二十四話 時間は確認しましょう。いやマジで
「いや~、ホントびっくりだよ。まさか、あっくんの朝チュンシーンを見ることになるとは」
「おいこらその言葉は色んな意味で違うし、聞き方によっては誤解されるだろうが」
「えー、いや、だってあの状況はどう見ても、事後……ぁああ痛たたたたたっ!?」
「お前は本当に学習しないな」
翼に思いっきりアイアンクローをかけながらそんな言葉を呟く篤史。
いや、まぁ確かにあの状況を見れば、そう勘繰るのも無理はないのかもしれない。
「ったく……そういうお前は、朝からなんでうちに来てんだよ」
「えっとね、久しぶりに休暇が取れたから、あっくんとどこか遊びにでも行こうかなって思ってたんだけど……先約がいるなら、仕方ないかー、仕方ないよねー、うん」
「おい。何でにやついてんだよ」
「んー? べっつにー」
などと言いつつ、含み笑いをする翼。
それがどういう意味でのものなのかは理解できなかったが、ちょっとむかついたので、篤史はもう一度アイアンクローをかけることにした。
そして、翼が苦悶している最中、支度をし終えた友里がリビングにやってくる。
『あ、篤史さーん! 準備できました!』
『おう』
『にしても、篤史さんは心配性ですねぇ。もう出発しようだなんて』
『そりゃそうだろ。何かの拍子で、映画に間に合わなくなるかもしれないからな』
『ハハハッ。何を言います、篤史さん。映画は十時半から。そして、今は九時。ここからバスを使って三十分かかるとしても、十分に間に合うじゃあないですか』
などと、余裕たっぷりな言葉をテレパシーで送ってくる友里。
……何故だろう。今一瞬、物凄い悪寒が背中に走ったのは。
「そういえばあっくん。映画って何時から?」
「十時半からだ」
「え、それって大丈夫なの?」
「? 何がだ」
「だって、もう今十時だよ?」
「……え?」
『……え?」
翼の言葉で、一瞬頭が真っ白になる篤史と友里。
そして、これまた同時に二人はリビングの時計に視線を向ける。
『いや、だってあの時計は……』
「……そうだった。あの時計、一時間くらい遅れてるんだった……」
金曜日からずっと映画ばかりを見ていた篤史は、リビングの時計の時間を直すことをすっかり忘れてしまっていた。
加えて、家の中であるため、わざわざスマフォで時間を確認することもなかった。
それらの要因が重なった結果が、これである。
『ぎゃああああああああああああっ!!』
刹那。
奇声のような絶叫が、篤史の頭に響き渡ったのだった。
*
結論から言うと、篤史たちは何とか映画の上映時間には間に合った。
『いや~、何とか間に合いましたね。まさか、翼さんのマネージャーさんが車を出してくれるなんて』
どうやら翼のマネージャーが車で待機しており、その車でここまで送って貰ったのだ。
そもそも、翼はマネージャーに車を出してもらい、篤史とどこかへ遊びに行く予定だったらしい。まさに、翼さまさまである。
「悪い。今回のは、完全に俺のミスだわ」
『いいですって。結局間に合ったんですから。それより、さぁ、早く買いに行きましょう!!』
「? 買うって何をだ? チケットならもうあるだろ」
『え、やだなぁ、篤史さん。決まってるじゃないですか。映画と言えば、ポップコーンとジュースですよ!! その二つがなきゃ、映画を観てるとはいえませんからね!!』
映画館でのポップコーンとジュース。確かに、それは定番だ。
しかし、世間一般では、の話だが。
「あー……個人的には、あんまり映画で飲み食いはしたくないんだがな」
『え? いやいや、昨日とか普通にお菓子食べながら見てたじゃないですか』
「そりゃ、家だからだよ。ジュース飲んで、菓子食って、最終決戦って時にトイレに行きたくなったら、それこそ目も当てられないだろ?」
『む、むぅ。それは一理ありますね』
「特に、この最終作、全シリーズの中でも一番長い上映時間だって聞いたしな」
『そ、そうですね。それを考えれば、ポップコーンとかジュースは控えておいた方がいいですね……』
と、明らかに元気がなくなった友里。
無論、表情に一切の変化はない。だが、その心根が聞こえてしまう篤史は、微笑しながら、言葉を続ける。
「……とはいえ、だ。それだけの長時間、何も飲み食いしないってのもストレスがたまるかもしれないからな。だから、一応買っといて、食べすぎたり飲みすぎたりしないようにすればいいだけか」
『っ!? それじゃあ……』
「ま、あんまり買いすぎないようにしないとな。さっきの詫びだ。俺が買ってくる。何がいい?」
『じゃあ、ポップコーンはバター醤油味、それからジュースはコーラで!!』
「定番だな。分かった。ちょっと待ってろ」
そう言って、篤史は一人、ポップコーンとジュースを買いにいった。
上映時間前ということもあって、売店は少し混雑していた。しかし、かなりの行列、というわけではなく、数分待てば自分の番が回ってくる程度のもの。
ゆえに、篤史はその点については、問題視していなかった。
そう、その点に関しては。
「っと、すみません」
混雑していたせいか、後ろに並んでいる客にぶつかってしまう。
「いえ、こちらこそ……ん? お前、山上か?」
その瞬間、聞き覚えのある声に、思わず篤史は振り返る。
そして。
「ちょ、お前―――柊、か?」
そこにいたのは。
『リベンジマンズ』グッズに身を包んだ、柊雪斗であった。
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