二十六話 映画後の感想はひっそりと
『いやぁ……ホント、面白かったー。本当に何なんですかあの超王道展開。最高過ぎませんか。前回の映画で、ボロクソに負けて、心が折れた各ヒーローのその後を描いた上で、そこから這い上がる展開。王道中の王道なのに、クッソ胸アツ過ぎて、ホント涙出ましたよ』
『ああ、そうだな』
『でも、本当にすごいのはそこからで、今まで「リベンジマンズ」を支えていたサポートの女性陣の活躍によって、敵の弱点を見つけることができ、かつ崩壊しかけた地球を元通りにする方法もみつけちゃうだなんて……』
『ああ、あそこは「ああ、そういう方法か」って俺も思った』
『けど、やっぱり本当にすさまじかったのは、ラストの戦闘シーンですよね。今思い返せば、今回の映画、戦ってるのってほとんどラストの三十分だけなんですよねぇ。で、今まで「制限時間以上戦えば暴走する」っていう設定のせいで色々と不遇だったタイタンが、まさか皆のために、敵と一騎打ちの勝負に出て、ボロボロになりながら、敵の片腕と片目を潰してしまうところが、もう最高だのなんの』
『ああ。前回の戦いで、まっさきにやられたの、タイタンだったからな。あそこは鳥肌もんだったな』
『でもでも、本当にやばかったのは、その後のあれですよね! サンダーマンの雷とメタルの最強合金が合わさった雷の剣。それを使うマスターシールド! メンバーの中で、ただ一人、本当にただの人間であるマスターが、最強の敵に立ち向かう! これが人間の力だぁ!! ってセリフは、マジで燃えました』
『それ。ホント、マジでそれな。剣と盾って、戦う武器としては王道だが、だからこそ、この映画にぴったりだって思ったわ』
『けど、そのあまりに強すぎる力を、使ったせいで、マスターは……マスターは……マスタァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!』
雄たけびのような叫びに、しかし今回ばかりは、篤史も強く頷いていた。
現在、超絶なネタバレ祭りを、篤史たちはテレパシーでやりあっている。
いつもなら、篤史は口を開いて喋るが、今はそうもいかない。
ここは映画館の近くにあるファミレス。ここには、映画を観終えた人たちが、その帰りに、という理由から立ち寄っていくことが多い。だが、逆に、今から映画を観にいく人間もまた多い。だというのに、映画の感想やらネタバレを馬鹿みたいな大声で言い合うのはご法度でしかない。
だからこそ、彼らはこうして、テレパシーで感想を言い合っているのだ。
とはいえ、それが成立しているのは、篤史と友里の間だけ。
これを第三者の視点から見れば……。
「おい、何だあの二人……さっきから無言で頷いたり、ジェスチャーしあってるぞ」
「しかも、何というか、二人の間だけで会話が成立しているような……いや、口を開いてないんだから、会話っていうのはおかしな表現だが」
「まぁ、でも何というか……楽しそうなのは間違いないよな」
などという声も、白熱した感想会を開いている彼らには全く聞こえていない。
そうして、ごはんを食べつつ、テレパシー間で熱の入った感想を言い合う二人だったが、それも
『あ、そうだ。篤史さん、はいこれ』
と友里は唐突に、小さな袋を渡してくる。
その中身を見てみると。
『これは……「マスターシールド」の盾のキーホルダーじゃねぇか』
『篤史さん、「マスターシールド」がお気に入りでしたよね? さっきグッズ売り場で買っておきました』
確かにその通りだ。篤史は、メンバーの中で唯一、ただの人間でありながらリーダーをやっている『マスターシールド』が一番のお気に入りであり、だからこそ、今回の映画でも、涙を流しまくったわけなのだが……。
『どうしてこれを?』
『いやぁ、篤史さんにはお世話になりっぱなしでしたし。せめてものお礼です』
『そう、か……』
『え……もしかして、私の勘、外れました!? そんなバカな……篤史さんの反応を見て、どのキャラが一番のお気に入りかちゃんと判別したというのに……!! ハッ、もしや女性キャラの方が良かったとか!? 「リベンジマンズ」シリーズ一の巨乳である、サポート兼マスターの妹であるサラの方が良かったとか……』
『いや、俺はマスターが一番好きなキャラだというのは間違ってないから安心しろ。そして、妙な勘繰りをするな阿呆』
変な方向に勘違いをしそうになっていた友里に待ったをかける篤史。
彼が戸惑っていたのは、好きなキャラじゃないかどうか、などということではない。
単純に、そう単純に、同世代の女子からのプレゼントが初めてだったからだ。
元々、友人が少ない篤史からすれば、同世代からプレゼントをもらうこと自体が、珍しいこと。ましてや、それが友里のような美少女ともなれば、人生初だ。
だからこそ、少々戸惑いを隠しきれずにいたわけなのだが。
……いや、この際だ。はっきりと言おう。
彼はこの時、友人からのプレゼントを、嬉しく思ったのだ。
そしてだからこそ。
「……ありがとよ」
ちゃんと、その言葉を口にして、伝えたのだった。
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