三十一話 呼び出しくらったら不安になるよね
数日後。
篤史たちは、生徒指導室にやってきた。
いや、正確には呼び出しをくらった、というべきなのだが。
「おい白澤。お前、何やった」
『えっ、ちょ、何でいきなり容疑かけられるんですか私っ!? 何もしてませんよ!!』
「本当か? 前の小テストで滅茶苦茶悪い点とったとか、ゲーム持ち込んでいるのがバレたとか」
『ありませんって……まぁ、この前の漢字テストでは、ちょ~っとまずい点数をとりましたけど……』
「それだ」
『いやいやいやいや、決めつけはよくありませんよ、篤史さん!! 第一、それが原因だったら、篤史さん呼ばれる理由ないじゃないですか!!』
それはご尤も。
だが、それは逆に言えば、篤史の問題であったとしても、友里が呼ばれる理由はないともいえる。
だとするのなら、考えられるのは一つしかない。
「おう、お前ら待たせたな」
と、入ってきたのは二人を呼びつけた斎藤。
そして、眼鏡をかけた柊だった。
「委員長? どうしてお前もここに?」
「私が呼んだんだ。お前らに、こいつの報告を聞いてもらうためにな」
『報告?』
首を傾げると言わんばかりのテレパシー。友里の言葉に、篤史も同様の気持ちであった。
二人の前に座った斎藤が話を始める。
「聞いてるとは思うが、クラスでまた山上に関する妙な噂がたってる。で、その内容については、お前らも知ってるな?」
「はい。でも先生……っ」
「あー分かってる分かってる。あの噂が根も葉もないものだってことはな。私だって一教師だ。お前らがつるんでるのは、自分たちの意思だってことくらい、何となく分かってるつもりだ」
その言葉に、安堵する篤史。
事情を説明しているとはいえ、流石に教師にまで疑いの目を向けられては正直、たまったものではない。
「ただ……それをどうも他の教師陣も聞いたらしくてな。色々と言ってきたよ。オタクの生徒が、同じクラスメイトを脅してると聞いたが、いったいどうなってるんだ、ってな。ったく、いい大人が、噂を鵜呑みにすんなっての。まぁ、安心しろ。そいつらには私が一応、『喝』を入れといたから」
「……そ、そうですか……」
と、そこで不穏な言葉に疑問を抱いた友里がテレパシーを送ってくる。
『えーっと、篤史さん。この場合、どういう「喝」を入れたのかを聞くのは』
『やめとけ』
『ですよね~……』
と気になる点を敢えてスルーしながら、篤史たちは話の続きを聞く。
「それで、だ。また妙な噂を流してるってことで、委員長に頼んで色々と調べてもらったんだよ」
「以前も言ったが、俺はクラスのことなら、おおよそのことは理解しているつもりだからな」
確かに。
恐らく、この場にいる誰よりもクラスのことを把握しているのは柊だ。
しかし。
「それで、だ……ここからが妙な話なんだが……今回も、噂の元が全く特定できていないんだ」
「まぁ、それは普通なんじゃないか?」
以前も篤史は言ったが、噂というのは特定が難しいものだ。誰がどこから流したのか、それを判断するのは、流石の柊でも難しいことだろう。
が、柊は首を横に振りながら、篤史の言葉を否定する。
「いや。正確には、今回、噂を流したであろう人間は何人か見つけたんだ。だが……全員、自分がどこからその噂を聞いたのか、覚えていないんだ」
『えぇ……それってただ単にしらばっくれてるだけじゃ……』
篤史もそう思う。
自分が噂の元だと思われたくないからこそのデタラメであり、言い訳。普通なら、そう思うところだろう。
「おかしい、とは俺も思ったが、嘘をついているようには見えなかった。そして、全員が自分から言いふらしたんじゃなくて、誰かから聞いた覚えがある、とは言っていた。だが……」
「その誰かってのは、覚えていない、と」
「ああ。本人たちも不思議がっていた。けど、確かにおかしな部分はある。俺が調べただけでも、最終的にたどり着いたのは四人。だが、その四人にはクラスメイトという以外、一切の接点もない。そんな連中が、同じような噂を流している……これが偶然だとは、俺には思えない」
「つまり、委員長は誰か黒幕がいて、そいつを四人がかばっている、と?」
「多分そうなんだが……さっきも言ったように、その四人が嘘をついているとは思えなかった。本当に忘れているような、そんな感じがしたんだ」
柊は、あくまで四人の背後に誰かがいると考えているようだった。
その言葉に、斎藤もうなずく。
「私も最近のクラスの連中は、どうにもおかしな点が多いとは思っている。元々、噂好きなところがあったが、それでもそれを鵜呑みにして、個人をここまで追い立てるようなことはしていなかったはずだ。佐山とか、まさにそれだろ。あいつ、思い込みが激しいところはあったが、一方的に噂だけを信じて、誰かにつっかかるようなことは、してなかったはずだからな」
言われてみれば、その通り。
最近、つっかかってくる佐山であるが、元々はそんな性格ではなかったはずだ。クラスカースト上位にいると言われていた彼は、少なくとも、今よりはまだマシだったはず。
それが、篤史の噂が流れたとたん、今のようになってしまった。
いいや、佐山だけではない。もしかすれば、他のクラスの連中も、そうなのだろうか。
「ま、とはいえ、流石の私もこれ以上見過ごすわけにはいかない。朝礼とかの場で、さりげなく注意はしておく。で。ここからがちょーっと言いにくいんだが……」
口籠る斎藤。どうやら言いにくい内容だというのは、篤史も友里も理解できた。
けれども。
「校長がお前らとちょっと話がしたいって言ってんだけど、時間あるか? しかも、この後すぐ」
「……え?」
『……え?』
あまりの斜め上をいく斎藤の言葉に、二人は見事にシンクロした反応をみせたのだった。
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