二十話 好きなものを語ると、大体長くなる。
「―――というわけで、部長の作品は相変わらずアンチ要素強すぎです。いや、言いたいことは滅茶苦茶分かります。転生物とか俺tuee物がわんさか流行ってて、それにモノ申したい気持ちは十分に理解できます。加えて、それが物語にマッチにしているのですから、その点については問題ないかと思います。けど、あまりに内容がニッチすぎます。そういう転生物の主人公や俺tuee物の主人公をボコボコにするっていうのは、一部のネット小説を読んでいる人にしか伝わりませんし。そういう層を狙っている、というのも理解できますが、その人数はあまりにも少ないと思います。まぁ私もその少ない人数の内の一人なので、個人的にはすごく楽しかったのですが、それはそれ。客観的に見れば、もう少しニーズにあったものを書くべきでしょう」
「それから、ヒロインをおざなりにする悪い癖が出てます。主人公の思いや活躍を前面に出すのはオッケーです。感情移入もできます。けど、だからこそヒロインが重要になってくるんですよ。戦ってボロボロになった主人公を支えるヒロイン。そんな彼女たちをもっと魅力的に描くことが大切なんです。まぁ、何をしても主人公素敵、最高、惚れたわっ! みたいなお人形さんにはなってはいませんが、逆に特徴がそこまでないので、どうしても記憶に残りにくいんです。読者は主人公も勿論ですが、ヒロインも見てるんです。彼女たちの可愛いところ、かっこいいところ、そしてちょっとエッチなところ、どんな部分でもいいので、もっと尖らせましょう」
「加えて言うなら、主人公とヒロインが結ばれる話とか、もう少し書いてもいいんじゃないですか? 部長の話、主人公とヒロインが結ばれる物語じゃなくて、誰かを好きなヒロインを全力で応援する主人公の物語っていう確率がものすごく高いですし。いや、そういうのもいいですよ? 悪くないどころか、私的には好きですし。特にこの『秘密の恋の守り方』は、そういうのをテーマにしてましたから、ぐっと来ました。ある日ヒロインと担任の秘密の関係を知った主人公が、彼女たちの幸せのために孤軍奮闘する。不器用な男の姿に、私はとても感情移入できました」
「けれど、けれどです。読者はあくまで、主人公とヒロインのイチャイチャ、そしてラブラブな姿を見てみたいんです。なのに、最終的にはヒロインが別の男とくっついちゃうと、どーしても納得できない層がいるんです。何せ、主人公は読者のアバターですからね。恋人が他の男の方へ行けば、誰だって怒りますし、腹もたちます。ですので、純粋に、主人公とヒロインが最終的にちゃんと結ばれる話も一本書いてみてもいいんじゃないですか? というか、私はそういう話が読んでみたいです。あ、あとちなみに―――」
次々と自分の口で感想や批評を言う友里。
その姿は、いつもの彼女からは想像できないものだった。というより、篤史は初めて、彼女がちゃんと喋っている姿を見た気がする。
「……ホント、自分の好きなジャンルになると、饒舌になるのな」
その気持ちは分からないでもないが、しかし彼女の場合は、度が過ぎていると言っても過言ではない。普段とのギャップの差が激しすぎるのだ。
「大丈夫なんですか、アレ止めなくて」
「ええ。大丈夫よ。彼女のアレはいつものことだから。問題ないわ」
「いつもなんすか……」
何をやっているんだ、残念美少女。
そんなんだから、篤史みたいなのが友達になっただけで、先輩たちにうれし涙を流されるんだぞ。
「さて。あっちはあっちで盛り上がってるようだし、こっちはこっちで感想を聞いてもいいかしら?」
「え? その……いいんですか、自分で」
「あら? どうしてそう思うの?」
「いや、だって、その……鶴見先輩の書いたのって、女性向けのものですよね? なのに、男の俺が意見しても大丈夫なんですか?」
「勿論。確かに、私は女性向けのものを書いているけど、男の人でも読めるようなものを作っているつもりよ。その上で、一読者としての意見を聞きたいの」
「そうっすか、なら」
そう言って、篤史は読んで思ったままのことを語っていく。
鶴見の話は全て恋愛小説。中には、吸血鬼なども出てくるが、恋愛が中心であることには変わりない。
本来、篤史は恋愛小説はあまり読まない。特に、女性主人公のものは。
けれど、そんな篤史でさえ、鶴見の小説はのめりこむことができたのだった。
「―――で、総括をしては、先輩の小説はもう少し、明るさとか入れてみてもいいんじゃないかと。全体的に少し暗いイメージがあるので」
「うーん、そうね。じゃあ、次はそこを考えながら書いてみるわ」
篤史の批評を聞いた後、鶴見はそんなことを言いつつ、笑みを浮かべた。
「それにしても、良かった」
「? 何がですか」
「君のような人が白澤さんの友達になってくれたことよ。彼女、ここでも感想を言い合う時以外、ほとんど無口だから、友達がいないのは分かってたから」
それはそうだろう。
友里と少しでも付き合いができれば、彼女の残念さはすぐに分かってしまう。そして同時に、彼女に友人と呼べる存在がいないことも。
特に、部活の先輩ともなれば、嫌でも分かってしまうのだろう。
「色々と変わってる子だけど、これからもどうか、よろしくね」
「はい、勿論です」
篤史とて、友人は少ない。だからこそ、折角できた友達は、大切にしたいと考えている。それこそ、遠慮せずに話し合える相手など、そうそういないはずだ。
だから、どれだけ残念であろうと、篤史にとって白澤友里は大事な友人であり、これからもそれは変わらないのだろう、と思っているのだから。
「―――というわけで、ここはもっと可愛く、そしてエロくいきましょう! 中途半端な羞恥ではいけません。女の子が戸惑っている姿を描くなら、大胆さこそが重要なんですから!」
……訂正。
やっぱり少し、考え直そうかと思い始めた篤史であった。
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