十八話 ラノベは一日十冊読むべし(無理です)
それは、いつも通り、昼休みにゲームをしている時だった。
「感想会?」
『そうです。月に一度、私が部員のラノベを読んで感想を言う日です』
そういえば、そんな説明もあったような気がする。
確か、他の部員たちは自分の家でラノベを書いており、一か月に一回、その感想を言うのが白澤の仕事である、と。
しかし、そこでふと、ある一つの疑念が生まれた。
「ちょっと待て。感想を、『言う』、だと……? お前が?」
『ええ、そうですけど……何ですか、その反応は』
「…………大丈夫なのか?」
『いや何ですか今の間は。どういう意味での心配ですかね?』
どういうも何も、篤史は友里が感想を口にして喋る姿を想像できなかった。
しかし、彼女の口ぶりでは、これまでも同じようなことを月一でしてきたようだった。そのため、ちゃんと感想会とやらはされているのだろうが……未だに信じられない。
『それで、部長に篤史さんのことも話したら、是非、篤史さんの感想も欲しいとのことで』
「話したのか、俺のこと」
『え? あ、もしかして、まずかったですか?』
「いや、俺は別に構わなないが……あー、その、何だ。部長さん。何か文句言ってなかったか? 勝手に人様の部室に入り浸って、とか」
『いえいえ。うちの部長は人間がよくできているので、そんなことなんて言いませんよ。ただ……何故か篤史さんは私の友達ですと言ったら、ちょっと涙を流して喜んでいたんですけど……あれは一体何だったんでしょうか』
「……さぁな」
どうやら同好会の部長も友里の残念さは理解しているようだった。
と、そこでふと篤史は思う。
「ここの部員は、お前の超能力のこと、知ってんのか?」
『そこは安心してください。私の能力のこと知ってるの、学校では篤史さんだけですから!』
「どこをどう安心すればいいのかさっぱり分からん」
とはいえ、どうやら部員にも能力は秘密というのは嘘ではないのだろう。
そもそも、超能力などというのは、ひけらかすものではない。
人間、自分とかけ離れた存在を毛嫌いする傾向がある。超能力など、その良い的だ。信じる信じないにかかわらず、バレれば高確率でロクなことにはならない。
篤史の場合、そもそも他人に話しても信じてもらえないがゆえに喋らなかったし、バレもしなかったが。
『それで、篤史さん。どうです? やってくれますか?』
その問いに、篤史は即答しない。
普通なら、ここは突っぱねるところだろう。自分は部員ではないのだから、と。
だがしかし、逆に絶対に嫌だ、という理由も存在していなかった。
篤史もラノベは多少好きではあるし、故にラノベ研究同好会とやらが作ったラノベに興味がないわけではなかった。
それに何より。
「……まぁ、そうだな。いつも部室使わせてもらっている身だし。それくらいなら」
この部室を昼休みに使わせてもらっている。それだけで、同好会の活動を手伝う理由は十分だろう。
『分かりました! では!!』
次の瞬間。
篤史の前に、どっさりと紙の山が積まれた。
「……おい。こりゃ一体何だ」
『何って、原稿ですよ、原稿。十作品分の』
「……確か、ここの部員ってかなり少ないんじゃなかったか?」
『はい。私と部長と、副部長くらいですから。で、どうやら二人とも、今月は滅茶苦茶張り切りすぎちゃったらしくて』
「張り切りすぎたって……この量を二人で書いたっていうのか!? しかも、これ手書きじゃねぇか。今時、普通はパソコンで書くもんじゃねぇのか?」
『いや~、うちの部長と副部長、手書きで書くことに拘ってまして。あ、ちなみに十作のうち、部長が七作品で、副部長が三作品です』
「化け物かよ……」
ラノベを書いたことすらない篤史でも、一作品をひと月で書くことがかなり無茶であることは知っている。
それを三つ? 七つ? しかも手書きで?
最早、人間をやめてるんじゃないか、とさえ思う。
そして、だからこそ、逆に興味も沸いたのだった。
「……はぁ。分かった。で? いつまでに読めばいいんだ?」
『明後日です』
「おいコラ待てや残念妖精。テメェ、そういう大事なことを何で直前になって言うんだ、あぁ?」
『い、いやぁ~、私、追試とかあったじゃないですか。それですっかり忘れてて。でも、大丈夫ですよ。ラノベを十冊読むんなら、二日あれば十分じゃあないですか』
「それはどの程度で十分なんだよ……」
篤史もラノベは読むが、普通、一冊に数日はかかるもの。それを二日で十冊も読むなんてことは、ほぼ不可能と言っていい。
とはいえ、だ。一度は分かったと言ってしまった以上、今更投げ出すのは、それはそれとして筋が通らない話だ。
「……仕方ない。とりあえず、読める分だけ読んでみる。それでいいな?」
『はいっ、ありがとうございます! きっと部長たちも喜んでくれますよ』
無表情のまま、しかし心の声だけはどこまでも元気な友里。
そんな彼女の言葉に、篤史はやれやれと思いながら、溜息を吐くのであった。
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