三十三話 何でも超能力と決めつけるのはよくない
とある喫茶店。
二人は互いに顔を見合わすように座りながら、今回の件について、話し合う。
ちなみに、超能力関係の話をするので、互いに脳内会議状態である。
『もう一度確認するが、つまりお前は一連の噂は、超能力者が関わっていると?』
『はい! だってそうじゃないとおかしいじゃないですか。噂の元が分からない上、聞き込みをしても、最終的に誰が最初に言ったのか分からない。加えて、最近のクラスメイトたちの奇妙な雰囲気。これは確実に、催眠や洗脳関係の超能力者の仕業に違いありません!』
堂々と断言する友里。
その言い分は確かに筋が通っている。クラスの現状は、はっきり言って異常だ。人は噂を好むものだし、それによって個人を貶すこともある。だが、それは本人がいない場所でやるようなこと。今のクラスメイト達のように、わざわざ本人の目の前でひそひそ話をしたり、佐山のようにつっかかったりするのは正直、おかしいと思うのが普通だ。
加えて、柊の報告や斎藤のクラスへの印象。それらから察するに、確かにおかしい、奇妙だと思う点は多い。
けれど。
『いや、正直なところ、その可能性は低いと思っている』
篤史は友里の推理をあっさりと否定した。
『ええっ!? なんでですかぁ!! ここは超能力者が犯人で、そこから始まる超能力バトル展開の始まりじゃないんですか!?』
『オーケー。とりあえず落ち着け。お前一体、どこから電波拾って来てるんだ?』
不満げかつ奇妙なテレパシーを送ってくる友里。
そんな彼女を諫めながら、篤史は説明を始める。
『白澤。俺の能力、覚えてるか?』
『え? 超能力者を匂いで判別できるってものでしょう?』
『そうだ。そして、俺はその能力で、あらかじめこの学校にどれだけ超能力者がいるのか、事前に調べてある。結果、うちの学校にいるのは三人。俺とお前、それから一年に一人だ。まぁ、不登校の奴とか、転入生とかは分からないが、それでもうちのクラスにいるのは、俺とお前だけだってのは確実だ』
超能力者は、良くも悪くも普通とは違う。故に、その存在を把握しておくことは重要なことだ。幸いにも、篤史の能力は超能力者を見つけ出すもの。だから、彼は自分の生活範囲内での超能力者が何人いるのか、常に察知しているのだ。
『柊の話を信じるなら、今回の件はウチのクラスから出回ったのは間違いない。なら、超能力者がいるとするのなら、ウチのクラスのはずだ』
『な、成程……私たちのクラスには超能力者は私と篤史さんしかいない。だから、超能力者の仕業ではない、ということですか』
『ま、あくまでその可能性が低いって話だけどな。絶対にそうじゃない、とも言いきれない。首謀者が学校外の奴で、クラスの誰かと共謀、あるいは操っている可能性もあるからな。けど、そんなことを言い出したら、キリがなくなっちまう』
もしも相手が複数人の共犯だったら? もしも相手が篤史の能力を知っていて超能力者の匂いを消す方法を知っていたら? もしも相手が既に篤史に催眠や洗脳をかけており、自分を超能力者ではないと認識させていたら?
そんなもの、行き過ぎた妄想だ、と切って捨てるのは簡単だ。だが、相手は超能力者である、ということもまたそんな妄想と同じくらい、可能性が低いことも事実である。
『この世には超能力者がいる。けど、だからって不思議なことを全部超能力で片付けちまうのは、あまりしたくない。一個ずつ可能性を消していって、最終的に残ったものが答えになる……親父が時々口にしてる言葉だ。ま、どうせあの人の言葉じゃなくて、どっかからパクってきたんだろうがな』
とは言え、現状からしてみれば、それがこの問題を解く方法の一番の近道。
何でもかんでも超能力だから、という理由で片付けるのではなく、まずは超能力ではない可能性から考えてみるべき。
そして、だ。
もしもこれが超能力者の仕業ではない場合、篤史には一つ、心当たりがあった。
『それに、俺もさっきの話を聞いて、ちょっと気になったことがあるんだ。だから、それを少し調べようと思う。何にしても、このままだとまた次の妙な噂が流れちまうかもしれない。いや、噂だけならまだいい。実害が出ちまえば、それこそ取り返しがつかなくなっちまう』
『実害って……まさか、篤史さんを襲うとか、そういうことですか?』
『さぁな。ただ、このまま噂だけで終わり、じゃあないのは確かだろ』
以前、柊が同じようなことを言っていた時、篤史はこれ以上最悪な状態にはならないと思っていた。だが、結果はこの有様。このままいけば、何が起こるか分からない。最悪、怪我人が出てしまうかもしれない。
それが篤史だけなら、まだいい。
だが、もし、もしも、だ。
傷つくのは篤史ではなく、別の誰か……例えば、目の前の少女だったりするかもしれないのだ。
ならば、このまま黙っているわけにもいかないだろう。
『とはいえ、今何かしら行動を起こせるわけじゃあない。とりあえず、お互い周りに注意して行動することだ。きっと俺とつるんでるお前も黒幕とやらに目を付けられている可能性は高いからな』
『そうですねぇ……でも、大丈夫ですっ。篤史さんと喋る時以外、特殊スキル「気配消失:ウルトラEX」を発動させてますので、きっと相手は私の行動を感知できていないかと!!』
『なぁ毎回言うけどそれ胸を張って言うことか? っていうか、もうそれ超能力の域に達してないか?』
彼女の場合、口だけではなく、実際他のクラスメイトと関わっているところを篤史はほとんど見たことがない。きっと、絶対に絡まれたくない、という強い意思のもと、彼女が研鑽を積んで編み出した特殊な方法があるのだろうが……何故だろう。それを素直に凄いと言えない篤史なのであった。
そんなこんなで、篤史たちは今後の方針も決まり、話し合いは終了。
そうして、篤史が友里の分まで会計を済ませて、喫茶店を後にした。
その時である。
ふと、自分のズボンの端が何かに引っ張られている気がした彼は、足元を見た。
そして。
「ひっぐ……お兄ちゃん?」
「…………はい?」
泣いている見知らぬ幼女に、お兄ちゃん認定された篤史なのであった。
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