表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/132

十六話 オタクってスイッチ入ると熱いよね

 食事も終わったことで、友里は帰宅することになった。

 そんな彼女を見て、翼は篤史に耳打ちする。


「(ほら、あっくん。送ってってあげなよ。いいとこ見せて、点数稼ぎしとかなきゃ)」

「(点数がどういう意味かは知らんが、お前が何か勘違いをしているのはよく分かった)」


 とはいえ、女の夜道の一人歩きが危ないことは、篤史も重々承知している。ゆえに、途中まで送っていくという話になった。

 そんなこんなで現在。

 篤史と友里は、夜道を二人っきりで歩いていたのだった。


『篤史さん、今日はありがとうございました』

「ん? ああ。こっちこそ、途中から翼が来て、悪かったな。お前、初対面の奴とか苦手なのに」

『いえいえ。確かに緊張はしましたけど、相手が翼君なら全然オッケーです。むしろ、バッチコーイです! あの可愛い系のイケメンがご飯を食べている姿を見れただけで、満足です……!!』

「その割には、あんまし喋ってなかったように思えるが」

『え? 何言ってるんですか篤史さん。私なんかが翼君と喋るとか論外ですよ。アイドルですよ、アイドル。そんな太陽のような存在に、私如き陰キャオタクが喋るなんてもっての他。本来なら彼の視界に入ることすら畏れ多いというのに』

「うん。俺は、そのお前の変なテンションが、時々よく分からなくなる」


 というか、篤史が説明するまで、翼がアイドルかつ『ステップ』のメンバーであることすら認識していなかっただろうに。

 ……いや、まぁまさかテレビに出ているアイドルが、目の前に現れるなんて誰も思いもしないか。

 と、そこでふと、篤史は一つの疑問に至った。


「ってか、翼に関してはあんまり悪口言わないのな。陽キャがどうのこうのっていつも言ってるくせに」

『いやいやいやいや、あんな連中と彼を一緒にしちゃダメですよ……!! アイドルとは即ち、三次元の光であり、希望!! 私は二次元とか特撮に特化したオタクですが、しかしドルオタと呼ばれる方々の趣味趣向も理解できます。アイドルとは、つまるところ、三次元での二次元なのですから!!』

「よーし落ち着け。そして頭を冷やせ。どんどん言葉がカオスになってるぞ。っつか、三次元の二次元ってなんだ。意味が分からん」


 いつもは無表情の友里ではあるが、そっち方面の話になると、微妙にではあるが、その表情に変化がある。

 具体的には、口の端が上がり、目にキラキラとした光が宿るのだ。


『そして、何より可愛いですし!!』

「結局そこか……」

『え? 何言ってるんですか、篤史さん。可愛いは正義。そして、可愛いものを守るために、人は世界の一つや二つ、救えるんですよ?』

「いや、無理だろ」

『いやできますって! 人間、諦めなければ、いつかきっと夢を叶えちゃう生き物ものなんですから!!』

「それだけの自信があって、お前はどうして人前でまともに喋れないんだ……」


 本当に、どこまでも残念な友人に、篤史は思わずため息を吐いた。

 しかし、篤史はそこで何かを思い出したかのような口調で、言葉を続ける。


「あー……その、白澤。くどいようだが、さっきの件は……」

『大丈夫ですって。言ったじゃないですか。私、何かを言いふらせるほど、友達いないって。だから安心してください』

「ああ。悪いな……っと、それからもう一つ頼みがあるんだが……学校での俺の立場のこと、翼には言わないでやってくれ」

『成程。先ほどの話の流れから察していましたが、やっぱり知らないんですね、翼君』

「知ったら絶対あいつ、仕事に支障をきたすからな。今日だって、仕事帰りに俺のところに寄ってただろ? 自分の方がクソ忙しいってのによ。だから、これ以上、あいつに世話かけさせたくないんだ」


 翼が最初のきっかけだったのは確かだ。

 しかし、喧嘩を売られたのは篤史であり、それを買ったのも篤史。故に、彼が病院送りになったのも、学校の立場のことも、自分が勝手に決めたことの結果。

 学校でのことを胸糞悪いと思いつつ、しかし現状を受け入れているのは、自分で選んだことのため。

 だからこそ、翼に余計なものを背負ってほしくはないのだ。


『ふふ』

「ん? なんだよ」

『いえ。篤史さんって何だかんだ、心配性で面倒みがいいなぁと。私の時もそうでしたけど、翼君への態度とか見て、改めてそう思ったもので』

「……うるせぇ。人を心配性だの言う暇があったら、次の追試、ちゃんと合格してみせろ」

『はーい』


 友里はそんな言葉を送ると、篤史の前へと行き、振り向く。

 そして。


「それじゃあ、篤史さん。また明日」


 そこで友里はテレパシーではなく、言葉で直接伝えてきたので、思わず篤史は目を丸くさせた。

 しかも。

 そんな彼の姿を見て、友里が少しだけ笑みを見せたように思えたので。

 篤史は結局、何も言えず、ただ去っていくその後ろ姿を見るほかなかった。


 ちなみに。

 友里は篤史が勉強を教えたかいもあり、見事に追試を乗り切ったのだった。

最新話投稿です!


面白い・続きが読みたいと思った方は、恐れ入りますが、感想・評価の方、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ちゃんと話せるのですか!?(待って)
[一言] てぇてぇ
[一言] あれ、追試中にヘルプを出すやり取りは?w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ