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祭壇の中にあったモノ

 昨日に警察の鑑識が入って遺体その他を搬出したので臭いや遺体からの体液等の染み込んだ染みは残るが、今のところは祭壇があるだけの空っぽの小汚い部屋だ。


「しょうがないじゃん。うちの専属のくせに、宮っちが嫌だって持っていってくれなかったんだもん。」


 宮辺みやべ壮大そうたは中肉中背のどこにでもいる外見の男でもあるが、中身がどこにでもいない男である。

 その中身を髙に目をつけられて本部から相模原東署の特対課専任鑑識班の主任として引き抜かれたが、最近楊に対してストライキに近い行動を取るようになってしまっている。

 楊はその理由を、宮辺が愛してやまない玄人が山口と恋仲になった事が、楊のせいだと宮辺が思っているからだと思っている。


「ねえ、宮っちは何とかなんない?俺にストライキはまだいいんだけどさあ、俺に会うとこれ見よがしに鼻を鳴らすんだよ。」


「健康診断をしました?宮辺は病気の臭いに敏感ですよ。」

「うそ。」


 髙は楊の怯え具合を鼻で嗤うと、嫌味のように首を回した。


「楽しい旅行の余韻をまだ味わっていたいのにねぇ。」

「いいじゃん。信者の足取りと白波八幡神社の調査を嫌がっていたでしょ。」

「あぁ、普通の刑事に戻りたい。」


「じゃあどうして髙はこんな課を作ったんだよ。」


「死人関係は普通はめったにない筈だからさぁ、楽できると思ったんだよねぇ。始末の仕方はかわさんに教えたでしょう。」


 不可解で残虐な事件の捜査途中でそれが死人絡みであったと発覚する事が何度かあったがために、公安の人間は死人の取扱を熟知している者が多く、また、人知れず動ける公安だからこそ死人専門に動いている者もいる。

 楊の新設の課を作るにあたり、署長と密談を重ねていたのは楊ではなく元公安の髙だ。

 そのため、事件には楊が表立って動くが、事件を闇に葬る必要が出来た時には髙が動くのである。


「この間まで死人も知らなかった俺には、これはどうして良いかわからないもの。」


 楊ががたっと乱暴に祭壇の扉を開けると、水野が逃げてしまった不気味なものが現れた。

 それは頭の大きな胎児に近い形をしているが、パンパンに膨れた動く肉塊にしか見えないのは、それには眼も耳も有る筈の場所に何もないからである。

 甲虫の幼虫にも似たそれは、唯一人間らしく残っている小さな唇から小さな舌を出しては必死に何かを舐め取っていた。


「赤ん坊?」


「ミイラ化した人間の血を啜っていた。もう、意味わかんないし、何これって奴。ミイラ化した奴は宮っちが骨格と歯の並びから城嶋達哉だろうって。」


「そう、で、こっちは玄人君に頼めば良いでしょう。形は異常でも見たところ普通の死人でしょう。もうすぐ赤ちゃんを迎える人にこんなの見せないでよ。あの玄人君でさえ、もうすぐ子供を迎える僕の為にと、子供の死人の顔を本来の年齢の老人に変えてくれたよ。子供の命を奪ったと僕に思わせないようにっていう心遣いなんだろうね。あの子は本当にいい子。」


 楊は大きく溜息をついた。

 玄人は白波神社の血を引き、そして武本の飯綱使いという血を引いているためか、通常の死人ならばただの死体に戻せるのである。


 ちなみに飯綱使いとして彼が使う生き物が白いオコジョである。

 楊は以前オコジョを使う力を玄人から一時的に与えられて以来、幽霊も見えない楊の側をうろちょろしているオコジョを見る事も可愛がることもできる様になっている。

 三体のオコジョはこの汚れた現場を嫌がってか、楊のベルトに前脚をかけた姿で仲良く三体がしがみ付いていた。

 可愛いが、邪魔だ。しかし、可愛いから彼はそのままにしている。


「昨夜の十時過ぎに電話したらさ、あのちびが怒ってね。明日の僕は朝五時に叩き起こされるから八時から寝ているのにこんな時間に起こしたって。お前はどんだけお子様だよ、と。それで、怒るあいつが言うにはね、それは僕には無理だって。死人じゃないよって。」


 髙が体の向きがばっと勢いよく変え、祭壇の中の蠢く赤ん坊のような肉塊を再び見返した。

 それは芋虫のようにうつ伏せで蠢き、カブトムシが樹液を舐め取るようにひたすら血の跡らしいものを舐めている。


「それじゃあ、何これ?」

「神様だって。ヒルコ。」

「それで、どうしたらいいの?」

「髙がわからない?」


「僕にこれの後始末の無理強いをするのなら、僕は退職願いを出していい?」

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