二十二話 シリーズものって一気にみたいよね
『はぁー、ないわー、ほんとないわー。篤史さんが、まさか『リベンジマンズ』シリーズを一つも見たことがないなんて……それでも貴方はオタクですか? 男ですか? 人間ですか?』
「おいこら何で映画観てないだけで、そこまで言われなきゃならん」
確かに、『リベンジマンズ』シリーズはかなり有名な映画作品だ。
元々、海外の複数のヒーロー映画が協力し、世界観を共有とした映画群。数々の記録を更新しており、それこそ世界各地で人気を博し、多くのファンがいる。
だが、それを知らないというだけで、ここまで言われるとは予想外であった。
『まぁ安心してください。そんな篤史さんのために、今日私はここに来たのですから!』
そう。今、友里は篤史の家にやってきていた。
正確には、一度家には帰っている。そのため、服も着替えている状態だ。
何故、一度家に帰ったのか。それは、あるものを取りに帰っていたから。
その取りに帰っていたものというのが。
『「リベンジマンズ」の今までの全シリーズを持ってきました! 「サンダーマン」や「マイメタル」、「ブレイジング・タイタン」、「マスターシールド」、最初期の四つは無論、その後の全シリーズを取り揃えています!!』
どっさりと机の上に並べられるブルーレイディスク。
その数おおよそ、十本。
「……なぁ本当にこれ、全部観る気か?」
『当たり前じゃないですか!! この全てを見なきゃ、「リベンジマンズ」の最終作なんて観に行けません!! 大丈夫、安心してください!! 見る順番から人間関係まで、分からないところは全部、私が説明しますので!!』
「いや、説明しますって……っつか、もう夜だぞ?」
『問題ありません! 私の親には既に連絡してあります! 友達の家に泊まりに行くと言ったら、泣きながら速攻で許可が出ました!!』
「おいおい娘を男の家で泊まるのを許可する親がいていいのか……いやちょっと待て。白澤。ひょっとして、お前、男の家に行くって言ってないんじゃないか?」
『そんなことはどうでもいいんです!!』
「なるほど。その態度でなんとなく、理解はした」
どうやら友里の親も自分の娘に友達ができたことに喜び、何も言わず外泊を認めたらしい。
それがよもや、男の家などとは、ついぞ思っていないだろうが。
本来ならば、誰の家に行くのかとか、そういうことを聞くものだが、あまりにも交友関係が少ない娘がお泊りすることに嬉しくおもったせいか、それすら忘れた……といったところか。
とはいえ、友里のこの行動が異常であることには変わりないが。
「っつか、お前さぁ。男の家に来るだけじゃなくて、泊まりにくるとか、どんな神経してんだよ」
『しょうがないじゃないですか!! チケットの日付は明後日の日曜日なんです。今日明日で観なければ、どうするというんです!!』
「どうもしねぇよ。ってか、お前ホントそういうところ直せよ。テンションが高くなって感覚がおかしくなっているのか知らないが、ちょっと本気で心配するわ、いやマジで」
一緒に映画を見てもらうために、ここまでするとは。
そして、思う。
だから何故、それだけの行動力を常日頃の学校生活で使わないのか、と。
「っていうか、こんな本数、今から全部観れると思うのか?」
『大丈夫です。明日は土曜日。つまり学校は休みでしょう?』
「何気にさらっと俺の土曜日の予定を潰すな」
映画十本。これを一つ二時間と考えて、単純計算をすれば、おおよそ二十時間。
金曜の夜と、土曜日丸まる使うとしても、かなりギリギリだろう。
つまり、篤史は土曜日の予定を全てこの映画を観ることに費やせ、と言われるのだ。
『頼みます!! 私、今まで一人でずっとこのシリーズを見てきました。けど、ようやく、よーやく誰かと一緒になって映画を見に行くことができるんです!! そのためには、ちゃんとした知識を感動を興奮を!! 感じてほしいと思っているんです!! ですから、どうか、後生ですから……!!』
などと頼み込んでくる友里。
その顔はいつも通りの無表情。
だが、その心の中は本気の本気であることは、間違いなかった。
正直なところ、篤史は映画が嫌いではない。いいや、むしろ好きな部類だ。
しかし、それは通常の場合。今の彼は徹夜明けの状態だ。そんな状態で、今から十本もの映画を観るなど、不可能だ。徹夜、とまではいかなくても、全て観終わるまでロクに寝れないのは確か。きっとまともに見ることすらできないだろう。
そして。
それらを考慮した上で、篤史は大きなため息を吐いた。
「……はぁ。また徹夜か」
『っ、ということは……!!』
「そら、さっさと準備しろ。あと、途中で寝ても文句いうなよ」
『オッケーです! その時は、私が目つぶしで叩き起こしますから!!』
「うん。起こすのはいいけど、目つぶしは勘弁な」
そういいながら、二人は映画鑑賞を始めたのだった。
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