一話 直接脳内に……!
人生初のラブコメ(らしきもの)です。
どうか、優しい目で見てください、
『取引をしましょう』
そんな言葉が頭の中に流れ込んでくる。
『この問題の答えを教えてくれたら、今日の放課後、美少女から貴方にコンビニのから揚げが御馳走されるでしょう。ですので、さぁ、この問題の答えを……』
『知るか。自分で考えろ』
そんな言葉を一蹴しながら、少年は目の前の問題を解いていく。
ここはとある学校のとあるクラス。そこでは現在、中間テストが行われていた。
『ぐぬぬ……から揚げでは不服だと? まさか、ポテトと一緒にしろと、そういうことですか』
『取り合えず、俺が取引に応じるというその考えから改めろ』
『くっ、仕方ない……分かりました。背に腹は代えられません。さらにコロッケも追加しましょう』
『さてはお前、話を聞いてねぇな?』
声の主に対し、少年ははぁ、とため息をつきながら呆れていた。
『そもそも、俺だってそこまでテストできる方じゃねぇんだよ。そんな俺の答えをカンニングしても、意味ねぇだろ』
『ふっ、そこについては大丈夫です。私は貴方より頭が悪い自信がありますので!』
『そこは堂々と言う場面じゃねぇだろ……というか、もう答えを聞いたところで無駄だろ』
『へ? それはどういう……』
『いやだって、もうチャイム鳴るし』
その言葉が声の主に伝わった刹那、テスト終了のチャイムが鳴る。
その後、頭の中で絶叫が鳴り響いたが、少年は無視を決め込むのだった。
*
うちの学校には妖精がいる。
白澤友里。このクラス、否、この学校において、一、二を争うほどの美貌の持ち主だ。
長い茶髪に透き通るような白い肌。体型も整っており、スラリとした細身の体は恐らく誰もが憧れるものだろう。そして何より、無表情が常であり、口数も少ない。いや、無口、と言っても差し支えがないだろう。
だというのに、何故かそこに惹かれてしまう、ミステリアスな雰囲気。
それらから、皆、彼女のことを裏では『妖精』と呼んでいたのだった。
そんな彼女を、複数の生徒たちが取り囲んでいる。
「ねぇねぇ、白澤さん。私たち、今からテスト終わりのカラオケに行くんだけど、一緒にいかない?」
「え……」
「ほら、俺達ってあんまし喋ったことないじゃん? 同じクラスなんだから、親睦を深めようって話になってさ」
「ね? 一緒に行こう? このとーり! お願い!!」
流石はクラスカースト上位にいる者たち、と言えばいいのか。クラスメイトとはいえ、そんなに仲が知れた者ではないというのに、平気な顔で遊びに誘うことができる。
そんな様子を、少年―――山上篤史は流石陽キャ、と思いながら見ていた。
唐突だが、山上篤史は現在、学校で浮いた存在になっていた。
別段、虐められているわけではない。単純に、避けられているのだ。まぁ、それも一種の虐めと言えばそうかもしれないが、避けているのは、嫌悪というより、恐怖、というものだろう。
その理由は、彼が先月、病院に三週間ほど入院していたのが原因。
入院した理由としては、他校の生徒数人と喧嘩をして、その結果、相手全員を病院送りにし、自らも怪我を負ったため、というもの。そこまででも問題はあるのだが、さらに厄介なのは、喧嘩の原因。
曰く、山上篤史は他校の女子生徒にストーカー行為を働き、挙句その女子生徒に暴行を加えた。その報復として、集団リンチにあったのだ、と。
(そんな事実は一切ないんだが……)
そもそも、それが事実ならば、学校に普通にこれていられるわけがない。少年院行きか、よくて別の学校へ転校しているはずだ。
確かに、他校の男子生徒数人と喧嘩をし、その結果、入院することになったのは事実だ。だが、喧嘩の原因は全く別のものであり、そもそも篤史は女を殴ったことなど一度もない。
けれど、噂というのは一種の娯楽だ。
特に自分や自分の周りに関係ないものならば、人は平気でそれを広める。加えて言うのなら、それが他人の不幸や侮蔑するべき内容なら尚更だ。
とは言っても、今回の場合、篤史は自分だけではなく、相手全員病院送りにしている。ゆえに、噂はするものの、返り討ちになりたくないから、ちょっかいはかけてこない、と言ったところだろう。
(まぁ、こっちとしては、余計なことをせずに済むから別にいいんだが)
元々人付き合いは、そこまでうまくはなかったし、どちらかというと面倒だと思っている方だ。
奇異の目で見られるのはあまりいい気分ではないが、それでもちょっかいをかけてこられるよりは、だいぶマシだろう。
(さて、と。放課後になったことだし、さっさと帰って夕飯の買い物にでも行こう)
そう思い、立ち上がった際、白澤が、ふとこちらを一瞥する。完全に目があった。が、しかし篤史はというと、何もせずに、そのまま立ち去ろうとする。
刹那。
『ちょっと待ったぁぁぁぁぁあああああっ!!』
と、そこで声が聞こえる。
いや、正確には頭の中で響いていた。それは頭に響くほどの音量、というわけではない。この声は篤史の頭の中にしか聞こえていないのだ。事実、他の者はだれ一人としてこの声に気づいていないのだから。
『人が大ピンチって時に、無視ですかスルーですか放置ですかそれでもあなたは人間なんですか!!』
罵倒をぶつけてくる声。
それに対し、篤史は白澤友里の方に目線を向けながら、心の中で言い放つ。
『ったく、ぎゃあぎゃあ喚くな。頭に響く。というか、どこがピンチだ。遊びに誘われてるだけだろうが、さっさとOKして一緒に行きゃいいだろ』
『いやいやいやいや!? このオタク陰キャの権化たる私が、陽キャ連中とカラオケに行くとか、地獄でしかないでしょう!? 何歌えばいいんですか。日曜朝八時からやってる仮面のヒーローのオープニング歌って死ねとでも!?』
『知るか。というか、今は朝八時じゃなくて、九時だった気がするぞ』
『シャラップ!! とにかく、助けてくださいよぉ~。陽キャたちとどこかに出かけるとか、絶対に無理ですぅ~。助けてくれたら、何でも言うこと聞いてあげますからぁ~。具体的には、裸エプロンで料理作ってあげますから~』
『おいこら何さらっととんでもないこと言ってやがる。っつーか、どこの世界にクラスメイトに裸エプロンを要求する奴がいるんだよ。っというか、何でそれだけのアクティブさがあって、連中と遊びに行くのが嫌なんだよ』
『え、そりゃ当然じゃないですか。知らない連中と遊ぶより、篤史さんで遊ぶ方が面白いし、退屈しないし』
『何でそこで、俺で、になるんだよ。俺はお前の玩具じゃあない。以上』
『わーっ!! ごめんなさいごめんなさい私が悪かったです調子に乗りました後で全裸で土下座しますからどうか許してくださいそしてこの状況をどうにかしてくださぁぁぁい!!』
必死の呼びかけに、篤史は思わずため息を吐きながら、方向転換し、白澤を囲んでいる連中に近づいていった。
そして。
「―――悪いな。そいつは俺と先約があるんでな」
そんな、篤史の言葉に、一同は驚きの顔を見せたのだった。
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