十二話 研究者が変人なのはよくあること
「―――で、ここにこれを持ってくれば、答えが出るってわけだ」
『おおう! 流石は数学王者!』
「誰が数学王者だ」
ツッコミをいれながら、篤史は友里に数学を教えていく。
場所は当然、篤史の家。
二階建ての一軒家は、どこにでもある普通の家だ。そして、二人はリビングで勉強をしていた。
二人っきりで。
そう。篤史の両親は現在、出張中で留守にしている。
普通なら、その点について不安になったり、警戒するのが普通だと思うのだが、むしろ友里は『よかったぁ』と安堵していた。
彼女にとってみれば、初対面の相手との会話はかなり緊張するものらしく、できれば他人とあまり関わりたくないらしい。故に、篤史の両親が留守、というのは友里にとって僥倖だった、というわけだ。
……とはいえ、流石に男の家に来て、全くの不用心というのも、問題ではあるが。
いや、それともただ単に篤史が舐められるからなのか……それは敢えて問わなかった。
『それにしても、意外です。篤史さんがこれだけ数学が得意だなんて」
「得意なわけじゃない。俺の親父……一応、大学の先生でな。で、その影響もあって、勉強を教えてもらうことがたまにあって、数学はまぁ……できる方だ」
『え、じゃあ篤史さんのお父さんって大学教授なんですか? 凄いじゃないですか!!』
「凄い……んだろうな。……普通の大学教授なら」
『?』
首を傾げる友里。
そんな彼女に対し、難しい顔をしながら篤史は言う。
「……親父が教えているのは、いわゆる心理学が専門でな。特に、超能力とか、そういう関連の。ああ、とは言っても、超能力を研究しているわけじゃなくて、超能力があると信じている人間がどういう心境や環境でなるのかっていうのをやってる」
超能力者を研究しているわけではなく、超能力を信じている人間の感情を調べている。
その答えに、友里はますます首を傾げており、まるで頭にハテナマークを浮かべているかのようだった。
『え、でも、私や篤史さんのように、超能力を持つ人はいるじゃないですか』
「ああ。超能力者は存在する……それも親父は理解してる。理解した上で、超能力に否定的なんだよ。何せ、世間一般的には超能力なんて認められてないからな。そんな中で、人が超能力を信じる過程とは一体何なのか。そういうのを研究してる」
『ええと……それはまた、奇妙な研究といいますか……』
「変わり者だってはっきり言っていいぞ。あの人、それ自覚してるし。今だって、母さんと一緒にとある宗教団体の調査行ってるほどだ」
『調査?』
ここでまた妙な単語が出てきたことで、友里は思わず続けて問いを投げかけた。
『何で、大学教授が宗教団体の調査なんてしてるんです?』
「さっきも言っただろ? 親父はあくまで、超能力を信じる人の心を研究してるって。宗教団体の中には、超常現象をやってのけて、あたかも超人的な力を持ってる、みたいな詐欺をやらかす連中が、まぁ結構いるんだよ。で、そんな連中に騙されている人たちこそ、親父の研究対象でもあるわけで」
『ああ、なるほど』
超能力を信じる人の心を研究するという意味では、確かにそういった宗教団体とかは、都合がいいのかもしれない。
『でも、どうしてお母さんも一緒に?』
「母さんは元マジシャンでな。母さんがやるマジック自体は地味だが、あの人は他人の手品を見破る天才なんだ」
『ああ、それでその人たちが本物かどうか、真偽を判断してると?』
「そういうことだ。で、調査内容によっては宗教団体を潰してもいる。実際、親父と母さんは二人で怪しいある宗教団体をつぶしたことがあってな。そこから妙な噂が広まって、それを聞いた連中から依頼を受けるようになったんだ。そのせいで、時々、宗教団体の調査を受け持つようになってるんだよ。今じゃ、警察から内々に依頼が来ることもある」
普通なら、警察関係の仕事なのだが、それでも身内を信者にされた人や騙された人からの依頼がやってきては、篤史の両親は調査に赴いており、そして時にはその団体を潰して回っている。
とはいえ、中には『レアケース』なども存在し、だからこそ、母親が一緒に行動しているのだが……。
などと考えていると、友里が何やら難しげな顔になっていたのに気が付く。
「? どうかしたか」
『いやぁ……何というか、色々とツッコミどころ満載かつ、あまりに非日常な世界だったので……』
「非日常って……それを体現したかのような奴に言われてもな。部室をほぼ自分だけで使ってて、そこで一人遊び惚けてる残念美少女。外見は完璧なのに、中身がどこまでも人見知り。しかも、赤点までとる始末。こんなの、もう漫画やラノベでしか聞いたことねぇよ」
『えへへ。そんな~。私、漫画とかラノベのヒロインっぽいですか?』
「そして妙なところでプラス思考。ほんっと凄いな、ある意味で」
人と直接しゃべることが苦手であり、自分を陰キャだと言っているというのに、こういう時だけは何故かポジティブになる。
全く持って、不思議としか言えない生き物だ。
「そら、休憩は終わりだ。続きやるぞ」
『えぇ~、もう少し休憩しましょうよ~。具体的には、鬼面ヤイバーのゲームを三セットしてから……』
「さっさと、続きを、やるぞ、オーケー?」
『お、オーケーでぇーす……』
眼光を光らせる篤史に対し、友里は怯えながらも承諾し、勉強会は再開されたのだった。
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