二話 ログアウト不可のデスゲームってよくあったよね
時間は遡ること数日前。
夏休み直前の、ラノベ研究同好会の部室にて。
『最新鋭の仮想現実体験型ゲーム?』
その言葉を口にしながら、友里は少し首を傾けた。
『それっていわゆるVRってやつですか?』
「まぁそうだな。柊の知り合いがあるゲーム会社に勤めているらしくてな。今度、開発中の最新型のテスト体験に友達と参加しないかって誘われたらしいんだ」
『それで篤史さんにお声がかかった、というわけですか』
「ああ。加えて、俺の方からもう一人連れてきてほしいって言われてな。白澤、こういうの好きかと思ったんだが……」
『無論、行きますっ!!』
即答だった。
無表情ではあるが、しかし送られてきたテレパシーから、彼女の心がうきうきしているのを感じ取れる。
だが、それも当然だろう。
何せ、VRゲームと言えば、少し前までは漫画やラノベ、アニメなどでしかお目にかかれない空想上のゲーム機だった。その最新型をやれるとなれば、ゲームを嗜んでいる者なら誰だって喜ぶものだ。
『いやー、VRですかー。興味あったが、やったことなかったんですよねー』
「とはいえ、世のなかに出回っているものとは、少し違うらしいがな」
『? どういうことです?』
友里の問いに、篤史は敢えて、問いを投げかける形で返す。
「VRゲームと聞いたら、どういうものを想像する?」
『どういうものって……こう、ゴーグルみたいなのをつけてやるゲームでしょう?』
「だよな。俺もそう思った。けど、どうやら一般的に出回ってるやつとは違うらしくてな。ゴーグルのようなものをつけるんじゃなくて、巨大ポッドみたいな奴の中に入るタイプらしい」
柊曰く、脳だけではなく、五感全てを利用するため、身体全体を覆う必要があるらしい。そして、それにより、通常のVR以上によりリアルかつ応用の効いた仮想空間を体験できるという。
『あー、つまり、「ソー〇アートオンラ〇ン」ではなく、「ベ〇カース〇リートの亡霊」みたいな形状、というわけですね』
「うん。まさにその通りなんだが、そのたとえはやめろ。本当にやばいから」
どちらも日本を代表する作品故に、色々とまずい。
とはいえ、実際、友里の言う通りなため、否定できないところがまた痛いのだが。
「まぁでも、今回はゲームといっても、仮想世界を体験するだけらしい。アクションゲームとかRPGをやるわけじゃないから、そこは期待するな、と言ってたな」
『そうなんですか? てっきり、VR型モン〇ンをやるとばかり……』
「お前はさっきから攻めすぎだぞ……言っただろ。あくまでテスト。仮想空間を体験するのが目的だって。だから逆によりリアルな仮想現実を体験できるようになってるらしい。催しもいくつか用意してあるから、楽しみにしとけってよ」
最新型とはいえ、未だ開発中。テストも、改善点を見つけるためのものだ。そして、それを修正して、またテストして、再び修正しての繰り返し。ゆえに、今回のゲーム機が世に出回るのはもっとずっと先の話になるという。
だからこそ、ゲームソフトの方の開発はまだまだであり、今回やるのもただの体感型ゲームというやつらしい。
けれど、それでも最新鋭のVRゲームをやれることには違いなく、だからこそ、篤史も楽しみにしている。
『あっ、でもあれですね。VRっていえば、ログアウトできずに、そのままデスゲームが始まる前振りだったりして』
「縁起でもねぇこというなよ。っつか、お前はいつのラノベの話をしている」
『あ、それもそうですね……じゃあ、VRしてたらいつの間にか異世界に転移していたという今時の展開が待ち受けてたりして』
「だからそういうこと言うなって。っつーか、それももうちょっと古い感じになってるだろうが」
『いえいえ。それはあくまでネットで公開している小説上の話であって、市場ではまだまだいけますって』
「いや市場って何だよ。生々しいなオイ」
確かに、ネット小説の流行と実際に書籍になっている小説の流行は違うものの、それは今は置いておこう。
「っつーか、デスゲームだの異世界転移だの、そんなありもしないことで不安を煽るなよ。折角の招待だ。存分に遊びたいだろ」
『それもそうですね。それに、言霊って言葉もありますし。変なことを口走って、それが本当になったらたまったもんじゃありませんしね』
「分かってるなら、口にするなよ……」
などと言いつつ、そんなこと起こるわけがないが、と篤史は心の中で呟く。
しかし、この時彼は気づいていなかった。
自分たちのような超能力者という、世間一般的にはあり得ない存在がいることを。
ゆえに。
だからこそ、この世には絶対に起こりえないことなど、ないということを。
「あっ、そういえば、ゲームの舞台は夏のバカンスを想定して、常夏の海らしいぞ。んで、事前にどんな水着を着るのか考えとけだと」
『えっ、マジですか……んー、でも考えるの面倒くさいし、普通にスク水で行きましょうか』
「いや流石にそれはどうなんだ?」
などと、面倒くさがる友里に対し、そんな指摘をする篤史なのであった。
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