十三話 『いとこ』の漢字って一杯あるよね
『あっ、そうだ。篤史さん。そろそろ聞こうと思ってたんですけど、あの噂の真相って一体なんなんですか?』
唐突な質問。
けれど、同時に予想もできた問いでもあった。友里とは、それなりに距離も近づいたと篤史も理解している。だから、噂の真偽についても聞かれるであろうことは想定済み。
ゆえに、既に答えも用意してあった。
「それは言えん」
『えー、何でですかー? 私ってそんなに信用ないんです? もう一緒に色々とした仲じゃないですか』
「変な誤解を招く言い方をするな。あと、お前とやったことと言えば、ゲームをしたり、一緒に昼ご飯食べたり、買い物いったり、こうして勉強をしてるくらいだろうが」
『いや、それ結構色々としてますよね?』
「……まぁ、そうだな、うん」
……指摘されたように、確かにそうかもしれない。
『よし。ならば、こうしましょう。私が篤史さんにゲームで勝てたら、噂の真実を教えてください。そうです。そうしましょう。では、早速ゲームの準備を……』
「と言いつつ、勉強を中断させようとする魂胆は丸わかりだぞ、阿呆」
『チッ……貴方のような勘のいい人は嫌いですよ』
「そりゃどうも」
などと、こんなことを言いあえる時点で、篤史と友里は、もう友人と言える仲だろう。それは肯定するし、良いことだと素直に思う。
だが、それでもこの件については別なのだ。
などと、考えている篤史を見て、友里はどこか所在なさげな表情を浮かべていた。
『あー……その、すみません。本当に言いたくないなら、別にいいですよ?』
「……悪い。お前のことが信じられないとか、そういうことじゃないんだ。ただ、あれは……俺個人だけのことじゃないからな。下手に喋って『あいつ』に迷惑はかけたくないんだよ」
『あいつ……?』
と、友里がテレパシーを送ってきた時、ふと玄関が開いた音がした。
両親が帰ってきたのか……と思った篤史だったが、二人が出張したのは三日前。おおよそ一か月は帰ってこないという話であることを思い出し、自分の予想が違うと理解する。
「あっくーん、いるー?」
聞き覚えのある声。それによって、誰がやってきたのか、篤史は瞬時に分かった。
そして、リビングへとやってきたその人物は、篤史の想像通りであった。
「あっ、やっぱりいた。やっほー、あっくん。調子はどんな、感じ? 今日はあっくんが好きな、ピッツァポテトのビッグサイズを……」
まず見えたのは銀のショートカット。
背丈は小さめであり、体は華奢だ。とはいっても、やせ細っている、というより、引き締まった細さであり、美しいとさえいえる。
短パンから見える脚は特に綺麗であり、まるで日焼けなど知らないと言わんばかりの肌色だった。
まさに、絵本の中から飛び出てきたような人物の登場に、篤史と友里は目を丸くさせる。
だが、それは何も、彼らだけではない。
「ご、ごめん!! ま、まさかあっくんが彼女連れてきてるなんて思わなくて、その、えっと……ホントごめん!!」
慌てふためく相手に対し、篤史は溜息を吐きながら、言葉を投げかける。
「落ち着け翼。お前はとてつもない勘違いをしている」
「え、彼女じゃない……? ってことは、まさか、セフ……」
「言わせねぇぞこの馬鹿っ。よりにもよって、またなんつー勘違いにシフトしてんだ!!」
「だ、だって!! 家の人が誰もいない状況で女の人を連れ込むなんて、そういう関係と思うのが普通じゃないか!!」
「その言い分にはちょっと賛同したいが、状況を見て言いやがれ!!」
言われ、相手―――翼は、篤史と友里、そして周りの状況を一通り見渡す。
そして出た結論が。
「……あっくん。まさか、君が家庭教師プレイに目覚めているとは思ってなかったよ」
「オーケー。とりあえず、そこに正座しろ」
「え、だ、だってそうだろ!? あっくんの趣味はバニーガールとか、かなり際どい水着の女の子を相手にしたS〇プレイのはずじゃ……」
「よろしい。戦争の時間だ」
「あ、ちょ、ま―――ぎゃああああああああああああっ」
翼の言葉など無視しながら、篤史はその大きな手で、アイアンクローを決める。泣き叫ぶ翼に対し、しかし、篤史は一切手を緩めない。
そして、五分後。
「痛たたた……よ、容赦ないにも程があるよ、あっくん」
「喧しい。拳骨じゃないだけマシだと思え、この馬鹿」
「うう……」
涙目になりつつ、自分の頭を抑える翼の言葉をばっさりと切り捨てる篤史。
そんな篤史に対し、ようやく友里はテレパシーを送ってくる。
『あ、あのー。篤史さん? そちらの女性の方は……』
「女性……? ああ。そうか」
一瞬、眉をひそめた篤史だったが、何かを納得したようにうなずき、続けて言う。
「悪い、紹介が遅れたな。こいつは、矢部翼。俺の従弟で、正真正銘の男だ」
刹那、友里は静寂そのものと言っていいほど、静かになった。
そして、次の瞬間。
『い、従弟だとぉぉぉおおおおっ!? そして男だとぉぉぉおおおおおっ!?』
まるで、噴火の如き勢いで、そんなテレパシーを送ってきたのだった。
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