二十三話 連続徹夜は流石にキツイです
※皆さん、徹夜は本当に危険ですから気を付けましょう。(一昨日徹夜した上で言ってます)
現在の時刻、土曜午後八時。
篤史と友里は、目の下にクマができた状態で、テレビに映るエンドロール画面を見ていた。
『くふ、くふふ……どうですか、篤史さん……全てを観た感想は……』
「…………眠い」
『いやいや……あの超大作十本を観た最初の感想が、それはないでしょうに……』
「事実なんだから、仕方ないだろうが……」
篤史とて、色々と感想を言いたい。
簡潔に言えば、超絶面白かった。最初はよくあるヒーロー物の映画だな、と思っていたが、シリーズが重なるにつれ、本来は出会うはずがなかったであろうヒーローたちが交差し、そこから新たな物語が作られる。
山のような伏線。胸アツなストーリー展開。そしてド迫力の戦闘シーン。
正直、これを映画館で観れなかったのが、とても悔やまれる。そして同時に、早く最終作とやらを観たいとも思っていた。
だが、しかし。
そんな思いすら上書きするほどの眠気に、篤史は襲われていたのだった。
いや、それは篤史だけではない。
「っていうか、そういうお前も、眠そうに、してるじゃねぇか……」
『何を、仰る……私は、まだまだいけますよぉ~……ちょっと十秒に一回、意識が飛んでいるだけで……ぐがー……はっ、危ない危ない……』
「早速寝てんじゃねぇか」
無理もない。何せ、本当に二十時間ぶっ続けて、自分たちはこのシリーズを観たのだから。
無論、食事をしたり、風呂に入ったりはしている。が、それ故に睡眠時間は一切とっていないのだ。
おかげで、先ほどまで映画にしっかり集中していたせいか、それが切れたとたん、意識が朦朧とした状態になっている。
「っつか、よくここまでやるよな。自分も一緒に観るなんて。俺に全部貸してそれで終わりでよかっただろう」
『いえ、私の我儘に篤史さんを付きあわせているんです。なら、私も一緒に徹夜するのが、筋というものでしょう?』
「我儘という自覚はあったんだな……」
自覚がありつつ、この有様。
何というか、本当にどこまでも馬鹿なのだな、と改めて再認識した篤史であった。
『それに……これは、もう言いましたが、私、このシリーズをずっと観てきましたから。それを共有できる友達っていうのは、篤史さんが初めてなんです……いえ。もっと言うのなら、オタク友達といえるのは、篤史さんしかいませんから』
「……、」
『だから嬉しいんです……誰かと、自分の好きな映画を観に行くなんて……なので、ちゃんと、この映画の……面白さを、伝えたかったんです……』
その言葉に、篤史は思わず、言葉を失う。
篤史さんしかいない……そんな、単純な言葉に、しかしどこか嬉しいと思う自分がいた。
ゆえに、こちらも少し、口が軽くなってしまう。
「そうかよ……そりゃ、奇遇だな。俺もだわ」
『え?』
「俺、こんななりだからな。昔から、友達作るの下手でなぁ……今の噂がなくても、きっとクラスじゃ孤立してただろうよ」
それは自虐というわけではなく、厳然たる事実。
小・中学校、そして高校に入ってからも、彼には友達と呼べる存在がいなかった。元々、彼自身も人付き合いが苦手であり、喋ることも得意ではなかった。加えて、顔に傷がある強面。人を外見で判断するな、とはよく言うが、しかし、人間第一印象が相手との接触ともいわれている。そう考えると、篤史は最悪な部類だと言えるし、だからこそ、自分が周りに馴染めないのも納得していた。
けれども。
そんな篤史の考えを、友里は真っ向から否定したのだった。
『まさかぁ。篤史さんに限って、それはないんじゃないですか?』
「はぁ? 何でだよ」
『だって、篤史さん。何だかんだで付き合いいいし、何だかんだで構ってくれるし、何だかんだで頼み込めばなんでも協力してくれるし……まさに、何だかんだの極みですね』
「おいこら、それ褒めてんのか、けなしてんのか」
『褒めてるんですよー……自分と一緒になって、何かをしてくれる……そういう人と友達になれるって、私が思うに滅茶苦茶幸運だなって思えるので……』
それは確かに、そうかもしれない、と篤史も思う。
今まで一人でやっていたことを、他の人間とする。
たった一人、人数が増えるだけで、世界が変わって見えるのだ。
『そういうわけで、篤史さん。明日の映画、楽しみま……ぐがー……』
「だから……テレパシー飛ばしながら、寝るんじゃねぇよ……」
言いながら、篤史は気力を絞って、掛け布団を取りに行き、そのまま友里にかけた。
そして自らは、リビングの床に寝そべる。
(流石に連続徹夜はキツイな……)
最早、今の彼に友里をベッドに運ぶ気力は無論、自分のベッドに行く力さえ残っていなかった。
正直、かなり疲れたのは事実だ。
しかし、だ。
(なんでだろうな……今、俺、めっちゃ楽しいと思えてる……)
そんなことを思いつつ、彼は瞼を閉じたのだった。
翌朝。
「ええと……これは一体全体、どういう状況なんだろう……」
篤史の家にやってきた翼が見た光景。
それは、リビングで大の字になりながら、ぐったり寝ている篤史と、そんな彼のお腹を枕にしながら寝息をたてている友里の姿だった。
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