげるわけがないだろうが。お前達の個人情報、それを一緒に書き込んだ上で、だ……ああ、そんなことあり得ないと言いたげな顔だな。なら、その証拠に一つお前たちに教えてやろう。なぁ、早坂……お前、先週の土曜日、どこに行っていた?」
奇妙な問いに、その場にいる全員が、眉をひそめる。
が、ただ一人、早坂だけが、汗をだらだらとかきながら、口を開いた。
「な、なんで、そんなことを今聞くんだよ……」
「何も隠す必要などないだろう? それとも、そんなに知られたくないか? 自分がメイド喫茶に……」
「だぁぁぁああああああっ!!」
大声を出しながら、柊の言葉を遮ろうとする不良のリーダー。
そう。早坂は不良のリーダーだ。
しかし、そんな彼が、柊の言葉を信じるのなら、メイド喫茶に行っていたことになるのだが……。
「て、テメェ、何でそれを知ってるんだよ!!」
「言っただろう? お前たちには目をつけていた、と。そして、その弱点となる情報を仕入れることくらい、当たり前の話だ」
と、さも当然だと言わんばかりに、真面目な顔で答える柊だった。
「り、リーダー、あんた、そんなところに……」
「おいおい佐々木。人の趣味を馬鹿にするのはよくないな。お前だって、先月、美少女アニメの服を着こんでアニメ映画に……」
「ぎゃああああああああああああっ!!」
これまた大声を出しながら、柊の言葉を遮ろうとする不良Aこと佐々木。
「二人とも落ち着けって!! 相手のペースに飲まれるな!! あんな奴の言うことなんか……」
「信じるな、と? それは心外だな、海堂。だったら、俺の言っていることが本当だと教えるために、お前が三日前にナンパしたのが、実は男だったというのも……」
「いやぁぁああああああああっ!!」
そして、これまた大声を出しながら、柊の言葉を遮ろうとする不良Bこと海堂。
もはや、ここまでくれば疑いようがない。
柊は、ここにいる不良メンバー全員の個人情報を知っている。それも、不良として恥ずかしいレベルの代物を。
「り、リーダー、こいつやばいですって!! 俺達のこと、調べつくしてます……!!」
「も、もしかして、俺のことも……」
「当然、全員分だ。お前たちが『面子』に拘っていることは俺もよーく知ってる。そして、俺はその『面子』を台無しにする情報を全員分持っている。嘘だと思うのなら、好きにするがいい。明日には、そいつの『恥ずかしい情報』がネットに出回ってるだろうからな」
柊は理解していたのだろう。彼らが自分たちの暴力行為を世間に知らされたところで、何の恥も感じないことを。
だからこそ、彼らが最も恥ずべき事、つまりは不良らしからぬ行為こそが、何よりの弱点であることをよく分かっていたのだ。
「もしもそれをバラされたくなかったら、二度と俺達に手出しするな。今後、もしもお前たちが何かしたと分かったら、即座に情報解禁だ。分かったか!!」
怒号のような言葉。それを聞いた途端、不良たちは苦虫を噛んだような顔つきになりながら、背を向けた。
「く、くそがぁぁぁあああっ!!」
「ちくしょうぉぉぉぉおおお!!」
「覚えてやがれぇえええ!!」
そんな三下丸出しな台詞と共に、蜘蛛の子を散らすかの如く、不良メンバーは、去っていったのだった。
そして。
「なぁ佐山……俺、つくづく委員長を敵に回したくないなって思ったわ」
「俺もだ……」
口だけで不良を退散させた自分たちの委員長を見ながら、篤史と佐山はそんなことを呟いたのだった。
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