ガキを尋問した方が早そうだ(BY楊)
「これで死人が倒せるのですか?課長、俺にも見せていただけますか?」
幼女の隣の五月女が、楊が持つ武器に感嘆した様子で両手を差し出した。
五月女こそ死人に噛みつかれてるという大怪我を負ったばかりであり、一撃で倒せる武器と聞けば気が逸るのも当たり前だろうと楊は五月女に武器を手渡そうとした。
しかし、五月女の隣に座る矢那の無感動な声で語られた真実を聞くや、五月女は楊に差し出していた両手を簡単に引っ込めた。
楊も矢那から手渡された素晴らしいはずの武器を、簡単に放棄するほどの真実だった。
「刺すだけですわ。軽くのど仏を。でもね、まゆゆ大好きって念じて叫ばないと駄目なんですって。そうしないとまゆゆの力が使えないそうですの。」
「返す。」
矢那は母親のように「わかるわ。」と言い、ハンカチに包みなおしてオバサンバッグに再び片した。
楊はその数分間の出来事は一瞬で消去して、三人の部下へと振り返り、そして、がっかりとした。
彼らは楊抜きで勝手に話を進めていたのである。
「お前等、遊んでないで白塗りになっていない純粋な被害者リストぐらい作っておけよ。それから生きて逃げ切ったヤツもな。」
ホワイトボードに、「かわちゃんちプディングパーティお泊り会」の集合時間や持ち寄りの物などを書き込んでいた水野が反応した。
「いるの?」
「いますよ。パソコン教室で俺達を襲ってきた斉藤悠児の母親と清水宏一の母親、それから早河芳雄の母親に行方不明の三谷の母親と妹が無事ですね。近藤の母親は十年以上前から行方不明ですからこれは除外します。」
葉山は自分が作った報告書を近くにいた佐藤に渡し、報告書を開いて読み出した佐藤の後ろから水野がひょいと頭を突っ込んだ。
三谷、近藤、斉藤と清水、そして早河は高校生時代の五人グループであり、その頃に神奈川県内で年下の少年少女を狩っていた過去を持つ。
同じく当時高校生だった水野と佐藤によって仕置きを受けた彼らは、裕福な親によって神奈川県外へと逃げていた筈であった。
それがなぜか半年前から神奈川県内に同時に戻って来ていたのである。
楊と葉山は神奈川県内の彼らの実家を訪問し、全て東原一族と同じように殺害現場となっていた事を確かめたのだが、部屋には同じ物が存在していたことに気が付いた。
最後に回った近藤悠の自宅も、祖母と父親がどの家とも同じように撲殺されていた。
「またですね。かわさん。」
どの家の東南、あるいは東の方角に当たる位置に簡易の神棚のような棚が天井近くに設置されていたのである。
最近の家では神棚を置ける場所はないためか、上部が神棚っぽく装飾されたの鳥の巣箱のような形のものがどの家の壁に直接設置されていた。
そして、撲殺された遺体の転がる部屋には、必ずその神棚があったのである。
その連続性に楊は高部夫妻の殺害現場を再び確認すると、やはりその部屋にも神棚はなかったが共通している物があったのである。
飾りはないが観音開きの小さな箱が、天井近くの壁に設置されていたのだ。
「この扉を開けると、同じ神様がいるのだろうね。葉山君お願い。」
葉山は素直に従ったが、危険なものを部下に楊が押し付けたわけではなく、自称百七十五センチの楊に対して葉山は確実に百八十センチ近くあるというだけの話である。
葉山が神棚の扉を開けると、出てきた札は「白波八幡大菩薩」であった。
「ねぇ、それじゃあ、クロの神社のお札と神棚ってこと?白波八幡大菩薩って。」
水野がフランクな口調で声をあげた。
楊も葉山も以前に貰った札と違うと思いながらも、玄人の母方の実家の神社の事を考えていたのだ。
楊と葉山は一月四日に新潟県警との合同研修を控えており、三日に矢那を連れて新潟に出向く予定である。
その時に宿として世話になる白波家に伺いを立てようと、一先ず置いておいた懸念事項なのである。
「そんなわけないじゃない!あちらは新興宗教の、白波の名前を騙るだけのキツネよ!嫌らしく五年前に神社から見下ろせる場所に道場を作った異教徒共よ!」
小さな子供の叫びに、再び全員の視線が幼女に集まった。
「ヤナ子!お前知っていること洗いざらい吐け。せっかくの署内見学だ。尋問室で大昔の尋問方法を体験させてやろうか。指鉛筆は凄い痛いぞ!」
「かわさん。子供でしょう。」