十話 不良は赤点をとるという風潮
今日は多分、もう一回投稿します!
「……どういうつもりってのは?」
下校時間。教室から去ろうとした篤史は投げかけられた問いに対し、質問で返していた。
クラスメイト達が帰ろうとしたり、部活に行こうとしている最中、大声で呼び止められたものだから、こちらを見る視線はかなり多い。正直、その視線は篤史には痛かった。
けれど、どうやら相手―――佐山にとってはそうでもなかったらしい。
「そのままの意味だ!! 何でお前が白澤さんと一緒にいるんだよ!!」
「いや、何でって言われても……」
まるで周りのことなど気にしてないと言わんばかりの佐山の態度。それだけ、彼は篤史に対して怒りを覚えているというわけなのだが……その内容はあまりにも首を捻るものだった。
そして、そう思っているは篤史だけではない。
『うわー。何ですかこの人。何で私と篤史さんが一緒にいることに怒ってるんですか? ちょっと意味が分からないんですけど』
全く持って同意である。
しかし、無視を決め込むわけにもいかない。さりとて、会話をする内容もまた、考えなければ余計な火種を撒きかねないのもまた事実。
『どうします、篤史さん』
『……白澤。流石に赤点のことを口にするのはNGだよな』
『もちろんです当然です当たり前ですというか本当に言わないでくださいお願いします』
『うん。分かったから、そんなに必死になるな……とはいえ、だ。この前のテストがちょっとできなかった、だから一緒に勉強する的なことは言ってもいいか?』
『それくらいなら、まぁ……』
承諾を得た篤史は、佐山に対し、冷静を装いながら、言い放つ。
「一緒に勉強するためだよ。この前の数学のテストで分からないところがあるからってことでな。俺に教えてほしいって頼まれたんだよ」
「そんなの、先生に聞けばいい話だろう。わざわざお前に教えてもらう必要はない」
ご尤も。
確かに、勉強が分からないのであれば、教師に聞くのが一般的なものだろう。生徒同士で教えた方が互いに理解を深めあえる、という意見もあるだろうが、しかしそれでも教科の先生に訊いた方が確実。
だとするのなら、その提案通り、先生に頼む方がいいのでは……。
『ちょ、ちょっと待ったぁ!! え? 何? 何ですか? 何納得しようとしてるんですか!! そこは速攻で否定してくださいよ!! というか、先生に教えてもらうとか、絶対無理ですから会話が続きませんから無言の無限地獄が続きますから!! なのでどうか見捨てないでください!!』
表には全く出ていないが、心の中ではまるで縋るように言ってくる友里。そして、普段の彼女を見ている篤史には、彼女が先生に一対一で勉強を教えてもらう姿が確かに思い浮かべない。
そもそも、だ。既に勉強を教えると篤史は言ったのだ。ならば、それを破るのは筋が通らないこと。
だからこそ、どうやってこの状況を打開しようか考えていたのだが。
「そもそも、お前みたいな赤点野郎に誰かを教える資格があるとでも?」
唐突に言われたその言葉に、彼は眉を顰める。
「俺は赤点を取ったことはないんだが……」
「嘘をつくな。お前が赤点常習犯だってことくらい、みんな知ってるぞ」
などと断言されてしまう。
その言葉に、思わず篤史は『え?』と心の中で驚きの声を零してしまった。そして、言葉を失っていた彼に対し、友里が心配の言葉を送ってくる。
『あ、篤史さん? 大丈夫ですか?』
『白澤……俺って、周りからそんなバカな奴だと思われてるのか?』
『いやぁ、どうなんですかね。私も篤史さん以外の人とはほとんど喋りませんから』
それもそうだった。
しかし、これはあまりにも予想外すぎる展開だ。確かに、篤史は人に胸を張れる点数をそこまでとっていない。それこそ、赤点ではないものの、平均点以下のものだってある。
だが、しかし、だ。
それでも、赤点常習犯という汚名は、全くの初耳であり、事実無根もいいところだ。
「いや、本当に俺は赤点はとったことがない」
「じゃあ、この前の数学のテスト、何点だったんだよ。言ってみろよ」
「九十七点」
「………………は?」
刹那、まるで時間が止まったかのような静けさが、教室を包み込む。
驚いているのは、何も佐山だけではない。彼の周りにいた者たち、ひいては篤史の点数を聞いた連中、皆が一切言葉を発していない。
それだけ、今の彼の言葉は信じられないものだった。
「う、嘘つけ! お前がそんな点数とれるわけが……!!」
「いや、本当だって。ほら」
と言いつつ、鞄の中から数学の答案用紙を取り出す。
そこには、篤史が言った点数が書かれてあり、無論、名前も篤史のもの。
「本当だ。凄い……」
「この前のテストって、結構難しかったよね? 平均点もかなり低かったって先生言ってたし」
「そのテストであの高得点って……」
ざわつき始めるクラスメイト達。それだけ、篤史が高得点をとっていたことが、驚きだったのだろう。
そして、それは何も彼らだけではない。
『うっわ、凄っ。篤史さんって頭良かったんですね』
『たまたまだ。そして数学だけだ。それ以外……特に、英語に関しては壊滅的と言っていい。それこそ、再試一歩手前だったからな』
何度も言うようだが、篤史は数学以外、得意と呼べる教科はない。いいや、苦手という分野が多いと言えるだろう。特に、英語。彼にとって、英語は昔からの超がつくほど苦手なものであり、簡単な英会話や単語以外は全く理解できていなかった。
とはいえ、それはまた別の話であり、今は置いておく。
あまり自分の点数をひけらかすような真似はしたくはなかったが、しかしそれでも高得点であることに変わりはなく、だからこそ説得力のある材料だと篤史は考える。
ゆえに、これならば流石の佐山も納得してくれるはず……。
「お前……さてはカンニングしたな? 人の答えを見てとったテストで、そんなドヤ顔して、お前恥ずかしくないのか?」
…………。
…………。
…………えぇ。
思わず、乾いたような声を心の中で吐露してしまうのだった。
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